
一食たりとも妥協したくないというライターの小石原はるかさんはプライベートでも食の世界を探求。今回はミュージシャンでありカレー界隈でも活躍するカレーおじさん\(^o^)/を招き、〝スパイス飲み〟の魅力を深掘り。
小石原はるか(以下、小石原) 2回目の登場となるカレーおじさん\(^o^)/。前回は「華麗なるカレーの世界」を教えていただきました。その時ちらりと出た話題で気になったのが「スパイスで飲む」ということ。最近人気の〈キクヤ〉然り、スパイス料理とお酒を楽しめるお店が増えているような気がします。
カレーおじさん\(^o^)/(以下、カレー) そうですね、確かに増えてきました。インド料理店ではどうしてもみんなミールス、カレー、ビリヤニあたりをパッと食べて帰るというのが多いと思うんですが。
小石原 実はつまみが充実しているので、カレーを食べずとも満足できますね。直近だと、惜しまれつつ閉店した〈ダバ インディア〉のOBが2店オープンして話題になっていますよね。
カレー その〈ゴンド〉と〈グルガオン〉はあまりに人気なので、今回はまだあまりスポットの当たっていないお店に触れていこうかと。
小石原 ありがたい!
カレー スパイス料理をつまみにお酒を飲むのって、昔からあったんです。でも浸透するのに少し時間がかかって、最近ようやく親しまれるようになってきました。その黎明期からあるのが〈インド富士〉です。
小石原 かつて東小金井にあったお店ですね。その後、高円寺に〈インド富士子〉を出して、今は水道橋に移転されたとか。
カレー はい。お昼はカレーがメインの〈インド富士子〉、夜はスパイスバル〈ムンド不二〉として営業しています。インド料理のレベルも高いし、世界各国の料理があって何を食べてもおいしいんです。一人飲みにも適していて、僕はよく一人で行きます。オリジナル「インド富士サワー」がナイスで。
水道橋〈ムンド不二〉
スパイス飲みの職人が、つまみ中心の店をオープン。
店主が通っていた食堂〈アンチヘブリンガン〉の閉業をきっかけに、「同じように楽しめるお店を」と、バルスタイルで営業。季節のフルーツや野菜を使ったヨーロピアンな前菜の横にはインドのローカル料理「チキン65」など、一つの卓に集まるのが楽しい。

店によってレシピが異なる「チキン65」。こちらではヨーグルトやニンニクでマリネした肉を揚げ、甘辛く炒めている。大1,500円。

多国籍な料理のシメにいただくカレーも、お酒に合う味わい。ランチのさっぱりとしたカレーに対し、パンチのあるメニューにアガる。

しょうが、タマリンド、ターメリック、コリアンダーなどがたっぷり入った「インド富士サワー」600円は、ノンアル対応も可能。
一人でもいろいろつまめる、親切なポーション。
選べる前菜盛り合わせや「チキン65」も、一人向けに小ポーションも用意されているのがうれしい。お酒好きの店主の心配りだ。
ムンド不二(ムンドふじ) ・多国籍料理

イラストレーターや写真家としても活躍するスタッフによる作品、間借り書店など、料理以外にも多要素で楽しめる。
住所:東京都千代田区神田猿楽町2-7-11 ハマダビルヂング2F
TEL:なし
営業時間:18:00〜23:00(インド富士子は火〜金12:00〜14:30)
定休日:日月休
席数:23席
小石原 カウンターがあって、いいですね。
カレー それで言うと〈ボンクルール〉もおすすめです。フレンチ出身のシェフが、どの料理にもスパイスを利かせたアラカルトを出しています。
小石原 定番メニューだという馬肉のタルタルがおいしそう……。つまり、これにもスパイスが使われているんですね。
カレー シェフがソムリエでもいらっしゃるので、ワインとぜひ。昼飲みにも最高です。
武蔵小山〈ボンクルール〉
掛け合わせて増幅するフレンチの香りとは???
フレンチの名店で腕を磨いた料理人の服部合沙さんは、カレー好きが高じてスパイスにのめり込んだ。ソムリエールならではの嗅覚で炒り方や組み合わせを研究し、伝統的なフレンチを軽やかに仕上げている。ワインは品種の個性が直に表れたクラシカルな品が中心。

スペシャリテの馬肉のタルタル2,700円は黒胡椒がたっぷり。「合わないスパイスでは全然おいしくならないのも発見でした」(服部さん)

紅茶のような香りのネパール山椒を振った江戸前穴子のカダイフ巻2,800円には、ナパのピノノワールを。グラスワイン800円〜。

ランチでも一品料理のシメにカレーを頼む人が多いという。シェアしながら味わうアラカルトのほか、事前予約でコースも可。
目の前で完成する芳醇な料理をできたてで。
シェフの手元まで見えるカウンター席では、仕上げに振りかけるスパイスの香りまで漂う。つられてつい予定外の注文をしてしまう。
ボンクルール ・フレンチ

