パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」を掲載。ここ数年、話題の新鋭ベーカリーの出店に沸く自由が丘。“スイーツの街”がついに“パンの街”になる!? 雑貨やカフェだけじゃなく、パンや巡りもしないともったいない! 話題の2軒を紹介します。

グルテンフリーという新たな世界へ。〈Comme'N TOKYO GLUTEN FREE〉

店内風景。サンドイッチを目の前で作ってもらえるほか、パンや焼菓子ならすぐテイクアウトできる。
ユニフォーム。店舗やホームページなども統一感がある。

パンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」で優勝した〝世界一のパン職人〞大澤秀一さんは、次の挑戦の舞台としてグルテンフリーパンを選んだ。きっかけは、スタッフの佐藤優奈さんが小麦アレルギーになり、パンの製造に関われなくなった
ことだ。中学卒業以来、パン一筋だった佐藤さんにとってかけがえのないものを奪われたに等しい。

小麦アレルギーの人の気持ちを理解するため、大澤さん自身も小麦を断ち、それではじめてアレルギーの本当の苦しさに気付いた。食べられるものがない。パンやお菓子以外にも、衣やホワイトソース、症状がひどい人になると醤油まで...。せっかく食べ物屋さんに入っても選択の余地はわずか。食べ物を選べないことがどれほどのストレスか。

グルテンフリーたまごサンド702円。4種のたまご料理から選択。パン生地やソースや味付けも選べる。
海のリゾット810円。ケーキのようだが、レンチンするとリゾットに変身する。下に敷いた米粉パンと玄米が新しい相性。

そこで〈Comme'N TOKYO GLUTEN FREE〉では、好きなだけ選べるよう、カスタムサンドイッチを提供。アレルギーに苦しむ子供が楽しそうにパンを選ぶ姿に泣き出す母親も。「いつもは『おいしい』と言って感動してもらえてたけど、今度は『ありがとうございました』って感謝してもらえる。やってよかった、しかないです」

小麦粉はゼロ。代わって米粉を使う。米粉の生地はとろとろで触ることすらできず、鉄板に絞り出したり、型に流し込んだりと、パンで培った成形が通用しない世界。そんな中でも、しっかり発酵させてフレーバーを出すなど、パンの技術で、米粉パンをイノベーションしつつある。パン職人がほぼ手をつけていなかった未踏の地へ上陸した大澤さんの胸は希望で燃えている。

〈Comme'N TOKYO GLUTEN FREE〉

〈コム・ン トウキョウ グルテンフリー〉
住所:東京都世田谷区奥沢7-19-12 │地図
営:7:00〜18:00
休:火水
〈Comme’N TOKYO〉が向かい側にグルテンフリー専門店を出店。カスタムサンドイッチ、パン、焼菓子、スムージーを販売。

一度食べたらまた食べたくなるパン。〈C'EST UNE BONNE IDEE! 自由が丘〉

マラサダフランボワーズ313円。揚げたてのもっちり生地に自家製フランボワーズジャムを絞る。
フランスを意識したかわいいインテリア。午前も午後も焼きたてを提供。

昨年12月、自由が丘に2号店がオープン。川崎の本店まで行かずに、あの味が食べられるなんてめちゃくちゃうれしい。
店名を無理に言おうすると舌を噛むので「セテュヌ」と覚えればOKだ。超名店〈365日〉の杉窪章匡(すぎくぼあきまさ)シェフが愛弟子・有形泰輔シェフを送り込んでプロデュースした店。この有形シェフ、杉窪シェフの信頼があつく、自由にパンを作らせていたところ、ぜんぜん別の魅力のある店に。

自家製ロースハムのキッシュ518円。ざくざくで小麦の香り高い生地とうるおいあふれるアパレイユ。
ブラッドオレンジ291円。宇和島の清五郎農園から届けられるブラッドオレンジを使用。アニスのシロップをかけて。

クリアに素材が表現されていることは師匠譲り。同時に、熟成のおいしさをも与えつつ、デッキオーブンでしっかりと焼き込んだハード系もハイクオリティ。
キッシュは定期的に思い出しては食べたくなる。ざくざくした厚めのブリゼ生地が割れ、みずみずしいアパレイユ(粉状の生地)があふれだす。
「自由が丘食パン」をフライパンで丁寧に焼いて食べるのが好きだ。表面ぱりぱり、やわらかな中身で、国産小麦のミルキーな甘さがきらきら輝いている。
ロジカルさと繊細な感性を持ち合わせる有形シェフ。自由が丘進出を機に日本を代表する存在に飛躍していくだろう。

〈C'EST UNE BONNE IDEE! 自由が丘〉

〈セテュヌボンニデー じゆうがおか〉
住所:東京都目黒区自由が丘2-15-7 │地図
電:03-6421-1725
営:10:00〜19:00
休:火
川崎の人気店が昨年12月に東京進出。国産小麦など厳選素材を、最新製法で楽しいパンや焼菓子に仕上げる。

Navigator…池田浩明(いけだ・ひろあき)

「パンラボ」を主宰しながら、ブレッドギークとして、日本全国のパン屋さんを巡り情報を発信する。いち早く国産小麦にも注目し、日本のパンの未来をみつめる。

(Hanako1210号掲載/photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda)