今夏、第101回全国高校野球選手権埼玉大会で決勝進出を果たし、甲子園まであと一歩のとこまでいった山村学園。惜しくも甲子園出場はならなかったが、2008年の創部から年々実力を伸ばしていき、近年の躍進は強豪ひしめく埼玉県の勢力図に楔を打ち込んだと言っても過言では無い。

 この僅か10年の間で、山村学園は一体どのようにして力をつけていったのだろうか。山村学園の岡野泰崇監督の言葉を辿りながら、秋季埼玉県大会西部地区予選で敗退した新チームの現状についても迫った。

「こなし」の良い選手に声を掛けて体作りを第一に考える

打撃練習をする山村学園の選手たち

 2010年に山村学園の野球部監督に就任し、チームの強化を託された岡野監督。
これまで高い能力を持った選手の獲得を試みたこともあったが、なかなか上手くいかない現状があった。

 「今でこそ強いシニアやボーイズの主力選手が少しずつ来てくれるようになりましたが、正直これまでは声を掛けても来てくれませんでした。私がいい選手だなと思って声を掛けてもみんな良い選手だと思っているので、やはり関東圏の強豪校にいってしまいます」

 そうした中で、岡野監督が考え出したのが「一芸に秀でた選手」と「こなしの良い選手」に声を掛けることであった。
強豪校に進む選手の多くは「肩が強い、足が速い、打球が飛ぶ」の三拍子のうち、最低でも二つの能力を持っており、また成長のスピードが早くために体が出来ている選手が多い。

 そこで考えたのが、「肩が強い、足が速い、打球が飛ぶ」のうち一つでいいから秀でたものを持っている選手、もしくは体は出来ていなくても神経系が整ってる「こなし」の良い選手に声を掛けることであった。



チームを率いる岡野泰崇監督

 「『こなし』がいい選手は神経系が整っているので、無いのは筋力だけです。
 ピッチャーで言えば、『今は筋力が無いから球も遅くて打たれてしまうけど、この子が大きくなって力がつけばいい選手になるよね』といった選手です。そういった力の無い選手に目をつけて、高校に入ってから体作りに力を入れて育成していくのです」

 また高校入学後の体作りにおいても、山村学園では他校とは一線を画す取り組みで選手を徹底的に鍛え上げている。
 通常であれば冬場のトレーニング期に集中的に行うウエイトトレーニングも、1年間を通してみっちりと行い、7年前からは加圧トレーニングも導入。また練習中の補食やトレーニング後のプロテインもきめ細かく摂らせて、選手の栄養バランスにも気をつけている。

 「前チームのエースだった和田 朋也も浦和シニアの二番手の投手でした。身長は173センチくらいありましたが、体重が50キロ台でとても細かったんです。またセカンド守っていた川島優も、大宮シニアの補欠でしたがとにかく足速かったんですよ。二人とも体が出来れば伸びると思った選手です」

地区予選敗退となった新チームの現状

ミーティングを行う山村学園の選手たち

 体作りを第一に考えた指導により、徐々に成績を伸ばしてきた山村学園。1年を通してチームの底上げを図ってきたことから、毎年チーム結成直後もしっかりと大会で実績を残すことが出来ていた。

 だが7月29日からスタートした今年の新チームは、これまでとは少し状況が違う。毎年ある程度は勝てていたはずの秋季大会で、まさかの地区予選敗退を喫したのだ。
 岡野監督は秋の敗因について、5月からの準備不足があったことを明かす。

 「思い返してみれば、春の関東大会に出たことで1、2年生の練習時間がなくなったかなと思っています。通常は、ゴールデンウィークが終わると、夏に向けて新チームもオープン戦を組んだりして動き出します。ですが、今回は関東大会で5月が丸々関東大会用の練習になってしまいました。新入生が例年こなすオープン戦が全く組めなかったですね」

 また前チームからの経験者がいないことも敗因の一つにある。
 山村学園は例年、レギュラーの半分は1、2年生が務めていたため、新チームへの以降もスムーズであった。だが今年は前チームの経験者は、センターを守っていた平野裕亮(2年)のみ。
岡野監督は経験者が少ない分、リーダーシップを取ってチームを牽引する選手の出現を求める。



ランニングを行う選手たち

 「みんな良い子なのですが、周りを鼓舞してリーダーシップを取る選手がいません。
 そして選手たちには言ってるんですが、キャッチボールもバッティングもノックも「いい塩梅」でやってしまいっているんですよね。「いい塩梅」というのは、全ての練習を8割でこなしてるようなイメージです。手は抜かないのですが、決して全力を出し切っている訳では無い。そこが勝てない理由かなと思っています」

 そうした中で、岡野監督がチームを牽引するべき選手として期待を寄せるのが、前チームからレギュラーである平野裕亮と長打力が持ち味の成田航大(2年)だ。
 新チームではそれぞの調子に合わせて、1番と3番を任されている平野と成田。地区予選敗退からの逆襲を期してトレーニングに打ち込む真っ最中であるが、二人は春の躍進に向けた強い意気込みを語る。

 「秋は自分の調子が悪く、全然打てなかったことがチームにも影響したと思います。この冬で長打力をつけて、チームを引っ張る人間になりたい」と平野が話せば、成田も負けじと「負けた試合ではチャンスで打つことが出来なかったので、チャンスで回ってきた時にはしっかり打てるようにして、走塁でも守備でも抜け目のない選手になりたいです」と目標を口に。
チームの課題は、選手たち自身もしっかりと自覚しているようだ。

 「来年の4月には、強いシニアやボーイズで主力だった選手たちが入ってくるんです」とリクルーティングにも変化の兆しがあることを明かす岡野監督。
 だが2020年の躍進には上級生の力は必要不可欠だ。計算された体作りと選手たちの強い気持ちで、山村学園がどこまで成長を見せるか注目だ。

(記事=栗崎 祐太朗)