サントリーホール大ホール内。正面のパイプオルガンのパイプ総数は5898本で、世界でも最大級

大人になってからの方が、クリスマスは楽しいかも。

街にクリスマスソングが流れ、鐘の音に心躍るこの季節が好きだ。日頃は日本らしい文化を好んでいる私ではあるけれども、クリスマスだけは、思いっきりそのムードに身を浸したい……という願望がある。

けれども、都会のクリスマスというのはなかなかどうして、乗りこなすのがむずかしい。なにか予定を立てようか……と思い至った頃には人気のレストランは予約で埋まっているし、目ぼしいイベントもソールドアウト。そして直前になって「クリスマスらしい場所に行きたいな」と思いついたとしても、大勢の人が同じ思考パターンの中にいる訳で、どこに行っても大混雑。上京したての頃は白い息を吐きながらイルミネーションの大行列に並び、しっかりと風邪をひいたまま寝正月に突入したものである。

しかし東京に来てからはや12年。都会の乗りこなし方もわかってきた今は、素敵な1日を計画するだけの引き出しも増えてきた。ということで、Hanako編集部と相談しながら「2023年の東京で過ごす文化的なクリスマスの1日」をあれやこれやと考えてみた。今年の12月25日は月曜日。午前中は出来る限り家で仕事を済ませ、お昼過ぎからお出かけを楽しむ想定だ。上の動画も併せて是非、ご覧ください。

コンサート前、国立新美術館に大巻伸嗣のインスタレーションを観に行く

《Gravity and Grace》 「大巻伸嗣   Interface of Being 真空のゆらぎ」 国立新美術館、2023年 展示風景(撮影:木奥 惠三)
『大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ』は国立新美術館で12月25日まで開催中。

11月1日の開始早々、大きな話題を呼んでいる大巻伸嗣の個展『大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ』へ。入場してすぐ、広大な展示空間の中で美しく光る巨大な壺に圧倒されてしまう。一見するとクリスマスシーズンに相応しいようなキラキラとしたインスタレーション。であるのだけれども、この作品がエネルギーに過度に依存した現代社会を批評しているものであると知れば、「美しかったね」だけでは片付けられない感情が残る。足元には、詩人・関口涼子が綴った言葉があるのだけれど、光の眩しさばかりに視線を奪われ、それに気がつくことは容易ではない。

さらに進んだ先には、作家にとって過去最大規模となるインスタレーション作品『Liminal Air Space-Time 真空のゆらぎ』が姿を現す。暗闇に絶えずたゆたう大きな薄い布は、それが夢か現かもわからなくなるような景色を眼前に創り上げる。

この展覧会、どうしたことか入場無料。最終日が12月25日であるためにその日は混雑しそう……ということで、SNSで来場者の声などを確認することをお勧めしたい。

お腹を満たしたら、サントリーホールのクリスマスコンサートへ

クリスマスコンサートの日はホールも華やかに飾りつけられる(©K. Iida SUNTORY HALL)

国立新美術館を後にしたら、お次はサントリーホールへ。美術館からコンサートホールへは車だと5分程で移動できるけれど、お天気が良ければ東京ミッドタウンの横を通り、アメリカ大使館宿舎や赤坂氷川神社、そして高級住宅が並ぶ地区を歩いて行くのもなかなか楽しい(25分程のお散歩になるので、ヒールはお勧めしないけれど)。

この日のメインディッシュとなるのは、サントリーホールでのクリスマスコンサート。チャイコフスキーの『くるみ割り人形』やアンダーソンの『クリスマス・フェスティバル』など、ずらりと並んだ演目を見ただけで胸が高鳴る。ただその前に。コンサートを楽しむために欠かせないのは、適度な腹ごしらえ!

