平成25年、ワインとして全国で初めて地理的表示(以降、GI)の指定を受けた山梨県。そして令和3年、日本酒についてもGI「山梨」が指定され、全国で初めて同じ県から2つの酒類でGIが誕生しました。今回はそんな 「美酒美県やまなし」が誇る日本酒・ワインの魅力を、実際に山梨県に足を運んで体験してきましたのでご紹介します。

お酒の地理的表示(GI)とは?

産地からの申し立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで、産地名を独占的に名乗ることができ、お酒の地域ブランドを確立できるお酒の地理的表示(GI=Geographical Indication)。産地名を名乗るに当たっては、その産地で生産されていることはもちろん、一定の生産基準を満たしていることが求められています。

そんなGIがワインと日本酒という2つの酒類で誕生したのは、全国で山梨県が初めて。たっぷり注ぐ陽の光、表情豊かな気候風土、山々が育む名水など。山梨のおいしいお酒は、そんな美しい自然の中で、品質にこだわって生産に取り組んでいる方々の「匠の技」によって生み出されています。

ミネラルウォーター生産量日本一の山梨県!おいしいお水で作るおいしい日本酒。

山梨県は世界文化遺産・富士山をはじめ、八ヶ岳や南アルプス、奥秩父などの名峰に囲まれた名水の地。「名水百選」「平成の名水百選」に7箇所が選出され、ミネラルウォーターは全国でシェア4割という日本一の生産量を誇ります。

山々に降り注ぐ雨や雪は、森を潤しながら地中深くまで浸透。悠久の時を経て、花崗岩や玄武岩、安山岩などの地層によってろ過され、適度なミネラル分を含んだ伏流水になり、地質的な特徴により、水質のバリエーションも豊富にしています。

この多様性に富んだ水を使って作り上げるのが、成分の約8割を水が占める日本酒。地域ごとに個性が違う名水を生かし、伝統と最新技術をバランスよく融合させながら酒造りに取り組む蔵元が県内に多く存在しています。

今回新たに誕生したGI 「山梨」の日本酒は、仕込み水の水系が限定されているのが特徴。南アルプス山麓、八ヶ岳山麓、秩父山麓、そして富士北麓、富士・御坂および御坂北麓の6水系いずれかの水で作られています。

山梨の酒蔵は、古来受け継がれる「寒造り」で酒を醸します。微生物の力を使う酒造りには、雑菌の繁殖が大敵。そのため、10月から3月ごろまでの間に醸造を行います。真冬は連日氷点下まで気温が下がり底冷えする山梨は、雑菌が悪影響を及ぼすリスクが少なく、醸造に適しているのです。そして、山々が磨く山梨の水は、酵母の栄養となるミネラルが比較的少ない軟水。これにより、発酵が穏やかに進んでいきます。

厳しくも雄大な自然と、きりりと澄んだ空気に包まれて、杜氏たちの手でゆっくり、じっくり醸される日本酒。山梨ならではの、雑味が少ない清らかな味わいは、こうして生まれます。

1750年創業!地産地消による酒造りを行う〈七賢〉。

今回日本酒の酒蔵としてお伺いしたのは、白州にて南アルプス、甲斐駒ヶ岳の伏流水を醸して約270年、江戸寛延3(1750)年創業の〈七賢〉。初代蔵元 中屋伊兵衛より十三代に渡り脈々と受け継がれた伝統と、地域に根ざした地産地消による酒造りを行っています。

1880年には、明治天皇の山梨県・三重県・京都府御巡幸に際し、母屋の奥座敷が行在所(あんざいしょ)に指定されるなど、歴史ある建物も現存。敷地内には酒蔵や行在所のほか、試飲もできる日本酒ショップや自社のスキンケア商品も販売する雑貨店、カフェやレストランも存在し、コロナ禍以前は年間約6万人が訪れていたほど人気の酒蔵です。

近年では瓶内二次発酵によるawa酒の開発をはじめ、塩麹や糀糖といった食品など新しい日本酒作りにも注力している〈七賢〉。〈リッツカールトン京都〉開業5周年記念のオリジナル酒を醸造したほか、フレンチの世界的巨匠であるアラン・デュカス氏とコラボレーションした日本酒も開発するなど、新たな挑戦も続けています。

〈七賢〉
山梨県北杜市白州町台ヶ原2283
0551-35-2236
公式サイト

「甲州」、「マスカット・ベーリーA」など山梨県産ブドウを100%使用したワイン。

日本ワイン発祥の地・山梨は、約150年にわたる醸造の歴史を持ちます。明治時代から、行政のバックアップをもとに品種改良や生産技術向上に関する研究が進められ、産地全体で高品質なワイン造りに注力してきました。今や、県内には全国トップの90社にのぼるワイナリーが存在し、国内の約3割の日本ワインを生産。

甲州ワインは、ぶどうの味わいを引き出すために発酵後にオリと接触させる「シュール・リー」や、赤ワインの製法で白ぶどうを醸す「オレンジワイン」など、さまざまな製法を用い、多様な味わいを醸しています。

GI 「山梨」を冠するワインの原料になるぶどうは、県内産100%。厳格な官能テストに合格したワインだけがGI 「山梨」を表示できます。富士山や南アルプスなどの高山に囲まれた山梨県は、梅雨や台風の影響を受けにくいうえ、日中と朝夕の寒暖差が大きいことが特徴です。この環境が、ぶどうにはぴったり。また、日照時間も長いため、よく熟したおいしい果実に育ちます。

栽培されているのは、日本固有の品種である「甲州」(白ワイン原料)「マスカット・ベーリーA」(赤ワイン原料)など。「シャルドネ」や「メルロー」といった、ヨーロッパ系品種のヴィニフェラ種も含めたぶどうも山梨県内で栽培し、ワインの原料としています。

