昨今の高校野球では、「練習時間の短縮傾向」がある。数年前では考えられなかった取り組みであるが、徐々にそれが野球界においてスタンダードとなってきても不思議ではなくなっている。また、変革を求められる一方で、野球部員数が減少しているのも事実。

 今回は、そんな現代の高校野球の在り方について、名将たちはどう考えるのか。甲子園最多勝利記録となる68勝を挙げた智辯和歌山前監督で現名誉監督の高嶋仁氏、春夏計6度の甲子園優勝を誇るPL学園元監督の中村順司氏に「練習時間の短縮」と「減少一途の野球部員数」をテーマに話を伺った。

「積極的休養」と「消極的休養」の違い

智辯和歌山前監督で現名誉監督の高嶋仁氏

―― 学校の方針によって野球部に限らず部活動の時間を短くするとこも増えてきています。

高嶋 ええときに監督をやめたなと思います(笑)ただ、これも練習時間が短かったら、それなりにいろいろなことを考えて、効率的にできるように指導者が考えていかんとアカンでしょう。

中村 そうだね。

高嶋 1週間のうちに何日、休めとか言っていますけど、うちも前から休養日はいれていますよ。オフシーズンは日曜日とか、シーズン中は月曜日とか。ただ、休みといっても2種類ある。「消極的休養」と「積極的休養」というのがある。うちは積極的休養です。バッティングだけやらせて帰らせる。消極的というのはなにもせえへんわけですが、これはマイナスですよ。

―― 練習時間が短くなれば指導者の負担は軽減される。

高嶋 選手は楽になるやろうし、指導者は野球の勉強をする時間が作れるんとちゃうかな思います。

中村 現場の方々がより良いやり方を模索していけばいいと思います。

指導者の勝利至上主義が野球人口を減らす

PL学園元監督の中村順司氏

―― 近年、野球部員の数が落ち込んでいるのも心配です。

中村 私も小学生や中学生に教える機会があるんですが、とにかく高校の下の幼稚園、小学校、中学校のときに野球をもっと楽しんでやってもらえるようにしないといけない。道具にお金がかかってしまうといった事情もあるんでしょうけど、指導者が勝利主義になりすぎると、野球をやりたい子供たちの数は伸び悩んでしまう。

高嶋 1つはそこですよね。僕も野球教室で北海道から九州まで行ったりしますけど、幼稚園と小学校の低学年、高学年の3つに分けてやる。その中で1番盛り上がるのは幼稚園の子たちなんです。軟らかいボールと軟らかいバットで打つんですけど、本当に盛り上がる。打つことが楽しいんですね。これを高校野球まで、いかに持ってこられるか。

 でも、少年野球の子供たちに「正直に言ってよ。野球が好きな人?」と聞いてみると、チームの中で手を挙げるのは3人くらいしかいない。それで「じゃあ、監督やコーチが優しくしてくれたら野球が好きになる人?」ともう一度、聞くと、みんな勢いよく手を挙げる。そこなんです。指導する人たちは勝負にこだわってやっているんだと思いますけど、少年野球では、それはいらんと思う。楽しく教えてやることが後々に繋がっていくんじゃないかなと思います。

 だから、指導者の人には「これが現実ですよ」と話します。厳しく接していたらやめますよ。それを踏まえて指導してくださいって。子供たちに基本的なことを教えることもそうですけど、少年野球の指導者をうまく指導できたらなと思っているんです。

 高校生の指導も、高校生の気質そのものは変わっていません。ただ、育ち方が変わっている。まず、怒られていない。親父に手を出された子が一人もいない。厳しくガッーと言うと反発します。それを踏まえて指導者もやっていかないといけない。

中村 あとはやっぱりケガをさせないようにすること。子供たちに教えるときは体のメカニズムをわかりやすく教えるようにしています。せっかく野球を始めてくれても、無理な投げ方をして肩や肘や腰を痛めて、成長期に野球を断念する子がすごくいるんだと思います。指導者の方に体の使い方をしっかり教えてもらうことが小学校、中学校、高校、大学と繋がっていくんじゃないかな、と。野球を断念する子を作らない。

高嶋 高校まで来れば、甲子園という素晴らしい目標があるからやめない。

―― 今後の高校野球に期待することとはどんなことでしょうか。

高嶋 あまり変なことはせんといてほしい。タイブレークなんか、おもろないんですよ。導入された以上は従っていかなあかんですけど、本来の野球というのを、そのまま伝えてほしいなと思いますね。野球のおもしろさ、楽しさを見失わんように、甲子園大会が続いていってほしいなと思う。

中村 僕は先日、マスターズ甲子園をやらせてもらいましたが、参加資格が満40歳以上で、出場選手9名の年齢合計が450歳以上などの「寿野球」もある。高校で終わりではなく、50歳、60歳になっても野球を楽しんでほしい。

 それと、野球は人間社会の縮図のようなものでもある。私は「球道即人道」という言葉を使うのですが、試合、練習の中に将来、社会に出たときに糧になるようなことがたくさんある。1つのボールをみんなで追いかける。チームのために打ちたくてもバントをしなくてはいけないときもある。野球というチームプレーの中で体験したこと、身につけたことを、社会に出てからも生かして貢献してほしい。それらに繋がる高校野球であってほしいなと思います。

(記事=鷲崎 文彦)


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