空腹でのコンサート鑑賞がつらいのは言わずもがなだけれども、とはいえ満腹で気持ち良くなりウトウト……というのも避けたいところ。サントリーホールの周辺には気軽に食べられるイタリアンやタイ料理などのお店が並ぶので、お好みの場所で腹八分目にしておきたい(ホール内でもサンドイッチなどの軽食が提供されている)。

チャイコフスキーやラヴェルの名曲に心を弾ませて

そうして準備が整ったら、いよいよコンサートホールへ。ホワイエは大きなリースやイルミネーションで飾られ、そこにこの特別な1日を心待ちにしていた人々が集う。クロークでコートを預けてうんと身軽になったら、シャンパンを一杯頼んで陽気な気分を盛り上げるのもいい。

私の楽しみは、やっぱりチャイコフスキーの『くるみ割り人形』。ディズニーの『ファンタジア』で、もしくはバレエの発表会で……人生で何度も触れてきた不朽の名曲たち。クララがくるみ割り人形と共に夢の中で旅する数々の美しい場面が蘇ると同時に、オーケストラを前にすると「あぁ、この旋律はオーボエだったのね!」「ここはホルンが!」と、新たな発見が楽しい。それにラヴェルの組曲『マ・メール・ロワ』も。それはお伽噺に基づく5つの小品を集めたものだけれども、中でも哀しい旋律から始まる『眠りの森の美女のパヴァーヌ』がたまらなく好きなのだ。

ブドウ畑からインスピレーションを得た、ワインレッドの美しい客席
ドリンクコーナー「インテルメッツオ」がリニューアル。コンサートの前や、休憩時間にも楽しめる
この時期限定のシャンパン「ヴィッラ サンディ プロセッコ DOC ロゼミレジマート」

「サントリーホールのクリスマス 2022」©N. Ikegami SUNTORY HALL(記事内最初の写真も)

聴いていると子供のころのクリスマスの思い出が浮かんだり
ホール天井の照明はシャンパンの泡をイメージし、泡のひとつひとつはぶどうの葉をモチーフとしているそう

コンサート後  The Okura Tokyoの〈オーキッドバー〉でカクテルを

さて、コンサートが終演する頃には、もう夜も深い時間になりかけているだろう。そのまま家に帰ってもいいのだけれど──それでは夢が終わってしまうようで勿体ない。ただ、この時間からも入れて、コンサートの余韻が楽しめる場所……というと限られている。そこでサントリーホールからも歩いてすぐ、〈オークラ東京〉にあるオーキッドバーを予約しておきたい。クラシカルで美しい空間は、この夜を締めくくるのに相応しい。23時までしっかりとした食事をとれるのも嬉しいところだ。

フレッシュな苺とドン・ペリニヨンを贅沢に使った、この時期だけのカクテル

コンサートの余韻に浸りながら、カクテルを楽しむ時間。そこで展覧会やコンサートの感想をお喋りしてもいいし、なにも喋らなくってもいい。出来る限りゆっくりと、夢と現を行き来したような特別な1日を反芻したい、そんな大人のクリスマス。今年の12月25日、こんな楽しみ方はいかがだろうか。(文・塩谷 舞)

塩谷 舞 / 文筆家
しおたに・まい/2018年からのニューヨークでの生活を経て2021年に帰国。note『視点』にてエッセイ更新中。著書に『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)。

サントリーホールのクリスマス 2023 12月25日(月)19:00開演

©サントリーホール

指揮・大友直人、演奏・新日本フィルハーモニー交響楽団と日本を代表するアーティストが、クリスマスの夜のフシギな出来事を描いた『くるみ割り人形』、「マザー・グース」を基に作曲された『マ・メール・ロワ』、さらに、妖精たちの物語を音楽で魅せる『真夏の夜の夢』など「お伽噺」をテーマに選曲したおすすめの名曲とお話をお届け。
S席6,800 A席5,800 B席4,800

公式サイト

サントリーホール

1986年、「世界一美しい響き」をコンセプトにヘルベルト・フォン・カラヤンら世界的アーティストの助言を取り入れ造られた日本を代表するコンサート専用ホール。日本で初めてヴィンヤード(ブドウ畑)形式を採用。東京都港区赤坂1-13-1 0570-55-0017(10:00〜18:00休館日、年末年始を除く)

公式サイト

チケット発売中。キユーピー スペシャル サントリーホール ニューイヤー・コンサート2024編

サントリーホール スペシャルステージ 2022 五嶋みどり「ソナタの夕べ Ⅱ」編

サントリーホール オルガン プロムナード コンサート編

クァルテット・インテグラ リサイタル編

text&Movie_Mai Shiotani photo_Hiroyuki Takenouchi