秋晴れが気持ちのいい季節になりましたね。芸術の秋、食欲の秋、そして行楽の秋。秋の行楽といったら紅葉。紅葉といったら京都…と、連想ゲームのように導かれご紹介したくなったのは〈Nitta Bakery〉さん。〈清水寺〉や〈高台寺〉など紅葉の名所に程近く、地元の方に愛される小さなパン屋さんです。

街の交差点

いまのお店は二代目。他界されたお父様のお店を継ぎ、三姉妹で営んでいらっしゃいます。お父様の代からのお客様も多く、この日も自転車でふらりと立ち寄る方や、毎朝の日課のように挨拶をしていく方がいたりと、ご近所の皆様がとても自然に交差していく姿が印象的。お店とお客様の間にある絆に胸が熱くなりました。価格も100〜200円くらいがベースで、なんだかもうありがとうございますの気持ち。そうなんです。最近めっぽうこういう人の温もりを感じるお店に弱くなりました(大丈夫?)

「ラムレーズンミルクバー」
チャバタ生地のモチっと感とドライさがクリームによく合う。

チャバタらしいザラリとした舌触りと、もちっとした食感の先にある抜け感。その抜け感を作っている気泡全てを一つたりとも見落とさず(怖いわ)入り込んでくるミルククリームが甘さと滑らかなコクで余白を埋めていきます。ぐるりと見渡して全員にクリームは行き渡ったかな?と気泡チェックが済んだ頃に、ラム酒漬けレーズンがハイタッチをしながら駆け抜ける。クリームとパン生地がちょうど良く収まり訪れた平穏にラム酒の風味で波風を立てていきます。なんだったんだあいつは(※レーズンです)!
パン生地に甘さが少ないので、ミルククリームと一緒になってもさっぱりとした印象。私がおばあちゃんになってもきっと美味しく一本ぺろりと食べられちゃうんだろうなって安心しました(気が早い)。

「栗とカシスのデニッシュ」
栗の大きさがよくわかる断面。

秋ですねぇ。贅沢に大きな栗が3個もごろりんとのっています。栗と来て、カスタードと来て、サクサクと押し寄せるバターの圧に頬が緩んだ隙に、カシスの襲来!スキッと抜ける甘酸っぱさにカロリーがチャラになる感覚を覚えます(そんなわけない)。
栗は甘さをこぼしながらホクっとほどけ、ゆっくりと風味が花開いていきます。最後に待っていたデニッシュの端、折りが重なっている部分のサクサク感は多幸感をぐいっと引き上げてくれますね。この食感はもう霜柱です(食べてたの?)。それか、30センチくらい積もった新雪にえいっと足を沈める感じ。雪の例えしかでてこないくらい、無抵抗にシャクシャクシャクと崩れ、サラサラサラと揺れる心地はピュアそのもの。ちなみにその間もずっとバターの柔らかなコクが漂うのでどこまでも一緒に漂う覚悟でよろしく!(誰?)

「ベーコンバジル」
大振りの気泡にワッショイされるベーコンたち。

カリカリとエッジのたったモチモチ生地のうま味と渡り合う本格的なバジルソースと角切りのベーコン。美味しくないはずがない!よほどお腹が空いていたのか、美味しくて一瞬にして完食したのか、食べたメモが「美味しくないはずがない!」で終わっていて、1人で笑いました(困った)。こちら現場からは以上です(すみません)。

「塩バターパン」
大きな空気を飲み込んでいる塩パンは美味しいの証。

角食パンの生地を使ってバターを包んでいるこの子。もちっとひきのある質感の生地が、内にくるむバターとその周りにぽっかりあいた空気の洞窟へとエスコートしてくれます。表面にさりげなく振られた塩がミネラルの旨味ときらめきで輪郭を際立たせると、あら不思議。バターでまったりとしている味わいに軽やかな風を呼びこみます。いくらでも食べられる軽さと歯切れの良さで、108円。ワンコイン(消費税がなかったら)って驚きです。

インスタで「#ニッタベーカリー 」を見ていると、“先代のときによく行っていて、いまは遠くへ引っ越したけど、久しぶりに食べられてうれしかった!”とか“バイトしていました”とか、みなさんの思い出がたくさん出てくるんです。あぁ、涙腺が…!長く続けるってとても尊いことだと思います。きっと想像以上に大変なことだし見えない努力の積み重ね。
観光で訪れる私たちがこれからもこのお店に集う穏やかで温かな気持ちを持ち帰られるように、そしてこの街に暮らす皆様のためにも、これからも末長く続いていってほしいと願うパン屋さんです。

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