料理家・なかしましほさんが、気になるお店とその方に会いに行く本誌連載「散歩のレシピ」。今回は神奈川・鎌倉にある〈力餅家〉へ訪れました。

鎌倉の仕事部屋へ自転車で向かう途中、極楽寺を抜けて坂の下にさしかかると、いつもほわ〜んとお餅のよい匂いがしてくる場所があります。
〈力餅家〉は、江戸中期から続く、鎌倉を代表する老舗の和菓子屋さん。大きなのれんがかけられた年月を感じる木造の建物は、そこだけ時が止まったような風情があり、大仏などたくさんの観光スポットがあるエリアですが、私にとっては〈力餅家〉が長谷坂の下のランドマークのような存在になっています。

江戸時代から300年以上続く老舗の〈力餅家〉。道ゆく人の目をひくのれん。店名の字は、書家・林祖洞の手によるもの。

まずは食べてほしいのが、つきたてのお餅をこしあんで包んだ名物の「権五郎力餅」。箱の中に並んだ様子も美しく、何回買ってもふたを開ける瞬間、わくわくします。
そして最初はおやつのつもりで食べ始めるのですが、上品な甘さなので毎回ごはんのように食べてしまうのがお約束。
添加物などが入っていないので、賞味期限は当日中。お餅だから当然かたくなるところ逆に安心だなあと思います。
2〜4月はお餅が草餅に替わるのが楽しみで、実は年が明けると心の中でカウントダウンを始めていて、今年は何回食べられるかなあとそわそわ。
ほかにも季節の上生菓子や、カステラ生地であんこを包んだ、いろんな表情がたのしい「福面まんじゅう」など、さまざまな和菓子を作っていらっしゃいます。
そして、あると必ず買うのがお赤飯。一般的な赤飯より食べ心地が軽やかなところが好きで、ささげの風味もとてもよいのです。
安齊さんは「せいろで蒸してるからかな」とさらりとおっしゃっていましたが、ほかでは出会えないおいしさにいつも感動しています。暮らす時間が長くなると自然なことのように感じますが、歴史とあたらしいものが合わさってうまれる鎌倉の空気は、やっぱりちょっと特別なのかもしれません。
それはきっと、力餅家さんのようなお店があるからこそだと感じました。

砂糖がまぶされたものから柿の種など、色とりどりのせんべいも置かれる。
現在の店舗は70年以上経過した建物を使用している。

〈力餅家〉さんに来たら買いたいもの。

店内にはところ狭しと置かれたせんべいなどのお菓子も販売されている。ケースの中には、求肥力餅、源氏山などをはじめ、鎌倉にちなんだオリジナル商品が並んでいる。
近くの御霊神社で毎年9月に行われる例祭の面掛行列にちなんでお面を模したのが福面まんじゅう。あんことカステラ生地の甘さがほんのり。面がそれぞれ異なる。各180円。
鶴岡八幡宮境内の白旗神社に義経と静御前を象徴した「女夫石(めおといし)」があったことにちなんでつくられた夫婦饅頭。こしあん(白)とつぶあん(茶)。150円。
よもぎの旬となる春先には、餅部分が草餅になって店頭に並ぶ権五郎力餅。これを楽しみに訪れるファンも多い。10個入り750円。草餅は4月30日まで。
御霊神社には武士たちが力比べをした2つの石が祀られている。その石に供えた餅が由来となっている、求肥をできたてのあんでくるんだのが求肥力餅。各100円。
通常、お赤飯は小豆で炊かれることもあるが、皮が破れやすいことから切腹を連想させるため、関東では縁起をかついでささげが用いられる。1パック450円。

力餅家 鎌倉

住所:神奈川県鎌倉市坂ノ下18-18 │ 地図
電話番号:0467-22-0513
営業時間:9:00〜18:00
定休日:水、第3火曜
力餅のほか、神奈川県指定銘菓になった「源氏山」も人気。店の横の赤く丸いポストが目印。江ノ電長谷駅下車。

text:なかしましほ

出版社勤務の後、ベトナム料理店などを経て料理家に。2006年に〈foodmood〉をオープン。体によい素材のお菓子が評判に。著書に『たのしいあんこの本』(主婦と生活社)が。

photo:長野陽一

ながの・よういち/日本の島を撮り続ける写真家。書籍、広告、CMでも活躍。独特の世界観の料理写真にはファンが多い。食べ物をまとめた本として『長野陽一の美味しいポートレイト』がある。

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