
小麦と酵母、水と塩でつくるパンの代表格といえば、バゲット。シンプルだからこそ、小麦の個性がはっきり際立つ。人気店のバゲットで、国産小麦6種の違いを「パンラボ」の池田浩明さん、〝日本酒界のジャンヌ・ダルク〞として知られる千葉麻里絵さんと、コーヒー文化を牽引するの店主・岡内賢治さんが分析します。
国産小麦で焼き上げたバゲットを食べくらべ

1.パンピーポー
使用小麦:ハナマンテン (埼玉県産)
埼玉育ちの強力小麦は弾力も満点!
長野で育種され、現在は埼玉でも栽培されている強力小麦。グルテンの性質が他品種に比べて強靭で、弾力感は桁違い。最適な加水を行うことでもっちりとなめらかな食感に。ハナマンテン使いの第一人者は、粉と水を合わせてひと晩ゆっくり熟成させることで“気むずかし屋”な小麦の性質を生かした「バタール」に。
「この小麦がなかなか水分を吸わない気難し屋なんです(笑)。でも、全然ごわっとしていないし、香りもすごくいい」(池田)
「噛んでいくと醤油や味噌っぽい味が出てきて面白いです。アミノ酸を感じますね。これ、カフェオレに浸したい!」(岡内)
パンピーポー
住所:埼玉県川越市砂新田1-19-8
TEL:なし
営業時間:10:00〜17:00
定休日:日月火休
Instagram:@panpeople__
2.パン・デ・フィロゾフ
使用小麦:キタノカオリ (北海道産)
〝奇跡の小麦〞の異名を持つ希少品種。
北海道産のホロシリコムギとハンガリーのGK-Szemesのかけ合わせによって生まれた品種。水分を多く吸う性質があるため、食感はもっちりしっとり。焼成によってバターに似た香りも。「バゲット・ジ・コンプレット」はキタノカオリの全粒粉を使用。もちもちした食感のなかに豊かな旨みとコクが。
「この品種はすごく甘みがある」(池田)
「クラストの香りがプリンのようなカラメルのような。同じニュアンスを持った日本酒に合わせたいです」(千葉)
パン・デ・フィロゾフ
住所:東京都新宿区東五軒町1-8
TEL:03-6874-5808
営業時間:10:00〜19:00(売り切れ次第終了)
定休日:月休
Instagram:@pain_des_philosophes
3.PANYA komorebi
使用小麦:ホクシン (北海道産)
厳寒期を乗り越えて甘みも豊かに。
秋に畑に種を蒔き、雪の下で越冬する秋播中力小麦。開発当初はうどん用として重用された。風味の豊かさにも定評あり。タンパク質量が少なく、膨らみにくいのもバゲット向き。「こもれびバゲット」は高温でしっかり焼きこむことで石臼で挽いた小麦の香ばしさを強調。焦がし味噌のような芳しい香りにも食欲をそそられる。
「皮からもミルキーさを感じますね。クラムももちもち」(岡内)
「噛んでいくとキャラメルのようなフレーバーも感じます」(千葉)
PANYA komorebi
住所:東京都杉並区永福3-56-29
TEL:03-6379-1351
営業時間:9:00〜19:00
定休日:月木休

4.カタネベーカリー
使用小麦:さちかおり (佐賀県産)
〝幸〞を運ぶ香りで人気急上昇。
日本初のフランスパン用品種として開発。小麦の普及によって〝幸あふれる食卓〞が全国に広がることを願って命名された。アミノ酸を多く含んでいるため風味が濃く、香りも芳醇。「長時間発酵のフランスパン」は粉と水を合わせた生地をひと晩寝かせ、少量の酵母で3日かけて発酵。
「さちかおりはアミノ酸が多くて食感もふくよか」(池田)
「もちもちで旨みがあります。香ばしくてミルキー。酸味と甘みのバランスもいいです」(千葉)
カタネベーカリー
住所:東京都渋谷区西原1-7-5
TEL:03-3466-9834
営業時間:7:00〜15:00(日〜14:00)
定休日:月、第1・3・5日とそれに続く火休
Instagram:@katanebakery
5.バゲットラビット 自由が丘店
使用小麦:ニシノカオリ (三重県産)
国産小麦離れした穀物感が持ち味。
タンパク質の含有量が多く、小麦本来の香りと甘みに富んでいるのが特徴。菓子パンや中華麺のほか醤油の原料としても用いられており、焼くと煎餅のような香ばしさも。「バゲットラビット」は「パン・オブ・ザ・イヤー」で金賞の受賞歴も。高加水パンに定評があり、ふっくらとした食感。
「ニシノカオリの特徴は、ナッツ感の強さです」(池田)
「食感はふわふわ、のびのび。シンプルで、焼き色も含めてやさしい小麦の味」(千葉)
バゲットラビット 自由が丘店
住所:東京都目黒区自由が丘1-16-14
TEL:03-6421-1208
営業時間:9:00〜20:00
定休日:無休
HP:https://baguette-rabbit.com/
6.ムール ア ラ ムール
使用小麦:湘南小麦 (神奈川県産)
〝湘南の恵み〞があふれる和麦。
石臼製粉プラントの〈ミルパワージャパン〉が湘南地区で契約栽培する小麦の総称。低温低湿度でゆっくり製粉。歯切れがよく、ふすまやおこげご飯などに似た独特の香りも。「石臼バゲット」は酒種酵母を使用。噛むほどに小麦の香りと甘みが広がる。
「歯切れがよくて、香りの密度がとても高い」(岡内)
「アーモンド感があって、おだやかな酸味が心地よいです」(池田)
ムール ア ラ ムール
住所:神奈川県伊勢原市板戸645-5
TEL:0463-57-3085
営業時間:11:00(土10:00、日12:00)〜17:00、火13:00〜16:00
定休日:水木休
Instagram:@moulus.a.la.meule
食べ比べをした人
池田浩明 「パンの研究所 パンラボ」主宰
自他ともに認める“ブレッドギーク”(パンオタク)で、NPO法人〈新麦コレクション〉理事長も務める。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)などがある。
千葉麻里絵 〈EUREKA!〉 店主、利酒師
恵比寿の〈GEM by moto〉の店主を務め、2022年11月、西麻布に“一期一会の日本酒”の魅力を国内外に伝えるべく〈EUREKA!〉をオープン。『最先端の日本酒ペアリング』(旭屋出版)など、著書も多数。
岡内賢治 〈CAFÉ FAÇON〉店主、焙煎士
2008年に中目黒にスペシャルティコーヒー専門店〈CAFÉ FAÇON〉をオープンしたのを皮切りに、代官山、池尻大橋にもショップを展開。他ジャンルの飲食店とのコラボレーションも精力的に行う。
photo_Kenya Abe text_Keiko Kodera
No. 1225
No.1225 『美味しいパンには、理由がある』 2023年09月28日 発売号
リニューアル二冊目は、まるごと一冊、パンの特集です。 朝、昼、夜に、おやつの時間と、美味しいパンは私たちの必需品。 探究心と遊び心を持つパン職人のおかげで、日本のパン文化は今日も進化しています。 生産背景がわかる国産小麦にこだわり、地方では薪窯でパンを焼く人が増え、 室町時代から続く麹屋の麹を採用した発酵パンも作られています。 活躍シーンも広がり、ワインに、ビールにぴったりなパンも登場。 お取り寄せできるお店も増え、食べ方も、買い方も、多種多様になりました。 北海道から沖縄まで、評判のパン屋を巡り、美味しいパンが生 …
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