10月1日に早稲田大学にオープンした<早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)>。作家村上春樹さんが母校に執筆資料、蔵書、コレクションしたレコードを寄贈したことをきっかけに、建築家隈研吾のリノベーションで完成させたものだ。地下1階から地上2階まで一般利用ができる。村上作品からカフェのコーヒー1杯に至るまで、どれをとっても村上ワールドに繋がるものばかり。さっそく、見どころをダイジェストでご紹介します。

作品の世界観が感じられるあれこれ

979年のデビュー作から現在まで、作家から寄せられた多くの初版本が揃う。正面には作家が描いた、羊男のイラストが。
自然光が降り注ぐ気持ちのいい空間。

建物に入るとすぐ目に入る階段本棚は、村上ワールドへいざなうトンネルを感じさせるアーチで形づくられている。まずは左手のギャラリーラウンジへ。村上作品といえば『風の歌を聴け』(1979)から始まり、『ノルウェイの森』(1987)、『一人称単数』(2020)まで、多くの人が知っているものばかり。パスタ、ビールといったさりげない日常の風景がちりばめられ、読み進めるといつしか異次元へと誘われる。そんな世界観に魅了された村上ファンは世界中に存在する。ギャラリーラウンジでは世界中で翻訳された書籍や作品の初版本などを置いた読書空間だ。長テーブルに場所を確保して、もう一度、作品を手に取ったり、表紙をながめたり。じっくりと村上作品と向き合えるのだ。

村上さんの自室で鳴っているサウンドのエッセンスを伝えるオーディオルーム。
村上さんと関わりの深いレコードが置かれている。
スピーカーの前だけでなく、どこにいても音楽が楽しめる空間になっている。

作品にとって欠かせない音楽といえばジャズだろう。1階にはオーディオルームもある。アドバイザーである小野寺弘滋さん(オーディオ評論家)がシステムの選定、セッティングを担当した。ディスプレイされているのは、村上さんがかつて経営していたジャズ喫茶<ピーターキャット>でかけていたレコードだ。そしてハンス・ウェグナーの「デイベット」、ボーエ・モーエンセンの「イージーチェア」といった北欧の名作家具のヴィンテージが配され、リラックしながら音楽に浸ることもできる。聞けば国際文学館にある家具はほぼ北欧のヴィンテージ家具だという。家具、オーディオなど、ことごとく上質なものに触れることができる環境が整っている。

村上ワールドで発見したいくつかの心くばり

地下はカフェと「村上さんの書斎」と名付けられた空間がある。書斎は愛するレコードの棚のサイズ、iMacまでもが村上さんが実際に使用していることを意識し実現したものだ。床に置かれたラグも「似たような」ものを探したそうだ。使い込まれた辞書や読み込まれたペーパーバックの置かれた本棚の上には石ころが。村上さんのものだそう。残念ながら書斎の開放は行っていないが、ガラス越しに創作の場を見られることはファンにとっては嬉しいこと。書斎の向かいには、村上さんが学生時代に経営していたジャズ喫茶<ピーター・キャット>にちなんだ名前の、早稲田の学生が運営するカフェ<橙子猫-ORANGE CAT->がある。おすすめは村上さんのコーヒーの好みを研究したハンドドリップコーヒー。学生スタッフがあれこれ工夫し、深い焙煎で味わいはライトになるようなブレンドに決めた。

再現された「村上さんの書斎」右の窓からレコードの棚のサイズまできっちりと再現されている。
石ころの存在がかわいらしい。
村上さんの好みを聞いてブレンドしたハンドドリップのコーヒー500円、シュガードーナツ300円。
<ピーター・キャット>に置かれていたグランドピアノ。
Tシャツ好きで知られる村上さんが描いたイラスト。

本を手にとって、音楽を聴いて、そして作家の創作空間である書斎を近くに感じる。見学して疲れたら、光が降り注ぐカフェでコーヒーとともに一休みする。世界中の村上春樹の愛好者や国際文学の研究者が集うことが目的とされている<早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)>は、文学の心地よさを肌で感じられる場所だった。

早稲田大学国際文学館
東京都新宿区西早稲田1-6-1
10:00〜17:00
不定休

photo Kenya Abe
https://www.waseda.jp/culture/wihl/
1日3回予約制