高級食パンの人気が続いていますが、東京北区の東十条にオープンした〈明壽庵(めいじゅあん)〉は少し趣が変わっています。看板商品は地元北区の王子にある明治・大正創業の老舗3社で受け継がれてきた技術を注ぎ込んだ「あん食パン」です。5月24日にオープンして以来、毎日買いにくる人も多いという〈明壽庵〉にお邪魔してきました。

パン屋さんとあんこ屋さん、そして和菓子屋さんの久寿餅の技術がコラボ。

〈明壽庵〉があるのは、JR京浜東北線の東十条駅から800メートルほど続く商店街の中です。地元の人が自転車に乗って行き交う姿がたくさん見られます。

〈明壽庵〉は、北区王子の明治22(1889)年創業という伝統あるパン屋さん〈明治堂〉と、同じく王子の地で久寿餅が有名な明治20(1887)年創業の和菓子店〈石鍋商店〉、そして大正14(1925)年からあんこを作り続けている〈王子製餡所〉という3つの老舗がコラボしたお店です。

〈明壽庵〉の店内には、3つの老舗が歩んできた道のりが写真展示されています。

パン屋の〈明治堂〉5代目中山公人さんが、長年お世話になってきた地元に貢献したい、地元らしいお土産を作りたいとの思いから、〈石鍋商店〉と〈王子製餡所〉に声をかけて実現させたプロジェクトなんだとか。

久寿餅の乳酸菌が力を発揮!香り豊かであんこの重さに負けないパン生地に。

1本サイズは迫力の大きさ。左から、「明壽」「明壽庵」「抹茶明壽庵」。このとき「あずき明壽」は売り切れでした。

食パンのラインナップは、あんこを巻き込んだあん食パンの「明壽庵」。抹茶を生地に練り込んであんこを巻き込んだ「抹茶明壽庵」。プレーンの「明壽」に、プレーンの生地にあずきを練り込んだ「あずき明壽」の4種類。それぞれハーフカットも用意されています

〈王子製餡所〉のあんこはともかく、パンに〈石鍋商店〉が持つ久寿餅の技術がどんな風に使われているのか気になるところ。少し詳しく伺ってみました。

関東の久寿餅は、材料が葛ではなく小麦。作る過程で小麦の澱粉が発酵して乳酸菌が生まれます。これがパンに使われる天然酵母の一種で、麦を発酵させた液種と似ていることに注目。パン生地を作る過程で久寿餅の乳酸菌を加えてみると、パンを膨らませるわけではありませんが、独特の風味や味の複雑さが生まれることが分かりました。さらに食感にもいい効果が加わったとのこと。

「明壽」写真はハーフカット450円、1本800円。

プレーンの「明壽」に触れてみると、ピタッと吸い付くようなもっちりとした触り心地。水分量が多くてソフトなのに、いつまでも噛んでいたいような食感です。トーストするとサクッと歯切れもよくなります。

「明壽庵」ハーフカット700円、1本1,300円。
「抹茶明壽庵」ハーフカット750円、1本1,400円。

「明壽庵」と「抹茶明壽庵」はあんこの渦巻きが美しく仕上がっていますが、これも久寿餅の発酵澱粉がサポート。あんこをパン生地に巻き込んで焼く場合、重さのあるあんことパン生地の間に空洞ができやすく、パン屋さんにとってきれいな断面に仕上げるのはなかなか大変です。

ところが久寿餅の発酵澱粉のおかげで、焼いている間にあんこが沈みこみにくいパン生地ができたのだと言います。レシピの完成まで半年ほど試行錯誤がありましたが、老舗のコラボから生まれたパンは期待以上の仕上がりにつながったのです。

たっぷり巻きこまれた〈王子製餡所〉のつぶあんは、甘さがふくよかで、舌触りは軽い仕上がり。〈明治堂〉で数十年前からあんぱんなどに使っているあんこで、ほんのり懐かしい味わいもたまりません。

プレーンにあんこを巻き込んだ「明壽庵」と抹茶とのコンビネーションの「抹茶明壽庵」はラインナップの中でもひときわ高級感があるので手土産にもぴったり。どちらも初めて手に持ったとき、そのずっしり感に期待が高まるはずです。

「あずき明壽」ハーフカット550円、1本1,000円。

和菓子のような風格もある「明壽庵」と「抹茶明壽庵」に対して、粒あんの風味を食事パンらしく楽しみたいなら「あずき明壽」がおすすめ。同じくもちもちと吸い付くような生地に、あんこのほんのりした甘さがまんべんなく混ざっていて、そのまま食べるのはもちろん、焼いてバターやジャムをのせたり、チーズトーストにしたりと他の食材との組み合わせも試したくなります。

常連客にはブドウが人気。軽いホイップクリームたっぷりの「フルーツあんサンド」。

レジ横の冷蔵ケースにその日の「フルーツあんサンド」が並びます。

食パンを使った「フルーツあんサンド」も人気。プレーンの「明壽」を使ったサンドは、マスカルポーネホイップクリームにあんこを混ぜ込んだあんホイップ、あずき入りの「あずき明壽」にはマスカルポーネクリームを使っています。

「フルーツあんサンド」いちご、バナナのほか常時6種類ほど。各500円。

全体としては「いちご」がいちばん人気ですが、常連さんの中には皮の存在感も楽しい「ぶどう」が好きという人が多いそうです。ふわふわと軽いクリームと広がりのあるあんこ、フレッシュなフルーツの組み合わせがおいしくないはずはありません。

キツネが集まるという伝承のある町、王子の魅力も垣間見てほしい。

ギフト用紙袋。よ〜く見るとキツネの口にはパンが!

〈明壽庵〉ののれんやギフト用紙袋などには、キツネがデザインされています。これは王子がキツネの町と言われていることから。王子駅から近い王子稲荷神社に大晦日に関東一円の稲荷神社から狐が集まるという言い伝えがあるほか、落語にも王子のキツネという噺があるそうです。

店長の佐伯和広さん(左)と明治堂5代目の中山公人さん(右)。「東十条商店街を歩いていると、いつの間にか話しかけられますよ」とのこと。

東十条商店街は、団地や新しいマンション、古くからの住宅街の真ん中にあって、〈明治堂〉のある王子や隣の赤羽以上に、下町らしさ、人との距離の近さを感じるのが魅力的です。〈明壽庵〉に買い物にくるお客さんたちも、店の前で並んでいる間にいつの間にかおしゃべりがはじまって、お気に入りのパンをおすすめしあったりしているそう。

北区王子の老舗がコラボしてできた、おいしい「あん食パン」。商店街散歩も楽しみながら、買いに行ってみてはいかがでしょうか?

〈明壽庵〉
東京都北区神谷1-25-6
03-6908-4501
10:00~19:00 ※完売時は時間前に閉店
水木休
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