代表格「甲州」を使った白ワインは、料理と喧嘩せずに寄り添ってくれる、香り豊かで穏やかな味わいです。鉄分の量が少なく、魚介類の生臭みを感じづらくさせてくれる特徴もあるため、和食や魚介と相性が良いです。鮮やかな赤紫色の「マスカット・ベーリーA」を使ったワインは、華やかな香りと心地よい渋味が特徴。洋食やお肉はもちろん、醤油やみりんを使った料理と相性ぴったりです。

今回取材で印象に残っているのが、やきとりの塩は甲州、タレはマスカット・ベーリーAとの相性が抜群だということ。今度機会を見つけて試してみたいと思いました。

日本初の地下発酵槽でつくる「石蔵和飲」が有名な〈ルミエールワイナリー〉。

今回訪れたワイナリーは、「本物のワインは本物のブドウから」をモットーに、ワイン用ブドウの栽培を続けている1885年創業の〈ルミエールワイナリー〉。自社農園では、雑草を生かした「草生栽培」、人工的に耕さない「不耕起栽培」による土づくりをしています。

〈ルミエールワイナリー〉の大きな特徴は、明治34(1901)年に神谷傳兵衛氏の指導を受け、扇状地の傾斜を利用した日本初のヨーロッパ型横蔵式地下発酵槽が構築されたこと。石積みで造られた石蔵発酵槽は、まだステンレスタンクがなかった明治から昭和の時代にかけて、大量のワインを醸造するための大きな役割を果たしていました。

やがてホーロータンクやステンレスタンクの普及により、一時は石蔵発酵槽でのワイン造りは終了。その後1998年に国登録有形文化財に認定されたことをきっかけに、再び石蔵発酵槽でのワイン造りが復活しました。

現在も10基のうち1基を使って伝統的な方法でワインを醸造し「石蔵和飲(いしぐらわいん)」として販売しています。

実際に「石蔵和飲 2020」を試飲。マスカット・ベーリーAを91%、ブラッククィーンを9%使用した赤ワインは、ライトボディで苺のようなアロマと酸、柔らかなタンニンを含んだ親しみやすい味わいでした。肉じゃが、筑前煮、牛肉の和風ソースなど醤油ベースの料理と相性が良いということです。

合わせて甲州を100%使用した辛口スパークリングワイン「ルミエール スパークリング オランジェ 2019」も試飲させていただきました。果皮や種からうま味と色を引き出すマセラシオンカルボニックで醸造した、日本ではまだ珍しいオレンジ色のワインで、シャンパンと同じく瓶内2次発酵により生まれる自然な発泡感が印象的でした。味噌など日本の発酵調味料を使った料理との相性が良いそうです。

〈ルミエールワイナリー〉
山梨県笛吹市一宮町南野呂624
0553-47-0207
公式サイト

美酒と山梨県産食材のマリアージュも魅力的!

「甲斐サーモンのマリネ 山梨県さん野菜のサラダ仕立て」と機山洋酒工業の「キザンスパークリング トラディショナル ブリュット」。
「小蕪信玄蒸し 甲州ワイン鰻白和え」と勝沼醸造の「アルガブランカ イセハラ 2020」。
「出会いサーモンの瞬間チップ(富士の介)」と笹一酒造の「笹一純米大吟醸 甲州夢山水」。
「山梨県さんしかロース肉のポワレと内腿肉のクロケット 大塚人参のピュレ添え 赤ワインソース」と丸藤葡萄酒工業の「ドメーヌ ルバイヤート 2017」。
「天ぷら蕎麦 山梨県産野菜 身延ゆば」と「春鶯囀 純米酒」。
「山梨県産シャインマスカットにマスカルチーズのムース デラウエアワインのジュレ添え」と山梨銘醸の「七賢 山の霞」。
「名水の水 山の酒 山梨の酒」純米酒7本飲み比べセット。
「名山の水 山の酒 山梨の酒」 純米酒飲み比べ 7本セット。

山梨県の美酒を味わうなら、やはり山梨県産食材を使った料理とともに!今回は笛吹川フルーツ公園内のリゾートホテル〈フルーツパーク富士屋ホテル〉にて特別に美酒と山梨県産食材のマリアージュコースをいただきました。

甲州ワイン鰻の香ばしさや脂身、うま味を受け止める勝沼醸造の「アルガブランカ イセハラ 2020」や、ニジマスのような育てやすさでキングサーモンのような豊かな味わいを実現させた山梨県産食材「富士の介」の瞬間燻製に、上品な吟醸香と、酒米・甲州夢山水の芳醇なうまみがたっぷりと感じられるまろやかな味わいの「笹一純米大吟醸 甲州夢山水」を合わせるなど、料理とお酒の見事のマリアージュに感服。このほかにも、山梨県独自の食材や食文化を知れるとても良い機会になりました。

マリアージュコース体験会には、長崎幸太郎山梨県知事も参加され、冒頭で挨拶もされていました。「山梨県の多様性あふれる気候や地形、そして豊かな水がおいしいお酒と食べ物を育んでいます。目指すは世界中から美食家が集うスペインのサン・セバスチャンのような街。県産のお酒と料理のマリアージュに力を入れ、わざわざ足を運びたい場所として山梨を盛り上げていきたいです」と意気込まれていました。

首都圏からもアクセスが良い一方、自然豊かでおいしいお酒とおいしい食材が豊富な山梨県。知事が仰っていたように、世界から多くの美食家が集まる街となる日もそう遠くなさそうです。

〈フルーツパーク富士屋ホテル〉
山梨県山梨市江曽原1388 笛吹川フルーツ公園内
0553-22-8811(受付時間9:00〜20:00)
公式サイト