政治は難しい、とっつきにくい。どこかそんなイメージを持っている人、多いのではないでしょうか。ただ、政治は私達の暮らしに直結し、無関心であることは知らぬ間に自分の人生をより豊かなものにするチャンスを逃している可能性だってある。今回は、表現やデザインのチカラで政治を身近なものにできればーーそんな想いを掲げて活動をしている「表現と政治」プロジェクトのメンバーに話を伺った。

藤田 華子 ハナコラボ パートナー/SDGsレポーター

〈RIDE MEDIA&DESIGN株式会社〉所属。編集者としてコンテンツを制作しながら、プロジェクト〈Act for Planet〉を推進。〈DRESS〉〈暦生活〉〈ランドリーボックス〉などでエッセイの執筆も担当する。

“表現のチカラ”で政治を身近に

政治は難しいもの、選挙はとっつきにくい話題、いつかは考えたいけど余裕がないーーSNSなどでの発信を見かける機会は増えたものの、政治や選挙について私たちの日常で“カジュアルに”話す雰囲気が醸成されているかといわれれば、まだまだ首を縦に振り難い実感が。そんななか、選挙が近くなると投票を喚起する多様なポスターを目にすることが増えた。イラストレーターやグラフィックデザイナーなど、さまざまなクリエイターが“投票”“選挙”をテーマに、自由にポスターを制作しWeb上で発表しているのだ。

この「投票ポスター」企画をはじめたのが、「表現と政治」について対話するプロジェクトを推進している平山みな美さん(グラフィックデザイナー)、惣田紗希さん(グラフィックデザイナー/イラストレーター)、岡あゆみさん(編集者)。政治という一見難しいテーマに対し、表現はどのように働くか?そして、そこから目指す未来について伺った。

デザインは、社会や政治に密接に関わり得る

政治は難しいもの、自分とは距離のあるもの…そう思われがちなテーマを、表現やデザインのチカラで身近なものにできればーーそんな想いを掲げて活動をしているのが「表現と政治プロジェクト。運営しているのは、同世代の3名だ。

平山みな美さん グラフィックデザイナー/環境活動家

1987年千葉県生まれ。デンマーク王立芸術大学の修士課程を経て、コペンハーゲン在住。気候変動や政治に関するプロジェクトを多く手がけ、ひとつに「NO YOUTH NO JAPAN」Instagramのデザインがある。

惣田紗希さん グラフィックデザイナー/イラストレーター

1986年栃木県生まれ。インディーズ音楽関連のデザインや装丁を手掛けるほか、イラストレーターとして雑誌や書籍を中心に国内外で活動中。Uターンというかたちで栃木県在住。

岡あゆみさん 編集者

1987年大阪府生まれ、和歌山県育ち。東京都在住。〈玄光社〉にて編集者として勤務。雑誌『イラストレーション』や、書籍の編集を担当。

岡さん

「3人で活動し始めたのは本当に偶然でした。2019年に学芸大学にある書店〈SUNNY BOY BOOKS〉にいつものように立ち寄った際に、店主の高橋和也さんから韓国のイラストレーターさんの展覧会が日韓の関係悪化によって、実現できなくなってしまったと聞いたんです。作家さんと高橋さんが展覧会を実現したいという気持ちは同じなのに、国同志の関係によって、それが阻まれてしまった。私は展覧会を楽しみにしていたひとりだったので、ひとまず日頃から政治や社会の問題について発信していた惣田さんに相談してみようと思って」

惣田さん

「その次の日、たまたま私が岡さんに会って、お話をして。日韓の個人同士では友人のひとりだったり、共通の文化を楽しむこともあって、それが政治に阻まれてしまうのが嫌で、“想像からはじめるーーSolidarity-連帯-연대ーー” というテーマのポスター展を高橋さんが企画して、私たちもそれを手伝うことにしました」

そこで高橋さん、惣田さん、岡さんが、知り合いだった平山さんをはじめとする友だちや知人に声がけ。その展示をきっかけに話すことが増えた3人は、「同世代」「同性」「クリエイター」など共通点が多く、お互い社会に対して抱いている違和感や不安にもシンパシーを感じた。展示が終わってからも、ニュースに対して意見を交わすなど交流を深めていく。

