CNNとYouTubeが共催した民主党候補の討論会は、何はともあれ、観ていて面白かった。CNNが「歴史的・画期的」と自画自賛しているほど「地殻変動的」な出来事だったのかはともかくとして。子どものころ、1976年のカーター対フォードの大統領テレビ討論を夢中になって見て以来、色々な大統領選で色々なテレビ討論会を見てきたが、日本時間24日午前に開かれたYouTube/CNN討論会は、その中でもかなり面白いものだった。(goo ニュース 加藤祐子)

討論会の主な内容はこちらや、本家CNNの日本語版サイトで見ていただくとして。私が何より爆笑したのは、「テネシー出身」お笑い2人組の投稿ビデオ(開くといきなり音が出ます)。強烈なテネシーなまりで「アル・ゴアが出るのか出ないのか未だに注目されてることに、皆さんは傷ついてるんですかね」とまくしたてた。

これに爆笑する会場、そして苦笑する候補たち、「傷ついてる人いますか? いませんか?」と受け流す司会のアンダーソン・クーパー、さらには「これで傷つくのはテネシーの人じゃないのかな」と巧いことを言ったつもりがあまり面白くなかったジョー・バイデン上院議員の空回りする努力――などなどを見ていて、いかにアメリカの選挙で「笑い」の要素が大切か、改めて思った。特に「自分を笑い者に出来ること」が、アメリカの選挙で、ひいてはアメリカ社会で、いかに大切か。

2000年大統領選をああいう形で負けてしまったアル・ゴア前副大統領は、「ユーモアのない男」「ロボット的」「人間味がない」というレッテルを外そうとしてなのか、その後たびたび長寿お笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演し、自己パロディを演じていた。今年のアカデミー賞授賞式でも、出馬するのかしないのかという世間の注目をネタに、レオナルド・ディカプリオとちょっとした一席を披露した(「世界中が注目しているこの場を利用して、何か重大な、重大な発表はないんですか」としつこく食い下がるディカプリオに、ついに「それではせっかくなので……」と何か発表しそうになると、退場の音楽にかき消されるというオチ)。

ブッシュ大統領も、ことあるごとに自分をサカナにジョークを披露している。いかに「nuclear(核)」という単語をきちんと発音できないか(「ニュークリア」と言うべきところを、大統領は「ヌーキュラー」と言う)。いかに自分は、本も新聞も読まない早寝の無能者で、国を本当に動かしているのは副大統領やローブ政治顧問や妻のローラか。などなどを「持ちネタ」として、パーティなどで繰り返し披露している(それを面白いネタだと思うか、本当にそうなのだから困ったものだと呆れるかは、あなた次第)。

そして、日本の政治家のテレビ討論がひたすらつまらないのは、この「笑い」の要素が欠けているからだと強く思った。上記したゴア、ブッシュ両氏の「笑い」のように、あらかじめスピーチライターが練り上げた「作られた笑い」もそうだが、今回のYouTube/CNN討論会で見られたような、瞬時の当意即妙。いわゆる「ウィット」。これが、アメリカ(そしてイギリス)では政治家の必須科目だからだ。

軽口をたたく瞬間。それは極論すれば、その人の性格や人格そのものが現れてしまう瞬間だ。そして米政界では、常にそれを要求されている。そしてもちろん、調子に乗りすぎて失言してはならない(たとえば去年は「マカカ」発言というのがあった)。いやはや、大変にくたびれる世界だなと思う。

今回の討論会ではたとえば、温暖化対策を訴える雪だるまの親子とか、「税金が高すぎる〜♪ 子どもたちを大学にやるにも税金がかかる〜♪ ので、僕は大学にいけない〜♪ どうにかしてくれますか〜♪ ついでに言うと先週、駐車違反のキップを切られたんだけど、誰か恩赦してくれませんかね」というビデオが流れた際に、どう反応するか。どれぐらい笑うか。どうやって笑うか。候補の反応を、世界はじっと見ている。

(ついでに言えば、強面すぎてユーモア感覚が足りないと言われがちなヒラリー・クリントン上院議員は、「アル・ゴアが注目されて傷ついてませんか」ビデオでかなり楽しそうに笑っていた。ああいう表情がテレビで繰り返し放送されることが、アメリカの選挙ではすさまじく重要なのだ)

