弱冠24歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 番外編の今夜は、福島県の仁井田本家からコンセプトの違う3本を飲み比べ。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)

今宵は番外編! 熱狂的なファンを持つ仁井田本家から、人気の3本をセレクト。

福島県郡山市にある1711年創業の老舗酒蔵「仁井田本家」。無肥料、無農薬の自然栽培米を使い、自然を生かした酒造りにファンが多い。

父・徹也(以下、テツヤ)「ずらりとグラスが並んだねぇ」
娘・ひいな(以下、ひいな)「次は番外編として、今までどうして出てこなかったんだろう?っていうお酒をご紹介します」
テツヤ「『越乃寒梅』? 『八海山』?」
ひいな「違います(笑)。私が20歳になりたての頃によく買ってたお酒なんだけど」
テツヤ「4年前ってことか。なんだろう?」
ひいな「『にいだしぜんしゅ』を出してる仁井田本家のお酒です!」
テツヤ「おぉ。仁井田本家の3本なんだな。仁井田本家ってどこにあるの?」

ひいな「福島県の郡山市」
テツヤ「へぇ」
ひいな「今回の番外編は、仁井田本家の3本を飲み比べてみたいと思います!」
テツヤ「イェ〜イ!」
ひいな「仁井田本家さんとのつきあいは、福島のお酒フェアみたいなイベントが新橋駅で2年前ぐらいにあった時に、女将さんがPRで来てらっしゃって」
テツヤ「新橋の駅前といえば、SL広場でやってたのかな?」
ひいな「そうそう。そこで女将さんと初めて名刺交換させていただいて」
テツヤ「へぇ」
ひいな「この間、Clubhouseでも女将さんとお話しして、私のこと覚えてくださったの!」
テツヤ「あらあら、ありがとうございます」
ひいな「その仁井田本家さんのお酒を今回は3本、ご紹介します!」
テツヤ「はい!」

ひいな「『にいだしぜんしゅ』の純米原酒、『おだやか』の純米吟醸、『田村』の純米吟醸の3本です」
テツヤ「同じ蔵でも見た目からぜんぜん違うんだねぇ」
ひいな「それぞれコンセプトが違ってるお酒だから、味わいもいろいろでおもしろいと思うよ。とりあえず飲んでみようかな」
テツヤ「じゃ、飲んでどれが好きかって正直に言ってもいい?」
ひいな「いいよ、いいよ」
テツヤ「この中だと『にいだしぜんしゅ』の純米原酒が一番濃そうだよね」

自然栽培米の旨みを存分に味わえる「にいだしぜんしゅ 純米原酒」
ラベルもシンプルな手書き文字。
720ml 1540円(税込・ひいな購入時価格)/有限会社仁井田本家

ひいな「そうだね。『にいだしぜんしゅ』から飲んでみる?」
テツヤ「OK! お。結構、色ついてるね」

まずは「しぜんしゅ 純米原酒」からいただきます!
お味はいかに?

ひいな&テツヤ「乾杯!」
ひいな「蔵のコンセプトとしては、100年後に誇れるものを造るっていうのが一貫してあって」
テツヤ「あぁ、おいしいね。でも、めっちゃ濃い! 本当に不思議なんだけど、なんとか本家って書いてある酒って全部うまそうなんだよな。次、『おだやか』いただきます!」
ひいな「早い(笑)」

かえるのラベルが目印。白糀酒母仕込みの甘みと酸味が飲みやすい「おだやか 純米吟醸」。
720ml 1650円(税込・ひいな購入時価格)/有限会社仁井田本家

テツヤ「うわ、『おだやか』は白いね! 色もぜんぜん違うね。全部純米なんだ」
ひいな「そう、純米と純米吟醸。どう?」
テツヤ「うん。酸味があって、飲みやすいね」
ひいな「でしょう?」
テツヤ「となると、『田村』が断然気になるな。早く全部飲んでみていい?」
ひいな「いいよ(笑)」

自社田米を使った生もと仕込みの「田村 純米吟醸」
1760円(各720ml、税込・ひいな購入時価格)/有限会社仁井田本家

テツヤ「俺、『田村』が一番いいわ」
ひいな「え? 本当に?」
テツヤ「この『田村』が一番スーッと入ってこない?」
ひいな「『田村』は、雑味が多いのが売りかと思ってたんだけど」
テツヤ「俺、雑味、大好きなんだよね」
ひいな「さすが。お酒弱い人の意見じゃないね(笑)」
テツヤ「俺は『田村』が好みだけど、ひいなは?」
ひいな「私は『おだやか』派」
テツヤ「俺は、断然『田村』だけど、日本酒知ってる人は『おだやか』なのかな?」
ひいな「いやいや(笑)。玄人こそ『田村』だと思うよ」
テツヤ「じゃ、俺は玄人だな」
ひいな「すごい意外だわ。どうして『田村』が好きだと思ったの?」
テツヤ「『田村』はね、ぬか臭さもありつつキレもある。抜ける感じがあるっていうか」
ひいな「なるほどね。意外だなぁ」
テツヤ「いいじゃない、意外で(笑)。みんなはどう? どれが好きだった?」
ライター・ヤブシタ「私は断然『おだやか』ですね」
母・美樹「私も『おだやか』かな」
編集・小倉「僕は『にいだしぜんしゅ』ですね」
ひいな「わぁ、バラけたね。同じ蔵でも3種類お酒を出してて、好き嫌いが分かれるところがいいなと思ってて」
テツヤ「すごいよね、確かに。同じ蔵なのに、こんなに意見が分かれるなんてね。でも、同じ蔵が出してるお酒っていう感じは通底してるよね」
ひいな「そうそう。そうなの!」