平山さん

「ある時、デザインって社会や政治に密接に関わり得るよね、と話して。業界内でそのデザインがどう見られているかと話すことはあるけど、社会の中でそのデザインがどんな役割を果たすのかについて語ることはあまりないなと思ったんです。 また個人で活動するクリエイターが何か問題に直面した時にどう考えたらいいのか、不安の共有をできる場がないなって。そういうことについて同世代で言葉を交わせたらと思い、コロナ禍にオンライントークというかたちで『表現と政治』プロジェクトを始めました」

ストレートな想いが伝わるロゴ

このストレートなプロジェクト名こそ、3人が表現を尊重し、まっすぐに社会と向き合っている様を物語るよう。最初は「デザインと政治」というネーミングも考えたというが、デザインと限定してしまうと、イラストレーションや写真、アートなどを含みにくくなり、範囲が限られてしまう。

平山さん

「あと、私は日本のグラフィックデザイン業界で和製英語が多用されていることにも疑問を持っていて。英語表現を使うことが日本語表現よりもかっこいいものとする考えから、なるべく距離をおくためにも、日本語のプロジェクト名にしたいという気持ちがあり『表現と政治』というシンプルな言葉を採用しました」

「作る」「貼る」「広める」――そして一歩を踏み出す後押しに

活動は主にふたつ。ひとつは、2020年から行っているオンライントーク。3人それぞれの専門分野や掘り下げたいことをテーマに掲げ、ゲストを招いて行った。

過去開催したオンライントーク

ふたつ目は、冒頭でも触れた投票ポスターだ。ハッシュタグをつけることで誰でも自由に参加できるかたちで、過去3回行った。

そこには、現状、約50%という低い投票率を少しでも改善しようという想いと、2013年からインターネットで選挙運動ができるようになった背景がある。以前は電話やビラ配りが選挙活動の主流だったが、たとえばWebでの投票呼びかけや、応援する候補者をSNSで明言することが解禁された。

プラットフォームとなっているWebサイト。書き込みOKのポスターもある
惣田さん

「私は東日本大震災をきっかけに原発について考えるようになり、政治を知らないと大変なことになってしまうという危機感から目を向け始めました。さっそく2013年の夏に投票をテーマにした待受画像を作って。『投票に行こう!』と言葉だけで発信するのは難しさを感じていたのですが、イラストだと言葉にしづらいことも伝えやすかったです」

平山さん

「第1回目のポスターは、投票箱と手など、わかりやすい表現が多かったんです。でも2回目には作品のステートメントを添えていただいたこともあり、クリエイターそれぞれが大事にしている想いが反映され、表現の幅が広がった印象です。テキストを読むとグッとくるというか…そのプロセスがすごく嬉しかった」

ポスターは、視覚的に楽しく考えるきっかけをもたらす。私自身、クリエイターの友人に「かわいいポスター描いていたね」などという会話から、選挙について自然に話題が及ぶこともあった。

惣田さん

政治の話をするのがタブーとされてきた空気があって、誰に投票するか決めても言いづらいというのが多くの人にあると思うんですけど、選挙は私たちが困っていることを解決してくれる政治家を決める機会。普段の生活と直結していることだから、例えば、自分はこういうことに困っているとか、あの問題はどうなっているのだろうとか、自分の身のまわりのことからもっと話せていけたらいいなと思います」

平山さん

「道端でパッと目に入ったポスターが誰にでも開かれているもの、政治や選挙に興味を持つ第一歩になったらいいなと思っていたので、政党や候補者は明記せず、身近な政策や投票することに焦点を当てた表現にしています」

当初は店舗などに掲載してもらうのはハードルが高いと考えていた。しかし蓋を開けると、書店や飲食店が積極的に掲示してくれたり、何点も並べて投票ポスター展を開催してくれたり、思いがけない展開に。ポスターをきっかけに、お客さんと選挙の話をしたという声もあったそうだ。投票ポスターを「作る」「貼る」「広める」というアクションを通すことで、誰かが一歩を踏み出す後押しになっている。

