山と海に挟まれた集落にひっそりと佇む〈月と鮪 石上〉は、創業60年余を迎え、「月」と「鮪」をテーマにした1日5組限定の宿として2022年7月1日(金)にリニューアルオープン。今回のリニューアルでは、あらためて宿の価値を見直し、駿河湾に浮かぶ「月」と日本最大の漁獲量を誇る焼津の「鮪」をテーマに、宿全体と好評だった鮪料理を再編集。都会の喧騒を離れ、美しい景色と極上の鮪料理味わい尽くせるお宿をレポートします。

JR焼津駅からタクシーで8分ほどの場所にある〈月と鮪 石上〉は、建物の裏が山、表が海という、自然豊かな環境にあります。宿に入ると当宿の女将 石上 智子さんがお出迎え。和服姿で物腰の柔らかな女将の接客が心地よく、初めて来たのに帰ってきたような気持ちに。リピーターが多いというのも納得です。

チェックインしたあとは、女将に館内を案内してもらい、宿での過ごし方や楽しみ方のポイントを教えてもらいます。

まずは暖簾のロゴマーク。〈HAKUHODO DESIGN 〉のアートディレクター 柿﨑裕生さんとデザイナー 増田未夢さんが担当。宿名の「月と鮪」の漢字についている、2つの“月”を活かし、2つの丸い月を重ね合わせると、中心に鮪のシルエットが浮かび上がります。
「当旅館を通して、月や人と人の輪が丸くつながるように」と女将さん。素敵なおもてなしの心に、さっそく感動してしまいました。

館内に入ると、飴色の床や濃い茶色の柱や梁などの宿の骨格の美しさなど、凛とした旅館らしい雰囲気が漂います。入口正面には女将自ら花器や活けた季節の草花が飾られ、おもてなしの心が伺えます。

正面右が入浴場。
趣のある階段を上って2階が、ダイニング、ラウンジ、客室。
お風呂上がりに腰を掛けてひと休みできるソファ。

焼津の遥かな海を望むお部屋で贅沢な静寂を楽しむ。

本日宿泊するお部屋へ。お部屋は駿河湾が一望できる、「弓張月」。
お部屋は全て“月”にちなんだ名前が付けられており、緑の生い茂る山を見渡せるお部屋などを含め、全部で5部屋と贅沢なつくりになっています。

お部屋の窓辺にはデスクがあり、ワークスペースとしても使えます。
室内に洗面所もあり、お湯も沸かせるなど、コンパクトでありながらも機能的。Wi-Fiもバッチリなので、原稿書きなどのPC作業なども問題なくできます。

客室には、飛騨 産業 〈原研哉デザイン〉の「SUWARI」や〈平田椅子製作所〉の「ARIAKE」、〈宮崎椅子製作所〉「PePe chair(arm)※特注仕様」が制作したこだわりのファニチャーを設置。手触りや座り心地などはもちろん、デザイン性の高いテーブルやイスが置かれた空間は、アートのように楽しめます。

ゆったりと流れる時間が過ごせるよう、あえてテレビは置いていません。
虫や鳥の声、さざ波の音など、自然のBGMを聞きながら過ごせるので、デジタルデトックスの宿としても最適。

寝具はシモンズ社製のベッマットレスとホワイトダウン90%の掛布団。ふかふかの掛布団とほどよい固さのマットレスが心地よく、翌日スッキリ目覚めることができました。

旅館らしく浴衣や足袋も用意されています。

ゆったりと腰をかけて山々の緑を眺めながらリラックス。

お部屋からは駿河湾の青、「山月のラウンジ」からは、山々の織り成す緑など、宿の周辺環境を目で、風で、感じながら過ごすのが〈石上〉での楽しみ方です。
ラウンジにも上品な季節の草花が生けられているので、植物がある空間に癒されながら、読書を楽しむのもおすすめです。

また、冷たいお茶や、コーヒーマシンなどが設置されているので、お風呂上りや気分転換にひと息つく場所としても利用できます。

新たな〈石上〉の顔ともいえる、「満月のダイニング」は 昼と夜で表情を変えます。
直径180cmの円窓からは、海に反射する太陽の光が駿河湾の美しさを際立たせ、穏やかな昼の景色が広がっています。

お風呂は、大きさの異なる2つのお風呂があり、お客さんの人数により、男女入れ替えになっています。お湯は高濃度で良質な天然温泉「焼津温泉」。海水の約半分の塩分を含む塩化物泉で肌に優しい弱アルカリ性の成分です。

