京王線も明大前を過ぎれば閑静な住宅街。昔からハイレベルなベーカリーが集まる世田谷だけに舌の肥えた人たちに育てられた新鋭がますます成長中です。パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」からお届け。

〈San jū san〉斬新な食材合わせで、新感覚な味わいパン。

陳列台からこぼれ落ちそうなほど、もりもりにパンが積まれている。この景色を見て感動のあまりいきなり写真を撮り出す人さえいるという。
高加水の生地にユニークな具材を取り合わせた、最先端を行くパン。昨年11月に神奈川から移転。開店前から長い列ができる世田谷の人気店に躍り出た。店主は台湾からやってきた網代美玲(あじろみれい)さん。

日本に来てからパン作りをはじめた。2年間パン屋修業、さらに独学で研鑽を積む。どうしたらこんな見事なパンが焼けるようになる?
「ひたすら作る。ひたすら焼く」
努力の人だ。こんなにたくさんのパンを、栄養ドリンクを飲みながら、前日から寝ずに作り上げる。新作が次々登場、ラインナップも充実の一途。アイデアを得るためレストランを食べ歩く。

左上から時計回りに、和470円、ほうじ茶生地黒ゴマチョコ・マスカルポーネ・キャラメルバナナ・きなこ400円、トマト生地チーズ・玉ねぎ・ブラックオリーブ・ドライトマト・アンチョビ450円、黒ゴマ・チョコ・チェリー・ヴァロナフランボワーズチョコ430円、桜390円。
カマンベールチーズと生ハムのサンド430円、塩バターこんぶパン370円。

「『舌を鍛えろ』って(あるシェフに)アドバイスをもらって。ケチったらなにも勉強にならない。いいものしか食べないようになりました」「カモとカキのサンド」は勉強の成果。チェリーソース、赤ワインとフォンドボーのソースを取り合わせ、手間暇も原価も惜しまない。
フランボワーズチョコの生地に黒ゴマだったり、アールグレイの生地にマンゴーだったりと、端々に潜むエキゾチシズムに美玲さんの母国・台湾の感性が滲むのも魅力的だ。
たくさんの具材を並べ、片っ端から組み合わせて試し、相性を見つけるという。誰も作ったことのないパンをいつも探しつづけている。「一日中パンのことだけを考えています。目を閉じるとパンが浮かんでくるぐらいに」

San jū san 八幡山

住所:東京都世田谷区上北沢4-34-12 │ 地図
電話番号:090-6499-0033
営業時間:10:00〜売り切れ終了
定休日:日、月、火曜日
2022年11月オープン。高加水生地に斬新な組み合わせ。サンドの日など変則営業も。予約不可。

〈kepo bagels〉NYでベーグルを学び、たどり着いた独自の味。

上から、かぼちゃとラムレーズンサンド270円、ピーナツバター&ジェリーサンド281円、焼きパインクリームチーズサンド302円、ドライトマトクリームチーズサンド400円。
ホシノ天然酵母を使用した和ベーグル。味噌のような甘い香り。

店主の山内優希子さんは、小さい頃から、おもちやチューインガムなど、もちもち大好き。大人になるとベーグル愛一筋。ニューヨークに通ってベーグルショップを食べ歩き、理想の食感を見つけると、厨房にまで入って、秘密を学びとった。
たどり着いたのは2種類の生地。ジャパニーズベーグルを探求した「和ベーグル」と、本場を完全再現した「NYベーグル」。

冷蔵ケースのサンドイッチ。ほかにカスタムオーダーも可能。クリームチーズのフレーバーは季節替わりなので注意。
和ベーグル奥にNYベーグルが。

和ベーグルは、ホシノ天然酵母を使用し、味噌のような和の甘い香りを漂わせる。もにーんとスローモーションで生地が沈む。中にもちを入れた「黒豆もち」で、小麦とお米2種類のもちもちを味わう不思議体験。
NYベーグルはむぎゅむぎゅ。まるでグミを噛むように歯がめりこんでは、気持ちよくちぎれる。弾力と歯切れのバランスは本場さながら。好きなベーグルを選んで作ってもらうサンドイッチ。パストラミを何枚も重ねた「パストラミビーフサンド」などは、いかにもNYを思い出し、思わずにやりとしてしまう。
いま山内さんはカナダのバンクーバーに滞在中。現地で系列店をオープンし、海の向こうにベーグルを逆輸出しようという。いつまでも夢を追いつづける人だ。

kepo bagels 上北沢

住所:東京都世田谷区上北沢4-16-13 │ 地図
電話番号:03-6424-4859
営業時間:9:30〜17:00(事前決済予約お渡しは8:30〜17:45、カフェ16:00LO)
定休日:月、火曜日(月が祝の場合営業)

池田浩明 パンラボ

いけだ・ひろあき/「パンラボ」を主宰しながら、ブレッドギークとして、日本全国のパン屋さんを巡り情報を発信する。いち早く国産小麦にも注目し、日本のパンの未来をみつめる。
パンラボblog:http://panlabo.jugem.jp/

photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda

No. 1220

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