甲子園で史上初の春夏連覇を達成したのが作新学院だ。

 1962(昭和37)年のことである。それから54年後に、再び全国制覇を果たした作新学院野球部。その快挙に地元は大いに沸いたが、そんな伝統ある作新学院に2013(平成25)年、女子硬式野球部も創部した。そして、この夏わずか6年目でついに悲願の全国制覇を果たした。そんな作新学院女子野球部を訪ねてみた。

恵まれているとは言えない練習環境

狭い距離から始めるキャッチボール

 創部して6年というまだまだ歴史の浅い女子硬式野球部。しかし、その実績は素晴らしい。ユニフォームも、あの甲子園で全国制覇を果たしたものと同じデザインだ。男子が全国制覇を果たして3年後の快挙である。その間にも14年夏、17年春に4強進出するなど実績を積んできていた。

 とはいえ彼女たちの練習環境は、必ずしも恵まれているとは言い難いものがある。というのも、マンモス校でスポーツの盛んな作新学院である。野球部も硬式と軟式があり、いずれもが全国トップレベルの位置しており、専用球場を有する。さらにはラグビー部、バレーボール部も全国レベル。そして、オリンピックの金メダリストの萩野公介や飛び込みの榎本遥香などを輩出した水泳部に体操競技部も強豪である。そんなスポーツ強豪校でもあるため、歴史の新しい女子野球部の施設まではなかなか環境整備が回ってこないという現実もある。

 そんなこともあって、日々の練習場は軟式野球部のグラウンド後方にある室内練習場が主な場所となっている。元々は全国制覇を果たしている男子野球部の室内練習場だったところである。だから、3人が同時に投げられるブルペンも併設されている。そこが今は、野球女子たちのグラウンドとなっている。

 平日練習は19時過ぎくらいまで。広大なキャンパス内を1周するとおおよそ1キロになるが、そのランニングから始まる。その後に入念なストレッチとアップを終えてボールを握る練習となる。日々の練習は室内練習場がメインなので、出来る練習は限られている。ボールを使った練習はトスバッティングから始まり、キャッチボールからシートノックへと流れていく。かつては、未経験の生徒も入部したことがあったが、今は中学時代かそれ以前から何らかの野球経験がある選手ばかりだ。

 指導するのは男子コーチも務めていたOBの田代恭規監督(1983年卒)で創部時から外部指導員として指揮を執っている。チームとしては大学社会人も参加するヴィーナスリーグには2チームで参加している。こうして、少しでも多く実戦を経験していくということは、特にグラウンドを保有していない作新学院女子野球部の場合は非常に大きな要素となっている。

 普段の練習では、専用のグラウンドがないので実戦形式での練習というのはほとんど出来ないというのが現実だ。だから、全体練習としてチーム練習となるのは授業後集まって1時間半から2時間くらいである。「この時間というのは、ちょうど1試合分の時間と同じです。全体練習での集中時間としては、ちょうどいい時間ではないかと思っています」田代監督はそう言うが、その時間をまずはしっかりと連携しながらやっていこうという考えだ。

 そのメニューとしては、アップ、ストレッチから始まってトスバッティング、キャッチボールと進んですぐにシートノック。これも、外野ノックはなかなか難しいので、外野手も内野の中に混じって捕球や送球練習などを行っていく。本塁送球などは、意図的にやや高めに投げていくようにという指示もしている。つまり、限られたスペースだけれども、その中で何をどのようにしていけば、より実戦練習に近づけられるのかということを、選手たちも常に意識しているのだ。

 その後に、10カ所ほどでのティバッティングとマシンを使ったフリー打撃。これでおおよそ予定していた時間が終わる。ただ、実は田代監督はその後が大事だという。「その後に自主練習ということにしているのですけれども、そこで何をどうしていくのかということですね。今年の3年生たちは、主将の生井(美桜)を中心として、この自主練習を工夫して非常に熱心にやっていました。それが、結果としてそれぞれの自信にもなり、いい結果に結びついていったのではないでしょうか」

 自主練習で、どれだけテーマをしっかり持って行かれるのか、それが大事だということを強調していた。ここでは、選手たちが週末試合での自らのもとに、取り組んでいく。作新学院としては、田代監督の考え方でもあるのだが、「女子野球であっても、打っていかなければ勝ち切れない」ということで、ことに打撃強化を課題としている。

 その背景には、「こんな環境ですけれどもね、今年の大会でも案外守りのミスというのは少なかったんですよ。守りで崩れなければ、やはり打って勝っていくということになりますよ」ということがあるようだ。

女子の指導で大事なこと

ランニングをする選手たち

 男女のスポーツの差異ということではよく比較対象として挙げられる競技にバレーボールがある。実はバレーボールでも、女子はレシーブが安定しているのでラリーが長くなることが多い。だから、逆に言えばラリーを続かせないように、一本で切っていかれる攻撃力を持っているチームはやはり強いということになる。

 野球は形が大事な競技でもある。ことに、守備というのは綺麗な形でボールを処理していかれることを求められる。また、そのことで次の送球という動作へもスムーズに移っていかれるのだ。丁寧に練習する女子は、その形を比較的作りやすい。だから、大きく崩れていくことが少なくなる。これに対して、打撃というのはそれぞれのフォームがあって、相手の投球を捉えるコツがある。そのコツ覚えていけば、パワーはなくても、何とかしていくことかできるのだ。そのコツは、それぞれが日々の練習で自分で掴んで刷り込んでいくようにして体に染みませていかなくてはならないのだ。だから、自主練習では打撃練習が中心となっていくということになる。

 今度の新チームは3年生が抜けると2年生6人、1年生8人という小世帯になってしまう。考えようによっては、それだけほとんどの選手が毎試合出場できるということにはなるのだが、やはりチームとしての選手層の薄さは否めない。しかし、この夏の中学三年生を対象とした体験入部では例年よりも、はるかに多い問い合わせや参加があったという。

 「やっぱり、優勝したという結果は大きいですね。今、1年生と2年生の人数が少ないだけに、(来春、多くの新入生が予定できることは)有り難いことですね。それに、(体験入部で)来てくれている選手たちのレベルも非常に高く、もし入って来てくれたら、これがまた、今いる選手たちにもいい刺激になるのではないでしょうか」

 と、田代監督は優勝効果が非常に高くて、いい現象をもたらしているという。

 ところで、男子選手の指導経験もある田代監督である。男子と女子とで指導に関して心掛けている違いはあるのかということを聞いてみた。

 「男子の場合だと、例えば前に言ったことがいい形でやれていれば、何も言わなくてもそれでOKということがあるけれども、女子の指導ではそれじゃダメなんですね。何も言わないと、『私のことを見ていてくれていない』という思いになっちゃうんです。だから、とにかく毎日の練習では、全員と会話をするということを心がけています。これは女子の指導ではとても大事なことだと思います」

(取材・手束 仁)

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