そして「ウィット」という意味で注目されたのが、「バラク・オバマは<黒人度>が足りない。ヒラリー・クリントンは<女らしさ>が足りない、という意見をどう思うか」という質問への、当の本人たちの対応だ。

少し解説すると、当選すればオバマ氏は初のアフリカ系、クリントン氏は初の女性の大統領となるわけで、これまでの固定概念で言えば「アフリカ系」あるいは「女性」というのは大統領になるにはハンデだった。しかし今回の選挙ではむしろ逆に、「オバマはケニヤ人の父と白人の母の息子で、いわゆる『奴隷の子孫』ではない。つまりいわゆる『アフリカ系アメリカ人』ではない」とか、「ヒラリーは男みたいにガチガチ強面で、目的至上主義で冷徹で、女らしさが足りない」とかいう意見が、取りざたされている。主にアフリカ系市民グループや女性グループなどによって。つまり、マイノリティグループ内のお互いに対する差別意識が露呈されるという、なかなか奇妙な事態になっているのだ。

そういう状況について主要メディアが、2人に直接質問する場面というのは、なかなか考えにくかった。YouTubeを介した一般市民からの質問だったからこそ、当人たちにじかに質問できて、かつそれが生中継された。大手メディアは質問しないが大勢が注目している、そういう内容について本人たちに質問して、その答え方を世界中が共有できるというのが、まさに今回のYouTube討論会の意義だったと思う。

そして「笑い」の話に戻れば、2人は(おそらくこの手の質問がくると予想していたのかもしれないが)、ひとまずは「ウィット」で応じようとした。そこがとても好感できて、かつとても米英的だった(あえてここに「英」を入れるのは、あの国ではウィットは政治家の必須条件だから。映画「ラブ・アクチュアリー」参照)。

オバマ議員は「黒人度が足りない」と言われて、「そう言うけど、マンハッタンでタクシーをつかまえるときは、身分証を出さなきゃならなかったし」と切り返した(マンハッタンでは、アフリカ系は乗車拒否されがちだというのが通説)。そしてクリントン議員は「女性らしさが足りない」と言われて、「そう言っても、私は女性候補以外の何者にもなれないし」と返答。

すごく面白い答えか?――と言われれば、そんなに面白くない。でも、あんまり面白くなかっただけに、構成作家に用意させたジョークではおそらくないな、自分の言葉で笑わせようとしてるんだなという、その姿勢が伝わった。2人は政治家であってプロのお笑いではないので、その姿勢で十分だと私は思った。2人があの討論会に出た意義が、これで十分にあったのだろうなと。

クリントン議員はさらに、「ブッシュ一族とクリントン一族の支配が続きすぎてると思いませんか」という質問にも、「ブッシュが2000年に当選したのは確かに問題だと思う。別の人が当選したはずだと思ったのに」と即答。民主党支持者の集まった会場を大いに喜ばせた。

今回の討論会が面白かった理由はこうした「笑い」の要素のほかに(「面白い」に語弊があるとしたら、「興味深かった」)、「怒り」や「悲しみ」といった生の感情にあった。一般市民の感情が実に生々しく、かつ恐ろしいほど冷静に、候補者につきつけられたからだ。<政治集会やタウンホールミーティングに出かけていって質問する人>という限定性もなく、大勢とテレビカメラの前で立ち上がって質問する時の緊張もなく、あがることもなく、ビデオの中の人たちは主に自宅で、リラックスして、そして恐ろしいほど冷静に、候補者に問いかけていた。

(投稿者の言葉を信じるとして)長男をイラクで失った父親。医療保険がなくて適切ながん治療を受けられなかったと訴える女性(彼女がかつらをバサッと外して、髪の抜け落ちた頭をさらけだした時の、あの凍り付いた一瞬!)。息子が近々2度目のイラクに行くという母親。「私たちの結婚を認めてくれますか」という女性同士のカップル。