主にランチ営業だが、週末はディナーも。民家の梁や床の間を残したリノベーションで居心地良く、毎日のように通う地元客も。
住所:東京都目黒区目黒本町5-12-2
TEL:03-6318-7014
営業時間:ランチ11:30〜なくなり次第終了、ディナー(金土のみ)17:30〜21:00LO
定休日:月休
席数:12席
小石原 昼飲み、大好きなワードです!
カレー 知る人ぞ知る〈マルジョウ〉でもランチからワインが飲めますよ。シェフのご実家がお茶農家で、チャイがとってもおいしいんです。お酒が飲めなくても楽しめますね。
小石原 それはいい。料理にもお茶が使われていたり?
カレー 新茶の時期には茶葉を使った品が出てくるようです。メニューは季節ごとに替わるのもおもしろい。
池ノ上〈マルジョウ〉
ビリヤニを中心に自分なりのコースを。

食材に合わせマサラ(ソース)も変え、お米と層にして炊く。ざっくりと混ぜれば色の濃淡ができ立体的な味に。穴子のビリヤニ2,750円。

さっぱりとした前菜の盛り合わせ1,095円には白を、穴子のビリヤニには軽めの赤など、おすすめのグラスを教えてくれる。900円〜。

マルジョウ ・インド料理

和食やフレンチの店で食材の扱い方を習得した店主が、旬の食材で調理。1カ月ほどで切り替わる季節のビリヤニが名物だ。
住所:東京都世田谷区北沢1-32-18 アドバンスTビル2F
TEL:03-6407-1575
営業時間:18:00〜22:00LO、土日祝12:00〜21:00LO
定休日:月休ほか不定休
席数:14席
小石原 改めて考えてみても、カレー屋さんで飲めるのって新鮮。なぜ今まで広まらなかったんでしょう?
カレー おそらく、「宗教的にお酒はNGなのでは?」という固定観念を持ってしまっていたんでしょうね。もちろんそういう信念のお店もありますが、宗教によっては全然飲みますし。
小石原 お酒が飲めること自体、想像もしていなかった的な。
カレー ネパール人が営むインド料理店を〝インネパ〟って呼んでいて、それがスパイス飲みのパラダイス。〈ローカル渋谷〉は、ネパールの若者と渋谷の若者が入り乱れていて象徴的です。近頃は他ジャンルの料理と融合したインネパ+αのお店も増加傾向にあります。
小石原 文化のミックスに寛容なんですね。たとえばどんなお店がありますか?
カレー イタリア料理店が手掛ける〈ぽるこネ。〉は、タンドール料理にイタリアンソースがかかったりしていて、唯一無二。
小石原 インネパ+α、ますます広がりそうなジャンルですね。
志村坂上〈ぽるこネ。〉
実は共通点が多い!?インネパ&イタリアン。


トロカジキマグロ1,800円にはアジョワンというスパイスが爽やかに利いたフレッシュトマトソースを。グラスワインは3種で各490円。

現地のお酒を堪能したら、セルフサービスのボトルワインを。スパイスの後味をサッと流せるキレのいいものがそろっている。
ぽるこネ。 ・ネパール料理

イタリアンの定番ポルケッタをラム肉で作ったり、サルシッチャと名乗るシークカバブ(写真1枚目、1,200円)が出てきたり。肉や魚は火入れが絶妙。
住所:東京都板橋区小豆沢2-22-13
TEL:080-9821-4176
営業時間:11:00〜14:30、17:30〜21:00LO
定休日:月休(祝の場合は翌休)
席数:12席
OTHER CHOICES
キクヤ
和の器に盛り付けたおばんざいのような創作スパイス料理を、オリジナルクラフトビールと共にいただける。定番のお好み焼きの中でもカレーおじさん\(^o^)/のおすすめ「烏賊」は、マスタードがガツンと効いている。立ち飲みも可。
住所:東京都世田谷区太子堂5-1-12 1F
ローカル渋谷
渋谷のど真ん中にあり、タイ料理や枝豆など“アジア”の多国籍料理が並ぶ。ネパール料理は現地出身者からも厚い支持を得ているそう。モモ(ネパール式餃子)、チョイラ(肉のマリネ)などはそれぞれ種類豊富で、食べ・飲み放題も実施。
住所:東京都渋谷区道玄坂2-28-2 2F
小石原はるか
こいしはら・はるか/うどん、焼きそば、肉と、好きなものにはとことんハマる “偏愛系”ライター。『東京最高のレストラン』(ぴあ)には毎年寄稿。最新刊は『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)。
カレーおじさん\(^o^)/ 論客
ミュージシャン。AKINO LEE名義で音楽活動を行い、アイドルに歌やダンスの指導、作詞作曲も行う。一日三食のカレーを欠かさず、カレーおじさん\(^o^)/として、ウェブ連載やテレビ出演、コンサルティングなど“カレー業”も幅広い。
次回のゲストは塩崎省吾さんで、「行ってみたい焼きそばの名店」がテーマです。
photo_Kaori Ouchi illustration_Chihiro Yoshii text_Kahoko Nishimura
No. 1224
No.1224 『京都の味』 2023年08月28日 発売号
今号から、Hanakoがリニューアルします。 Hanakoが創刊時から大事にしてきたDNA・食と旅を軸にして。 領域は、家の食事を楽しむためのインテリアと道具、旅の持ち物、日本各地のカルチャー情報も……。 一時的な情報だけでなく、読者のみなさんにとって、Hanakoの記事が刺激となり、脳内シナプスが多方向につながり、楽しいことがどんどん広がって、新しい世界が開いていく特集を作っていきます。 リニューアル第一号は、京都の味について考えます。 平安時代に始まり、戦国時代を通して、現代へ。古くから、日本人が京都を目指すの …
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