ゆったりと足をのばして入浴。大型ホテルのように混雑しないので、自分のペースで温泉を楽しめます。

極上の南鮪や焼津港に水揚げされた新鮮魚介を味わうコースに舌鼓。

夕飯の時間になり、「満月のダイニング」へ。
テーブルの上には、和紙に女将がしたためた書が置かれていました。

「明珠掌在」とは、禅宗の禅語で「みょうじゅたなごころにあり」と読みます。“透明で曇りのない宝物が両手にこぼれるほど乗っています”という意味。
「宝物をこぼさないように気を付けてくださいね」と女将さん。じんわりと心に沁みますね。

鮪節と舞茸の出汁でシンプルにいただく「スープ」。
鮪とビーツ、黄身酢をサクサクの「最中」の皮でサンド。
おすすめの赤ワインで鮪を頂く。

宿の料理を担当するのは、女将の息子さんである石上将士さんと石上翼さん。
今回のリニューアルにあたり、『ミシュランガイド東京』に3年連続で1ツ星獲得のレストラン〈sio〉のオーナーシェフ、鳥羽周作さんと共に、日本一といえる「極上南鮪のコース」を作りました。

「握り」は中トロと自家製のガリ。
「炙り」は、赤身と大トロに煮切り醤油を添えて。お好みですだちを絞っていただきます。
焼きとうもろこしに泡がかかったエスプレッソ仕立てのような「旬」の一品。
「お造り」は鮪の天身と血合下、大トロの3点。
つやと色合いが美しい赤身。
黒米と鮪のほほ肉をケールの葉で巻いた「粽(ちまき)」。
ケールを開くと甘しょっぱい香りが漂う。
「肝」は、蒸アワビの肝ソース。
夏みかんとセロリのマリネをライスペーパーで包んだ「お口直し」。
鮪のカマと血合いを〈マルモト醤油〉を使って3時間煮込んだ「お煮つけ」。

「鮪は素材そのもののポテンシャルが高いので、工夫をしなくともそのままで十分おいしくいただけます。ですが、鮪料理は似たような味付けのものが多くなりがちなので、食べ進めるうちに飽きてしまいます。鮪を知り尽くした石上ブラザーズと話し合いながら、鮪の様々な部位に注目し、旨みを最大限引き出しながら、最適な鮪の味付け、見せ方、心地よい量を追求しました」と鳥羽シェフがコメント。
あらゆる料理を食べ尽くした鳥羽シェフが“日本一”と絶賛する「極上南鮪コース」は、料理人も唸るおいしさです。

鮪を知り尽くした石上ブラザーズは調理するだけでなく、お料理のサーブや説明をしてくれるので、鮪コースのこだわりや食材についての話なども伺えます。

お米の銘柄は「縁結び」。
アオサとすりごまはお好みで。
残念ながら月が見えなかったので、月に見立てた「べっこう玉(卵の黄身の醤油漬け)」で満月を楽しみます。
自分で皮からねぎ取る「ねぎトロ」。鮮やかなピンク色は鮮度が良くて脂がのっている証拠!
ねぎトロとべっこう玉のとろけるおいしさに感動必至の「ご飯」。
石上ブラザーズが食後にお茶を立ててくれる。馴れた手つきをぜひ見てほしい。
お薄は京都小山園「四方の薫」。和菓子はシャインマスカットと白あんを求肥で包んだ一口サイズの大福。
パイナップルジェラート。

驚きと幸福に満ちた鮪尽くしの夕飯が楽しめました。
そして、食事が終わる頃には、丸い窓から青くて美しい景色が。
タイミングが合えば、ひと月に数日だけ訪れる満月の夜に、海面に映る月光が生み出す月の道「ムーンロード」が出現。食後もしばらくダイニングで語らいながら、月見酒を楽しむのも素敵。

翌朝も「鮪」が味わえる贅沢な朝食で“元気”をチャージ。

翌日は、朝食の時間に女将さんがお部屋まで呼びにきてくれて、またまた「満月のダイニング」へ。
メニューは、鮪の鉢の身の幽庵焼きや中落ち、具だくさんなお味噌汁など、ごはんにピッタリなおかずをのせたお膳が用意されています。

お昼ごはんを食べられなくなるといけないので、朝は控えめにしようと決めていたのですが、箸が止まらずごはんをおかわり……。
朝食を食べない派の人も、ごはんをおかわりしてしまうこと間違いナシ。

鮪の中落ち。朝食で鮪が食べられる嬉しさでテンションアップ。
鮪の鉢の身の幽庵焼き。添えられた大根おろしとすだちはお好みで。
ほうじ茶、桃、金平糖。

お腹いっぱいに食べた後は、チェックアウト。そして焼津周辺観光へ。
女将と石上ブラザーズのきめ細やかな接客とアットホームさ。そして心尽くしのおもてなしで、焼津ならではの“非日常時間”が過ごせました。
賑やかな場所での生活に疲れを感じた時にも安心して篭れる場所としても最適お宿ですのでぜひ。

〈月と鮪 石上〉
静岡県焼津市小浜1047
054-627-1636
公式サイト