こういう一般の人たちの生々しい表情を見て、質問を聞いて、そしてそれを受ける政治家の生々しい表情を見る……。これこそが、今回の討論会の主眼目だった。候補が政策について語るのを聞く、唯一の機会がテレビ討論会だった昔ならいざ知らず。今では各候補のホームページに行って政見を読んだり、演説のビデオを見ればいいのだ(そしてこのコラムでは、これから追々、取り上げていきます)。

こういうライブのテレビ討論会で大事なのは、政策について何を語るかよりも(もちろんそれも大事だが)、その人の表情・答え方・立ち居振る舞いから伝わってくる、その人の人間としてのありようだ。ちなみに上のほうで、ジョークが「空回り」と書いてしまったバイデン議員は、ライフル銃を「僕の大事なベビー」と呼ぶ投稿ビデオを見て、嫌悪感もあらわに「あれが彼のベビーだっていうなら、彼は治療を受けたほうがいい」とバッサリ。会場大拍手。そして私の好感度も一気にアップした。あれはまさに、バイデン議員の本音だった。つまり私たちは、政治家の本音が見たいし、聞きたいのだ。

台本が周到に用意されたやりとりではなく、一般有権者からの本音の問いかけに、候補者がどう反応するか。世界唯一の超大国の指導者となるべき人間の「人間性」を見極められる、そんな貴重な機会を日本にいながらにして共有できる。そういう意味でも、これはかなり面白い討論会だった。まさに、インターネット様々。

その意味でひとつ気になるのは、肝心の討論会がCNN中継のみでYouTube上で見られなかったこと(私がリンクを見つけ損ねただけなら、ごめんなさい)。YouTube上では未だに、ユーザー投稿のCNN画像はあるが、「正式」のCNN画像が見つからない。相互乗り入れじゃないのか。CNNはこの期に及んで、討論会映像について自分たちの著作権を守ってるのか。それはちょっと中途半端じゃないのかなあ。

蛇足。きわめて個人的な感想でいえば、ヒラリー・クリントンは余裕たっぷり経験十分な「大統領」に見えた。彼女の両隣に立っていたせいもあるけれども、バラク・オバマやジョン・エドワーズは若々しくて有能な副大統領に見えた。ジョー・バイデンは、いい大統領か、いい国務長官になるだろうなと思えた(支持者たちが組織票的に同じ内容のビデオを投稿したのはいただけないが)。そして司会のアンダーソン・クーパーは、「質問に答えてください」と何度も釘をさしては仕切りを見事にこなし(グラベル元議員からは「私にもっと話をさせろ! 不公平だ!」と文句を言われてはいたが)、なかなか大した手綱さばきだった。感心した)


ソーシャルブックマークに追加: gooブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに追加 はてなブックマークに追加 Buzzurlに追加 livedoorクリップに追加 FC2ブックマークに追加 newsingに追加 イザ!に追加 deliciousに追加


<これまでの大統領選コラム>

大手町から見る米大統領選、コラム開始 まずは登場人物紹介から (1回目)


<このコラムを書くために筆者が参考にした主なサイト>
CNN Election Center 2008 CNN本家の選挙特集
   YouTube討論のやりとり全文その1(英語)
   YouTube討論のやりとり全文その2(英語)
Tech President   「大統領候補がインターネットをどう使っているか」に注目している
USA Election Polls   各種の世論調査をまとめている
Community Counts    CNN/YouTube討論で、取り上げるべき投稿ビデオの質問はどれか、ユーザ投票。取り上げられなかった質問に候補が答えたりも

民主党候補8人のサイト(アルファベット順)
Joe Biden for President
HillaryClinton.com
Chris Dodd for President
John Edwards for President
2008 Presidential Candidate: Senator Mike Gravel
Dennis Kucinich for President 2008
Welcome to Obama for America
Richardson for President

討論会について米メディアの評価
Test TubeThe Democrats' YouTube debate is surprisingly entertaining. Slate.com
ニューヨーク・タイムズ (YouTube討論会の記事たくさん)
Public Voice Adds Edge to Debate ワシントン・ポスト
What's Up?: Questions From the People, Sharp to Strange ワシントン・ポスト
Binary America: Split in Two by A Digital Divide ワシントン・ポスト(コンピューターを持つ経済的な余裕がなく、YouTube討論どころではない米市民の暮らしについて)

Digg から討論会についてブログ色々