集まったのはセンター街を抜けたところにある〈渋谷カラ館(カラオケ館渋谷本店)〉。浜崎あゆみフリークとして知られる平野紗季子さんとゆっきゅん。二人が語る、初めてのayu。

Profile

ゆっきゅん(左)
1995年生まれ、岡山県出身。2014年上京と共にアイドル活動を開始。2021年セルフプロデュースによるソロ活動DIVAProjectを開始。今年、ファーストアルバムである『DIVAYOU』をリリース。

平野紗季子(右/ひらの・さきこ)
フードエッセイスト。1991年生まれ、福岡県出身。ayuとは同郷。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)、『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。』(マガジンハウス)などがある。

私にとってayuは孤独のカリスマ。(ゆっきゅん)

――今日はお二人初対面なんですけれど、それぞれ私物のayuグッズもお持ち寄りいただきありがとうございます。

平野紗季子(以下、平):これは2006年のa-nationの時に買ったタオルです。夏を感じます。マークをハートに変形しがちだった時期のやつですね。

ゆっきゅん(以下、ゆ):ヒョウ柄のマークのショルダーバッグはありえないアクセントになるので普段使いしています。

:Tシャツも素敵だね。

――まずお二人に、なぜayuだったのかというところからお伺いしたいです。

:私はもう幼稚園の頃からですね。幼稚園時代には一輪車に乗りながら「NEVEREVER」を歌っていましたから。

:わ〜早熟。

:7歳年上の姉がいるんです。彼女がayuを好きで。カーステレオからはいつもアルバム『LOVEppears』と『Duty』が流れていた。

:最高水準の英才教育環境だ。

:だからもう自然と?気づけば歌詞が頭の中に入ってきた感じです。

「TO BE」8枚目のシングル曲。2001年に12㎝ CDとして再発売。アルバム『LOVEppears』『 BEST』などに収録。/1999年リリース。当時としてはセールスが振るわなかったがファンに根強い人気のある一曲。デビュー曲「poker face」から一貫して作詞を手がけるayu。本作では“浜崎あゆみ”のスター性を信じ、走りぬいた二人の姿を切実に歌い上げる。
『LOVEppears』1999年リリース。2019年には『LOVEppears / appears -20thAnniversary Edition-』も発売された。/ファーストアルバム『A Song for ××』からわずか10カ月でリリースされたセカンドアルバム。「Fly high」「Trauma」「Boys &Girls」「TO BE」など話題曲を多数収録し、ダブルミリオンを達成。ロングヘアで胸を隠した刺激的なジャケットも話題に。
「SEASONS」16枚目のシングル曲。月9ドラマ『天気予報の恋人』主題歌。ミリオンセラーを達成し「第42回日本レコード大賞」優秀作品賞および作詞賞を受賞。/2000年リリース。14枚目のシングル「vogue」、15枚目のシングル「Far away」と本作はほぼひと月ごとにリリース。ジャケット写真や喪服姿のPVもひと続きとなっていることからファンの間で「絶望三部作」と呼ばれるように。

:私は、自覚しているayuにゴトっと落ちた出来事があって。小学校の4、5年生くらいの頃、モーニング娘。が好きだったんです。クラスの女子はみんな好きで、みんなで踊っていたのですが、クラスのリーダー的存在の子がゴマキ(後藤真希)が好きだった。実は私もゴマキが好きで。でも、“推しかぶり”は重罪じゃないですか。もしバレたらハブられる……とこっそり上履き袋の裏にゴマキの缶バッジとかつけていたんですけど……。ある時、紗季子もゴマキ好きらしいよ、と密告されてしまい。案の定、見事にハブられました。その孤独と絶望でいっぱいの下校中、「SEASONS」がMDから流れてきて、号泣。

:あ〜!

:それまでは正直ayuかわいいな、ギャルだな、くらいの視点しか持ってなかったんですよね。それが急に「今日がとても悲しくて……」という歌詞の意味がぐっと自分のものとして入ってきたんです。ブワーッてシンクロして。「あ、ayuも悲しいんだ。こっち側にいてくれるんだ……!」って。ayuが孤独を分かち合える同志になった瞬間でした。

ayuは外見的なものより内面にくる。(ゆっきゅん)

「彼女の生き様をただ見届けたい、そう思ってる(平)」
『Duty』。表題曲である「Duty」「vogue」「Far away」「SEASONS」など全12曲を収録。「第42回日本レコード大賞」アルバム大賞を受賞。/2000年リリースのサードアルバム。17thシングルである「SURREAL」と同時発売。累計売り上げは約290万枚。現時点で自身最大のヒットアルバムとなっている。ayuが檻にとらわれたレオパード姿を披露したジャケットも印象に強く残る。

:ayuは登場した時代的なものや、本人の華やかなビジュアルもそうだし、今だと「平成ギャル」みたいな切り口で語られがちですけれど、ayuファンって全然そこだけじゃないんですよね。孤独な感情を歌っているからayuが好きなんです。例えば姉もまったくギャルではなかったし。外見のきらびやかさだけでなく内面的にayuはくる、実は。そういう人、意外と多いと思いますし、ファンはみんなそうだと思う。

:ゆっきゅんが精神にayuをインストールしたのはいつ頃?