ポスターが掲示されている様子
岡さん

「コロナ禍で特に大変だったお店を営む方々から、『社会や政治に対して問題意識を持っていても、なかなか直接話しづらいこともあるけれど、投票ポスターを貼ることで自然に会話が生まれました』とご連絡いただくことも多くありました」

「#投票ポスター」が生んだ連帯感

ひとりで発信するには、勇気が必要かもしれない。でも「#投票ポスター」をつけると、会ったこともない、話したこともない同士でも不思議と連帯感が生まれ、声を挙げられる

惣田さん

「自分も何かしたいと思っていたけど、表現や言葉の言い回しに悩んだりしている人が、投票ポスターの盛り上がりを見て参加してくれたりもしました。自分の表現で何かしたいけど、ひとりで発信するのはハードルが高いと思っている人の土台になれたらいいなと思っていたので、それはすごくよかったなと思います」

平山さん

「クリエイターにはフリーランスの方が多いので、作品の表現や、投票ポスターに参加するか否かについて相談できる人がいない場合もあります。また、政治的な発信することへのリスクが0ではないなかで、プラットフォームを作れたことはよかったですし、私自身にとっても仲間が増えた感覚で、励みになります。最近はむしろ、発信しているクリエイターの方が”かっこいい”という文化ができている感じもしますよね」

バリエーションが豊かで、選ぶ楽しさもあるポスターという開いたアウトプットだからこそ、裾野が広がったのだろう。フリーダウンロードできるので、プリントして思い思いの場所に貼ることもできる。

惣田さん

「私は栃木県に住んでいるのですが、大規模なデモとか社会運動は都心で開催されることが多くて、行きたい気持ちがあっても時間とお金を捻出するのが難しい場合もあります。でも投票ポスターはWeb上のプラットフォームなので、地域差なく誰でも参加できる。自分一人で発信しても変わらないと諦めずに、どこにいても、アクションを起こしやすいようにと意識しています」

プロジェクトが広まっていく一方で、今後についての課題もある。

岡さん

「多くの方に参加いただけて本当に嬉しいのですが、仕事の合間を縫って3人で作業しているので、単純に手が足りていなくて。時間がないなかたくさんのポスターに目を通し自分たちが考える他者を傷つける表現がないかなどをチェックするのは難しいので、現在は私たちが運営するウェブサイトやSNSにアップするのは、こちらから声をかけた方々に限っています。ただ、毎回私たちもハッシュタグをチェックしているので、参加してくださっていた方にはこちらから声をかけたりもしています」

惣田さん

「回を重ねるごとに、企画に賛同したうえで自分から参加してくれる人も増えました。若い世代の人も参加しやすいように風通し良く盛り上げていきたいです」

「#投票ポスター2022」ステートメント

最後に、活動を通して改めていま伝えたいメッセージを聞いた。


惣田さん

政治は生活に直結していて、政治家は国民の困っていることを解決することが仕事です。ニュースを見ていると難しく感じることもあるんですけど、税金が高いとか、将来が不安とか、個人の困りごとから考え始めるのでいいと思います。SNSで自分と似た考えの人や、賛同できるという人をフォローすることも、意見を共有したり繋がる第一歩です」

平山さん

「気になるトピックを、まずは身近な信頼しているひとに共有してみるのもひとつです。友達とお茶している時に、自分が気になっている社会問題に触れてみるとか。日常会話のなかから、私たちの生活と地続きのものとしての社会、政治について話すことができたらすごく素敵だと思います」

岡さん

「そういう時に、イラストレーションとデザインがあればハードルが下がると思うんですよね。私は絵を描くこともデザインすることもできませんが、それらをきっかけにして身近な人と対話できることを実感していて。たとえばInstagramのストーリーズを自分なりに工夫してアップするとかも、表現のひとつですよね。クオリティに関係なく、気軽に自分の気持ちや意見を表現できる。これからも三人で表現の可能性を探りつつ、活動を続けていきたいです」

INFORMATION

もじ イメージ Graphic 展
11月23日(木・祝)〜
21_21 DESIGN SIGHTにて投票ポスタープロジェクトが展示される。
https://www.2121designsight.jp/program/graphic/