おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

渡辺康啓 料理家

わたなべ・やすひろ/1980年生まれ。アパレル勤務を経て2007年、料理家として独立。『毎日食べる。家で、ひとりで。』(アノニマ・スタジオ)などの著書も。YouTube「せせチャンネル」や、調理道具や調味料のウェブショップも運営。

本連載「HOME SWEET HOME」の記事一覧はこちら。

自分の定番を軸に、どんな家でも楽しく暮らす。

東京、福岡、そして東京と、拠点も住まいも次々に変え、自由に暮らしてきた渡辺康啓さん。好みも希望もいろいろあるけれど、「どんな家でも、自分で楽しむ」暮らし方が、軽やかだ。

古い戸棚とキッチンの作業台の高さがぴたり。ふだんは4人掛けとしてゆったり使うダイニングテーブルは180㎝の長さで、椅子を加えれば大人数で囲むこともできる。

2024年2月、渡辺康啓さんは新宿区内にアトリエ兼ショップを開く。四谷四丁目の交差点からすぐ、古い木造2階建ての一軒家だ。住まいは、そこと歩いて行き来できる場所にある。先に住まいが決まり、引っ越し準備をしていたところ、同時進行で探していた仕事場が願ってもない場所に見つかったのだ。
東京を拠点に17年。突如福岡に移住し、周囲を驚かせた。
「海外を含め出張も多く、ほぼ家を空けていたので、東京でなくてもいいかな、と。地方都市が元気で、新しいものが生まれている活気にも惹かれて」

コロナ禍を機に見直した働き方、暮らし方。

冷蔵庫置き場を活用した収納。キッチンペーパーケースはキャンバス地の袋を活用したお手製!
キッチンから見た玄関。「大きいタイルは掃除がしやすい」と、塵ひとつない景色が清々しい。
脚の細いコーヒーテーブルは、イタリア製のアンティーク。戸棚は、キッチンにあるものと同じで、重ねると180×180㎝の正方になる。

福岡では博多のど真ん中に、東京と同じ家賃で倍の広さのマンションが借りられた。空港が近いから東京での仕事も行き来が楽で、韓国・仁川空港を経由すれば海外もすぐ。丸6年、福岡を満喫し、2021年に再び東京へ。コロナ禍で仕事のあり方の変化を余儀なくされ、40代の体力があるうちに新しい挑戦をしようと思ったからだ。
コロナ禍は、仕事以外の生活も変えた。ラブラドールレトリーバーのジーノと暮らし始めたのだ。福岡時代、ジーノを迎えるために一度引っ越しをし、今の住まいもジーノありきで決めた。高層の高級マンションは、イメージからすると意外な気もするが「大型犬オッケーの物件は希少で、たくさんの人が犬と暮らしているから居心地がいいの」だそうだ。四ツ谷界隈は、福岡移住前に住んでいた二子玉川と、町のカラーもがらりと異なるが「昔から好きな町。都心なのに、古い路地や、個人商店が残っていて」と、満足気だ。
大型犬可の条件を別とすれば、住まいの優先事項は、やはり、キッチンだ。
「友人も料理のプロや料理好きばかりで、結局みんなキッチンに集まってきちゃう(笑)」
玄関から同じタイルでシームレスにつながるキッチンは、まさに家の顔。アイランドのカウンターは、3、4人が並んで作業できる。ダイニングは、6人掛けのテーブルの脇に冷蔵庫を置いて、余裕のある広さだ。1センチの誤差で冷蔵庫置き場に収まらなかった冷蔵庫だが「夏は、お茶がすぐ出せてすごく便利だったの」と、ポジティブ!

68㎡の1LDK。高級物件専門の不動産業者が管理するマンションとあって、築20年だが、入居時のリフォームが行き届いている。高層階の角部屋で、眺望も採光も文句ナシ。

ブランドに頼らず、センス、アイデア勝負で。

いろんな家、いろんなキッチンと付き合ううちに、細かいこだわりみたいなものがなくなって。どんな家でも自分でどうにかする。居心地よくできる。それって、すごく大事なこと」
冷蔵庫が置けなかった冷蔵庫置き場は、ボックスやハンガーバーを組み合わせて収納に。元から、そのためのスペースだったかのようだ。
前職はアパレル勤務で、洋服からインテリアまで、センスとスタイルが注目されるが、ブランドやヴィンテージに頼り過ぎないバランス感覚がある。長年愛用する家具の筆頭は〈無印良品〉のキャビネット。組み換え可能で、部屋に合わせて使えるのが、手放せない理由なのだとか。ダイニングテーブルは、脚ががたつくアンティークを卒業し、大手家具メーカーの現行品に替えて快適だ。「デザイン家電も苦手」と、朝のトーストも、霧吹きを駆使し、普通のトースターでもっちり焼き上げる。
もちろん、格別に思い入れのある家具もある。日本の古道具店で買った幅180センチ、三段構造の戸棚はその一つ。福岡に越したときに買って、約8年一緒に過ごしたが、今後は間もなく完成する店で使う予定だ。愛用するキッチン用品などを、オンラインショップで紹介した先駆けの料理家でもある。新たな店は、商品を手に取って見られるのはもちろん、「自分でどうにかする」空間づくりのセンスにも触れられそうで楽しみだ。

毎日、同じ。トーストから始まる一日。

朝食は厚切りのトーストで、食パンは「圧倒的に普通なのに、飽きないおいしさがある」と、10年以上前から浅草の〈ペリカン〉一択。福岡在住時も、友人に頼んだり、上京時にまとめ買いしたりと、欠かさなかった。バターとお気に入りのマーマレード、季節の果物とヨーグルト、ミルクティーととともに。

ESSENTIAL OF YASUHIRO WATANABE

新しいものも古いものもあり。整理を徹底して自分色に。


( STORAGE )
美しいディスプレー収納。
ラックとS字フックでパンツをショップのように収納。すると掃除機までが空間デザインの一部のよう?ラックは〈無印良品〉のもの。お見事。


( DOG )
居心地のいい暮らしの大事な相棒。
愛犬ジーノお気に入りのソファも〈無印良品〉で購入したもの。ごはんの器は〈ジノリ1735〉と、ジーノのものにはつい散財してしまうのだとか。


( LAVATORY )
清潔第一で、心地よさを叶える。
洗面所がトイレと脱衣場を兼ねた構造。お気に入りのハンドソープや手触りのいいタオルをきちんと選び、ホテルの洗面所のように整えている。

photo_Taro Hirano,Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki