5月20日、第102回全国高等学校野球選手権大会・地方大会の中止が決定した。戦後では史上初の決定。今まで味わったことがない事態に、指導者、選手はどう受け止めて、次に動いているのか。今回は昨春の選抜ベスト4に輝き、今春は中止に終わったものの、2年連続のセンバツ出場が実現していた明豊の川崎絢平監督に話を伺った。今年は昨秋の九州大会にも優勝し、本気で日本一を目指し、それを狙える戦力を持っていたチーム。そんな明豊はどう過ごしているのか。

ずっと一緒にいたからこそかける言葉がない

昨秋九州大会を優勝した明豊

 電話取材に協力いただいた川崎絢平監督は無念の想いを語った。
「今回は誰のせいでもない中止であり、だからこそ私たち大人として、指導者として無力感を感じる出来事であり、甲子園を夢見てこの地に集まった3年生たちには申し訳ないと感じております」
 川崎監督は夏の大会に入るまでの過程を何より大事にし、そしてチームを「1つの作品」だと表現する。うまくいかない時の葛藤や悩み苦しみ、仲間とのぶつかり合いもすべて血肉になると考えている。特に夏の大会の2月前からは3年生の心身が大きく成長する時期であり、この年代の「作品」の総仕上げの期間である。その期間を前に甲子園を目指す舞台も閉ざされてしまった苦しみ、悔しさは計り知れないものがある。

 

 今、紙面、ネットを通じて著名人の励ましの言葉が相次いでいる。非常にありがたいという声がある一方、この苦しみは当事者でしか分からないから綺麗事に聞こえてしまうという声もある。野球界の方々の中にも今の高校3年生を思いやって、「私は彼らにかける言葉がないです。すべて綺麗事に聞こえてしまう」と答える方もいた。川崎監督は「本当にその通りで、かける言葉がないんです」と同意する。

「それは指導者としてどうかなと思う気持ちもある。だけれど毎日過ごしてきて、毎日行動をともにしているからこそかける言葉がないんです。
 今回は指導者としても経験したことがない事態で、生徒の悩みといえば、打てなかったり、結果が出なかったり、辛いことから逃げたい、サボりたいという気持ちは僕らも高校時代に味わってきたことなので、それに向けてアドバイスはできるんですけど、今回は安易に気持ちが分かるよとは言い難い。選抜が中止になった時は、まだ夏の可能性があったので次につなげようなど、自分の思う気持ちをありのまま伝えましたが、今は言うべき時期でもないですし、私達の言葉を本心で受け入れるような状態でもないので、今はそっとしてあげたいと思っています」

残りの1ヶ月の過ごし方、方向性は3年生が決めてもらいたい

昨秋明治神宮大会健大高崎戦より

 ただそのままで終わらせるわけにはいかない。川崎監督は「教育者として生徒の心が折れたままでの卒業は絶対にさせない」と誓っている。必ず強い男にして卒業させたい。そのためには生徒たちには残りの野球生活をどう過ごすかを考えさせている。

 今、大分県では代替大会の開催へ向けて検討を行ってくれているそうだ。この大会はただ勝つだけではなく、3年生がどんな目的で臨むのかを問いている。

「まず高野連の方々がこういう舞台を作っていただけることはとてもありがたいことと思います。ただ今回の事態は代替大会ができたから良い結果を残そう!とかすぐに気持ちを切り替えられる状況ではないです。今回、3年生にはミーティングをしたのですが、残りの1ヶ月。どういう高校生活にしたいのか、どういう大会にしたいのか、方向性をしっかりと考えてほしいと。その方向性に対し、我々指導者は否定せず、尊重する考えです。
 ただ選手の中にはいろいろな考えがあると思いますが、1つのチームとして同じ方向性、結論にすることが大事であり、それが決まった段階で、主将、副主将が報告することになっています」

 大分高野連も3年生達の心情を慮り、大会を準備しているが、その大会を有意義なものにするのは、生徒次第だ。

「この状況で生徒に方向性を決めさせることは酷かもしれません。ですが、大人が導いた方向よりも、仲間と切り開いていく道を歩むほうが長く意志を貫けるはず。日本一を目指すと言ってきた集団だけにそこまで悪い決断をしてくるとは思っていません。
 だが、自分の理想とは違う決断がきたとしても、みんなで決めた決断なら受け入れようと思っている。その中で伝えるべきことを伝えていきたい」

川崎監督はこれからも生徒を見ながら寄り添っていく。

「この選手には、このタイミングならば、こういう言葉が響くかなということを見極めながら接していきたいと思います。まずはそっとしてあげながら、彼らのどんな思いも聞いて、受け入れてやろうと思っています」

 この言葉にあるように、川崎監督は残りの期間を3年生のために尽力したい考えが見える。

 現在、明豊は14日の緊急事態宣言が解除されてから、ユニフォームを着用した練習を再開。分散登校中の明豊は3年生が毎日登校、1,2年生は3日に1度というサイクル。そのスケジュールに沿って練習を計画し、また手洗いやうがい、検温など感染対策を徹底している。

 川崎監督が語った「教育者として、心が折れたままでは卒業させない」
これはどう選手に寄り添うか悩む全国の指導者へのメッセージではないだろうか。

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