:2000年前後はテレビをつけたらayuが出ていて、CDも爆裂に売れていた。岡山にはでかいホールもないから、ライブを観たのも上京してからなので、ずっとお茶の間のファンでした。それでも歌詞が分かってきたのは、やっぱり自分自身の自我、心が芽生えてからだと思います。それこそ紗季子さんと同じように小学校高学年の頃かな。中学生の時には勉強机のデスクカバーの下に、気に入った歌詞をパソコンで打ってA4の紙にプリントして並べてたんですけど……。

:わ〜!私もやってた!

:やりますよね……。それはayuだけじゃなくて、いい歌詞だなって思うものがあると、打って新しいものに更新していたんです。でも、ずっと残していたのは「SURREAL」と「Naturally」と「Life」だった。

:それも分かる!私も歌詞ノートを作っていました。ayuの雑誌の切り抜きとかコラージュして。高いホログラムの折り紙をねだり倒して買ってもらってマークに切り抜いて貼って……。

:歌詞の“写経”はやっぱり通る道ですよね。ちゃんと1回、自分で書いてみたくなるんです。もちろん教科書の隅にも。

:そう、自分で書かないと。ただ歌詞カードをコピーするんじゃダメなんです。手を動かさないと入ってこない。

スターダムの絶頂でも居場所を探してた。(平野)

『MY STORY』。「Moments」「INSPIRE」「CAROLS」などのシングル曲を収録。自身が初めてアレンジを手がけたインスト曲も収録されている。/2004年リリース。6枚目となるオリジナルアルバム。前作から2年ぶりとなる渾身作となった。オリコンチャートでは、本作で10作目となるアルバム首位獲得を達成した。これは、女性アーティストとして史上5人目の快挙である。

:歌詞を読み込んで聴いていくうちに、ayuはラブソングの人ではないなと気づきました。

:分かる。

:ずっと己の孤独を歌っているんです。

:ayuは自分でも語っていますが、家庭環境が複雑なことも影響して、ずっと居場所探しの旅をしてきた。その先で居場所を見出したのがショウビズの世界。でも、それもまた安住の地ではない。

:そう。歌手になりたかったわけでもない。やはり「TO BE」ですよね。「誰もが通り過ぎてく気にも止めないどうしようもないそんなガラクタを」って。自分のことガラクタって呼べてしまうayuに凄みを感じます。デビューして世間的な「成功」を重ねても、ここで歌ったような孤独をずっと抱えている人なんです。居場所のなさ。彼女の歌はその気持ちを最初から、そして今も赤裸々にさらけ出しているんです。

:終わりのない葛藤をずっと歌い続けているんですよね。2000年の初の全国ツアーのライブ映像で「ayuはここにいるんだ。いていいんだ」って口上をするんですけど、もうそれが泣けて泣けて。だって2000年ですよ。あれだけスターダムの絶頂を極めた瞬間に「ここにいていいのかな」って思う!?って。

:社会に注視される存在になって、そこに自分自身との歪みが生じて。ayuは引き裂かれながらもそれを歌にしているんです。徹底して一個人として生きている。実は全然、共感を重視した作詞ではないと思います。

:分かりすぎる。もう本当にただ自分に素直なだけなので。

:「ourselves」で「世界中の誰も知らないけれどたったひとりあなただけに見せている」と歌っていますが、普通の人の恋愛って「誰も知らない」が当たり前なんですよね。「世界中の人に知られている恋愛」になってしまうのはあなたがayuだからなので……。彼女の歌は彼女でしかないんです。

:私は中学2年生の自由研究で「浜崎あゆみ」をテーマに据えたんです。ちょうどayuがアルバム『MYSTORY』をリリースした頃。

:でた、名盤。

:そう。もうタイトルからしてそうなんですが自伝的な超大作で。

:あれはayuの大河ドラマです。

:その収録曲の中でayuは「僕は君へと君は誰かに伝えて欲しいひとりじゃないと」(「Replace」)って歌っているんです。ayuはファーストアルバムで「一人きりで生まれて一人きりで生きて行く」って歌ってたのに……。

