トップリーグ優勝2回、日本選手権の優勝回数は歴代最多を誇る強豪、神戸製鋼コベルコスティーラーズ。そのチームで歴代最長の5年間、主将を務めた橋本大輝選手。ラグビー選手として輝かしい経歴を築いてきた彼のチカラとなったのは、エリート選手に対するコンプレックスだという。弱小校で鍛えられた根性でトップリーグまで上り詰めた道のりや、若手選手の育成法について語ってくれました。

―ラグビー弱小校で培った根性のおかげで、今の僕がある!
神戸製鋼コベルコスティーラーズに入れて、主将まで務めさせていただいた僕は、かなりの強運の持ち主だと感じています。なぜなら、僕はいわゆるエリート街道とは程遠いラグビー人生を歩んできたので。

小学1年の時にラグビーを始めたのも、友人に誘われてなんとなくスクールへ通うようになったからです。当初は楽しくもなく、嫌々通っていたのですが……自分が「やりたい!」と言って始めたこともあって、やめると言い出せなくて(笑)。続けるうち、なんとなくラグビーをすることが当然のようになっていました。

高校受験を控える頃には、強豪校でプレーしたい!と思うようになりました。しかし第1志望に落ちてしまい、滑り止めで受けていた九州国際大学付属高校に入学しました。当時、ラグビー部の部員のほとんどは初心者。基礎を叩き込まれるばかりで、試合に勝つための練習をしたかった僕としてはフラストレーションがたまる日々でしたね。

しかも上下関係が特段厳しい部だったので、先輩はもちろん、監督になんて絶対に意見できない。肉体、精神ともに徹底的に鍛えられた高校時代でした。理不尽に打ち勝ち、厳しい練習を根性で乗り越える。でもこうやって振り返ると、そんな3年間を経験していなかったら今の僕はなかったと改めて感じますね。

―エリートに対するコンプレックスが努力の糧に
大学は関東へ行きたいと志望したのですが、監督から京都産業大学を勧められました。もちろんNOとは言えず……不満はありましたが、言われるままに進学 。

しかしそのおかげで大学2年の時、U23日本代表に選ばれたんです!  U23日本代表のメンバーの多くは、通称「花園」と言われる全国高校ラグビー大会への出場経験を持ち、トップリーグの若手選手、早稲田大学、慶応大学、明治大学、同志社大学などの強豪チームに属するスーパーエリート。経歴では圧倒的に劣る僕が、肩を並べてプレーできることを誇らしく感じるのと同時に、ここまできたら負けたくない!いや、勝ってやる!と、以前にも増して練習に熱が入るようになりました。

「エリートに負けてたまるか!」という反骨精神が芽生えたのも、ちょうどこの頃。それまでは「ラグビーは大学まで」という意識でしたが、僕もトップリーグで活躍できるかもしれない!という希望が生まれました。

だからこそ、憧れの神戸製鋼コベルコスティーラーズに加入が決まった時は感無量でしたね。高校生の頃はトップリーグでプレーするなんて夢のまた夢でしたし……ましてや、主将を務めさせてもらえるなんて!

―人は、自分で気づけないと成長できない!
主将に任命されたのは25歳の時。正直、プレッシャーしかなかったですよ。主将としてどうあるべきか、どう行動すべきか……考えれば考えるほど答えから遠ざかってしまって。最終的に「部員のお手本となるような行動を取ろう!」というシンプルな答えにたどり着きました。

これは自分がかねてからモットーとしていたことでもあります。自分も含めてですけど、人って自分で気付かないと成長できないと思うんですよ。人から言われたことをただこなすだけじゃ身にならないし、一定のレベルを超えられない。だから僕は、あえて言葉で注意することはせず行動で示すようにしたんです。

神戸製鋼コベルコスティーラーズに入って2年目のとき、力不足を自覚してシーズンオフでも自主トレを始めたんです。当時、オフ期間に自主トレを行っている選手は少人数でしたが、僕たちが頑張っている姿、成長する過程を見て、自主トレをする選手がどんどん増えていった。今では、ほとんどの選手がオフ期間にもかかわらず自主トレをしています。

もちろん、言わないと気付けない選手もいますけどね(笑)。そういう時は、飲みの席でさらっとアドバイスしていました。僕、話し下手なんですよ。だから言いにくいことがある時、言いたくないけど言わなきゃいけない時などはお酒の力を借ります。昔、僕は先輩と話すたびにド緊張していましたが、今の若手は堂々としている子が多い。そんな後輩を「かわいいな」と感じる自分を自覚して「ああ、年をとったな……」なんてしみじみ思う今日この頃です(笑)。

―チームのために、残りの選手生命を賭ける
僕が主将を退任した当時は、まだまだ選手ひとりひとりの精神力が弱かった。でもここ数年で彼らは目覚ましいほどの成長を遂げています。それまでは人がやっているから自分もしようという雰囲気でしたが、最近では自分に足りないものを自ら分析し、補助するための自主トレを考え、1週間の計画を立てられるようになりました。

現役選手としてプレーできるのも残り数年。今後も“チームの強化”を目標に、若手選手の手本となる態度や行動を示していくのみです!

橋本大輝(はしもと・だいき)1987年2月7日生まれ、福岡県出身。ポジション:フランカー、184cm/100kg。小学1年の時に友人に誘われ、地元・北九州市のラグビースクールに通い始める。ラグビー強豪校である福岡県立小倉高校を目指すも受験に失敗し、九州国際大学付属高等学校に入学。京都産業大学を経て、09年に神戸製鋼コベルコスティーラーズに加入。12年、同チームの主将に就任し、5年に渡りチームを引率。主将在任期間は、チーム歴代の最長記録。