燗酒にして味わいの変化を楽しむ。ふくよかな味わいがさらに増し増しに。

ひいな「『にいだしぜんしゅ』のいいところは、燗につけるとおいしいところなんだよね」
テツヤ「え、そうなんだ。じゃ、燗にしてみようか」
ひいな「どれにする? 『にいだしぜんしゅ』がおいしいと思うけど」
テツヤ「『おだやか』は? 俺の中でまだピンときてないから、燗にして飲んで変化を楽しんでみたいね」
ひいな「了解」
(「おだやか」を燗につけて……)
テツヤ「何度くらい?」
ひいな「45度いかないくらいかな」
テツヤ「『おだやか』がどう変わるかな?」
ひいな「このお酒はね、自然派白麹酒母仕込みで、日本酒本来の味わいと香りをあえて控えめにすることで、冷やしておいしい現代のどんな食事にも合うお酒なんだって」
テツヤ「それを燗にしちゃうんだな(笑)」
ひいな「そう(笑)。『おだやか』を燗にする日が来るとは思わなかったな。今の杜氏が18代目の仁井田穏彦(やすひこ)さんなんだけど」
テツヤ「え、ちょっと待って。18代目? すごいな。将軍家みたいだね」
ひいな「修業先から実家に戻った時に立ち上げたブランドで、穏彦さんの穏の字をとって『おだやか』なんだって。燗できました!」

テツヤ「いただきます! わー! ひいな、俺こっちのほう好き。めっちゃ味が変化したね。同じ酒とは思えないよ」
ひいな「本当?」
テツヤ「『おだやか』が今一番に躍り出たね。急に開いた感じ! さっきの冷酒の『おだやか』より100倍好きかも。温めて正解だと思う」
ひいな「この『おだやか』の燗が好きなら、『にいだしぜんしゅ』の燗はもっとヤバいと思うよ」
テツヤ「もっとおいしい?」
ひいな「うん」
テツヤ「じゃ、全部燗にして比較してみようよ」
ひいな「やってみよう!」
(「にいだしぜんしゅ」を燗にして……)
テツヤ「今度は何度?」
ひいな「53度くらい」
テツヤ「濃そうだね。あぁー! これは古酒だよ。紹興酒みたい。こりゃうまいなぁ」
ひいな「おいしいね」
テツヤ「これは麻婆豆腐に合わせたくなる味だね。こんなに味が変わるなら『田村』はどうなっちゃうんだろう」
ひいな「『田村』は燗にしたら、もっとおいしくなると思うよ」
テツヤ「俺は『田村』派なんだから、『田村』の燗も飲まないと」
(「田村」を燗にして……)
ひいな「これが『田村』の燗です。どう?」
テツヤ「あれ? 燗にすると3本の差がなくなってきて、正直よくわからなくなってきた(笑)。冷えてた時は、田村がダントツだったんだけどさ。『田村』のほうが酸は立ってるけど、入りは確かに『にいだしぜんしゅ』と似てるな……」
ひいな「3本とも同じ入り口ではあるけど、後味の抜け方が違うというか。より似てるところが際立つのかもね」
テツヤ「うん、うん」

「おだやか」のラベルに描かれた“かえる”の意味とは?

ひいな「『田村』は、この『にいだしぜんしゅ』の30周年を機にうまれた日本酒で、全量自社田の米なんだって。生もとの三段仕込み。福島県郡山市田村町の天然水と自然栽培米を田村町の人が醸すっていうことで、完全にドメーヌ化してるんだって」
テツヤ「蔵の一番の売りは『田村』なの?」
ひいな「『おだやか』のラベルにはかえるが描かれるんだけど、自然と調和してるっていうのを表してるんだって。それぞれお酒、全部に力を入れてるんじゃないかな」
テツヤ「へぇ。なるほどなぁ」
ひいな「このお酒はね、経堂にある〈つきや酒店〉さんで買ったんだけど、仁井田本家さんのお酒をたくさん取り扱っていて、ここで3種類とも手に入れたの。店主の息子さんが柱 知香良(ちから)さんっていう方なんだけど、私と同じ年で、24歳で酒屋さんを継いで、学校の先生をやりながら土日はお店にいるんだって」
テツヤ「お若いんだねぇ」
ひいな「『にいだしぜんしゅ』ってね、ファンの方が熱狂的なのが有名で」
テツヤ「へぇ、そうなんだ」
ひいな「昔は、東京で日本酒のイベントとかがあるとかえるのTシャツを着たファンの方たちがそれこそ全国から押し寄せてたの。仁井田本家の良さを押し出そうっていう熱意がすごくて」
テツヤ「すごいね(笑)。そんなにファンがいるんだ。熱狂的なんだね。ファンのみなさんにも、この記事読んでもらえるといいね」
ひいな「ね!」

【ひいなのつぶやき】
日本酒好きなら必ず通る道「仁井田本家」。銘柄も温度帯によっても楽しめるのはファンにとってはたまらないですね!!
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