2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し12年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。

 第34回では2月9日に徳島県阿南市の「あななんアリーナ」で開催された「徳島県高野連ティーボール教室」の様子をご紹介。普段は強面の高校指導者たちが「子どもたち目線」に立って気付かされた点や、子どもたちの保護者、富岡西の選手たちの声を交えつつ、野球という競技が「子どもたち目線」で地域のためにできることを考えていきます。

徳島県高校野球指導者たち、「野球のお兄さん」になる

ティーボールの打球を追いかける子どもたち

 2019年2月9日、富岡西のセンバツ・甲子園初出場に沸き立つ徳島県阿南市のスポーツ総合施設である徳島県南部健康運動公園内、徳島県南部健康運動公園野球場(アグリあなんスタジアム)に加え、陸上競技場の建設が新たに進む横にある「あななんアリーナ」玄関前では、城北のマネジャーが作成してくれた野球イラストを頭にかぶった、今風の言葉で言えば「エモい」お兄さんたちが元気にアリーナへやってくる子どもたちへあいさつをしていました。

 この日行われたのは徳島県高等学校野球連盟が阿南市の協力を得て今回初開催にごきつけた「平成30年度 徳島県高等学校野球連盟 ティーボール教室」。阿南市内を中心に集った保育園・幼稚園年代の98名と保護者の皆さんに対し、高校野球の指導者たちがティーボールを中心に「野球で遊ぶ」を教える企画です。

 ただ、そこには普段球場やグラウンドでみられる強面の姿は全くありません。ウォーミングアップでは1986年のセンバツ優勝メンバーである池田・井上 力監督が体いっぱいを使って「じゃんけん」などでコミュニケーションを図れば、親子ボール遊び、実際のティー打撃の後に行われた4組に分かれてのゲーム形式では1988年センバツでは小松島西のエースとして鳴らした池田辻・高井 正善監督が、「ポン・ポン・パー」という掛け声を使いながら投球の基本形を教ええれば、ティーボールゲームでは生光学園・河野 雅矢監督と富岡西、城北の部員たちが子どもたちと一緒にボールを追いかける姿が。

 「子どもたちはかわいいし、無邪気さがある。そして楽しいです」。城北の部員4名、名西の女子マネージャー2人と共に9人がオブザーバー役を務めた富岡西の1年生・小田 隼と秋月 秀梧がこう話したように、「野球のお兄さんたち」も心からボールやバットと戯れていたのです。

 「ティーボールボールは参加者の皆さんに贈呈しますし、用具は阿南市に寄贈します。そして、この子たちの何人かが少年野球をやってくれれば」。須崎 一幸徳島県高等学校野球連盟理事長もこの様子を笑顔で眺めていました。

「野球は楽しい」活動が今後は不可欠

子どもたち転がされる富岡西の1年生

 ただ、野球の未来は決して明るいものでないこともこの「ティーボール教室」で知ったことです。たとえば6歳児のお母さんは「このティーボール教室で子どもが『野球をしたい』と言い始めました」といううれしい話と同時にこんな事実も明かしてくれました。

 「これまでは野球は小学校からのイメージがあったので、サッカースクールとかに行っていたんです。こんな感じならできますけどね」。言われるように、どうしても競技にこだわりがちな野球を小学校前からするのは現実的ではない。これも確かでしょう。

 では、これからの野球はどうすればいいのか?「今日は勉強させてもらいました」約2時間のティーボール教室を終えた後、こう話した井上監督は子ども目線で気付いたことをこう語ります。

 「野球は楽しい原点を思い出しました。今考えれば『やまびこ打線』も爽やかに、のびのびとしていたから地域の支持を得られたわけですから、僕らも子どもたちに今の中でのびのびを探してあげる必要があると思います」

 もちろん「野球は楽しい」を伝えるためには、高校野球の力だけでは不可能です。幸いにも「野球のまち」を掲げる阿南市は「今後は市内の少年野球連盟と協力しながら、年3回くらいティーボール教室を開く予定です」(野球のまち推進課・田上 重之推進監)と、すでにさらなる「野球の楽しさ」を伝える方策を打とうとしていますが、今度はこれを各地域にいかに落とし込めるかが重要でしょう。

 そしてもし、この流れを徳島県、四国地区がシステムとして構築できれば……。四国は先人たちが築き上げた伝統に新たなものを加え、地域スポーツ振興モデルとしての1つとして野球が組み込まれる「野球の島」として再び認知されることでしょう。

(文・寺下 友徳)