クロアチアの首都・ザグレブに、世界中の人が訪れるちょっと変わった博物館があります。それが「失恋博物館」。

政府機関や博物館などが集まるザグレブの山の手、小高い丘の上に広がるゴルニィ・グラード地区に位置する、こぢんまりとした博物館です。

展示品は世界各地から寄付という形で集められ、それぞれの品には寄贈者のコメントが添えられています。

終わってしまった恋の「遺品」を寄贈することで、失恋の傷を癒してもらおうという思いから、世界を巡回する展覧会として始まり、2010年に常設の博物館として開館しました。

通常、博物館というと、人類の歴史にかかわる重要な品々や、有名人の記念品などが展示されているものですが、ここに展示されているのは、古い絵本やぬいぐるみ、ドレス、Tシャツ、カードゲーム、斧など、がらくたにも見えるようなものばかり。

人類の歴史には残らない、名もなき個人の恋愛にまつわる思い出の品々を紹介しているのです。

自分の恋の「遺品」を寄贈する動機は、単なる好奇心から、気持ちに区切りをつけるための儀式のような意味合いまで、人によってさまざま。

博物館自体がクロアチアにあるだけあって、やはりヨーロッパからの寄贈品が多数を占めますが、アメリカや台湾、フィリピン、ブラジルなど、その寄贈元は世界各地におよびます。

そんなユニークなコンセプトと展示によって、この博物館は「ヨーロピアン・ミュージアム・オブ・ザ・イヤー2011」で特別賞を受賞しました。失恋博物館は、いまやザグレブで最も人気のある観光名所のひとつであるといっても過言ではないのです。

館内では、恋の「遺品」を通して、どこにでもあるような青春時代の切なくも微笑ましい恋の思い出から、ドラッグ、浮気、ギャンブル、自殺といったシリアスなエピソードまで、さまざまな人間模様が繰り広げられています。

各展示品に添えられている説明はクロアチア語と英語ですが、日本語で書かれたパンフレットを貸してもらうことができるので、それぞれの品に込められた思いや背景をしっかりと理解することができますよ。

たとえば、ボブ・ディランの「タランチュラブック」は、とあるイギリス人女性がかつてのボーイフレンドからもらったもの。

しかし、そのボーイフレンドはのちに性転換をして、その女性の家族の名前を自分の女性名にしたのだそうです。

こちらの片方だけのハイヒールは、寄贈者のオランダ人女性がSMクラブで働き始めたときに履いていたもの。

そのとき、なんとお客さんとしてかつて両想いであった幼なじみの男性が現れました。ハイヒールのもう片方は、その男性が持ち帰ったそうです。

惨劇を想像させるこちらの斧。

これは、同性の恋人との破局が決定的になったドイツ人女性が、彼女が不在にしているあいだ、家にあった恋人の家具を毎日一つずつ壊すために使った斧なのだとか。

そうすることで、その女性はだんだんと気持ちが晴れていくのを感じたそうです。失恋の傷を癒す方法も、人それぞれですね。

ところで、この博物館の日本語での名称は「失恋博物館」ですが、英語表記は「Museun of Broken Relationships」。直訳すると「壊れた(人間)関係の博物館」という意味になります。

そのため、失恋に関する展示品だけでなく、亡くなった母親の遺品をなど、恋愛以外の失われた人間関係にまつわる展示品もあります。

展示品は時期によって入れ替わるため、実際にどんな思い出の品と出会えるのかは訪れたときのお楽しみです。

失恋博物館に足を運んで実感するのが、「人生とはドラマなのだ」ということ。

私たち一人ひとりの存在は、全世界から見るとちっぽけな存在かもしれません。名もない個人が恋に歓び、悩み、苦しんだところでこの世界に与える影響はゼロに等しいでしょう。

それでも、誰もがかけがえのないドラマを生きている。

失恋博物館が特別なのは、そんな名も無き個人のドラマに焦点を当てたからであり、一般の人々の等身大の思いや生き方が投影されているからこそ、多くの人々の共感を呼んでいるのです。

名前 失恋博物館
住所 Ćirilometodska ul. 2, 10000, Zagreb
電話 +385 1 4851 021
開館時間 6〜9月 9:00〜22:30、10〜5月 9:00〜21:00
公式HP https://brokenships.com/