:『ASongfor ××』。

:そう。ずっと一人きりだと思ってたけどアルバム6枚目にして、やっと一人じゃないって思えたんだというのが衝撃でした。人って変われるんだって感動したんですよね。だから、自由研究では「浜崎あゆみはこの世界の闇とそこに差す一筋の光だ」と締めくくっています。彼女が傷つきながら試行錯誤して見つけたもの、生き様そのものが一筋の光になって私を照らしている。そのことにティーン紗季子はどれだけ救われたことか。

:私にとってayuは孤独のカリスマです。結局不器用なところが愛おしいですよね。葛藤に次ぐ葛藤、一つの正解にはたどり着かない。曲によっては矛盾した感情も歌われている。でも、それってめちゃくちゃ人間らしい。心を使って生きていればどんな感情になる時もあるし。でもそこに「浜崎あゆみだから」という芯が通っている。矛盾があったって、不器用だっていい、そしてそれを歌っていい。自分の人生の主人公は自分でいいんだってことをここまではっきり歌ってくれた人はいないんです。

:そうなの〜(泣)。

背中を押してもらってきた。大人になってからもそう。(平野)

「自分の感情を歌うことは全然、大げさなことじゃない(ゆ)」

:自分は誰だ、自分は孤独だ、分かってもらえない、でも君だけにはどうか……、そんな個人的な感情をこんな大々的に、たくさんの人の前で、めちゃくちゃギラギラとしたエンターテインメントとして魅せるしかなかったお姫さま。でも、それは全然大げさなことじゃないんだよって教えてくれて、救われている人がたくさんいると思います。

:だから、ayuだって戦ってるんだ、と思うと、頑張りどきが増えるんだよね。「SURREAL」の「背負う覚悟の分だけ可能性を手にしてる」には本当に背中を押してもらってきた。大人になってからもそう。

:本当に、大人になってから響くこと多いです。また「SURREAL」の引用になりますが、「私は私のままで立ってるよねえ君は君のままでいてねそのままの君でいて欲しい」ってayuは言ってくれるんです。ayuが言ってくれるなら、私は私のままでいなきゃって思える。この世の中にそう思える歌があるだけで本当に幸運です。ayuが言ってくれてるから、私は自分では歌詞は書かなくていいと思ってました。

:でもayuは「DIVA ME」とは言ってくれないから。

:そう。だから私が言うしかない(笑)。

:長く生きるほどayuの歌への理解が深まっていきます。例えば責任ある仕事で矢面に立って初めて「ああ、ayuが背負ってたものってこれだったのか……」とかシンパシーを感じます。

:また、その背負っているものを全然下ろさないのも、ayuのすごいところですよね。

:うん。同世代の歌姫を見ても、安室奈美恵のように華々しく引退する人もいれば、人間活動を宣言した宇多田ヒカルのように立ち位置を変える人もいた。その中でayuは一歩も引かない。ハッピーエンドのその先さえ生きていく。

:引かないですよね〜。

ayuは私たちの始発駅であり終着駅。(ゆっきゅん)

2015年、4月から約3カ月にわたるアリーナツアーで全国10カ所22公演、約17万3000人を動員したツアーの横浜アリーナ公演がパッケージ化した。/平野さん、ゆっきゅんおすすめのライブDVD『ayumi hamasaki ARENA TOUR 2015 Cirque de Minuit 〜真夜中のサーカス〜 The FINAL』。浜崎あゆみのライブエンターテインメントの世界をたっぷりと味わうことができる。

:2015年のさいたまスーパーアリーナでのライブでその変わらなさに号泣しました。

:「Duty」からはじまるやつだ!あれは神セトリ。姉と号泣しました。

:ここ数年のayuのライブも最高らしいですね。行けてない……。

:はい。いいんです。今年の4月に開催された24周年ライブにも行きましたが、ayuは本当にライブが大好きなんだなと思うし、すごくファンを大切にしているんです。

:あー行きたい!

:ぜひ今度、一緒に行きましょう。今のayuをもっとみんなに見てほしい!

:再評価されるべき時はきてるよね。

:私の活動の、いや、人生のライフワークのひとつがayuの再評価なので(笑)。こんなにずっと頑張って戦ってくれている人いないですから。

:ayuに救ってもらったことのある人はきっと同じ気持ちですよね。ayuの今もこれからもずっと見届けたいです。

:「Far away」の歌詞に「ふたりには始発駅で終着駅でもあった」ってありますけど、ayuって私たちの始発駅であり終着駅ですよね。

New Release

数々のサマーアンセムを生み出してきたayu待望の夏ソング。ニューシングル「Summer Again」が配信中。また、8/17に最新LIVE DVD & Bluray『ayumi hamasaki ASIA TOUR〜24th Anniversary special @PIAARENA MM〜』をドロップ。

(Hanako1211号掲載/photo : Koh Akazawa text & edit : Kana Umehara)