
高田商ナイン
1月27日に出場校が決まる第95回記念選抜高等学校野球大会。大阪桐蔭(大阪)が昨年秋の明治神宮大会で優勝したことで、近畿地区の出場枠は7に増えた。それにより出場が有力視されているのが奈良の高田商。選出されれば、6年ぶりのセンバツ出場となる。
DeNAの三浦大輔監督の母校としても知られており、過去には春3回、夏1回の甲子園出場経験がある。近年も夏は4年連続で県4強以上、秋は2年連続で近畿大会に出場しており、県内の公立校ではトップクラスの成績を残してきた。
旧チームも秋の近畿大会に出場し、夏は県4強入り。下級生が多くレギュラーとして出場していたため、新チームへの期待値は大きかった。
特に戦力が充実しているのが野手陣。主将の北嶋 悠輝捕手(2年)は「県大会を見ていても、そもそも走られることが少ない」と赤坂誠治監督が話すほどの強肩捕手で、守備力や洞察力にも優れている。
他にも1年夏から1番打者に座る東口 虎雅外野手(2年)に、堅守が武器の三塁手の宮武 晃希内野手(2年)と遊撃手の山中 竜真内野手(2年)、さらに4番を打つこともあった竹中 大曜外野手(2年)と核になる選手がいた。
投手陣には多少の不安があったが、秋にかけて技巧派左腕の仲井 颯太投手(1年)と宮武 大輝投手(2年)が台頭。「夏のオープン戦も含めて、例年よりはそれなりに戦えるかなと思って秋は入りました」と赤坂監督は自信を持っていた。
例年は守備型のチームを作る高田商だが、秋の県大会は5試合で47得点と打線が機能。準優勝で近畿大会出場を決めた。

北嶋悠輝(高田商)
だが、近畿大会では2試合で1得点と打線が沈黙。「近畿大会に行って、相手のミスが少なくなってくると、2試合で1点しか取れていない。本当の意味での打力というのは、まだまだかなという感じはします」と赤坂監督は現実を受け止めている。
その中で1回戦の乙訓(京都)戦では仲井が2安打完封して初戦突破。しかし、準々決勝の龍谷大平安(京都)戦では仲井が3回4失点と攻略され、0対5と完敗を喫してしまった。
センバツにおける近畿地区の出場枠は6。4強入りした学校が当確となり、8強止まりの4校から2校が選ばれるのが通例となっている。高田商も8強に残ったことから選出される可能性はあったが、試合内容などから厳しいのではないかというのが、近畿大会終了時点での大方の見方だった。
だが、大阪桐蔭が明治神宮大会を制したことで近畿地区に増枠がもたらされる。それにより、高田商がセンバツに出場できる可能性が高くなった。それから赤坂監督は甲子園に出る前提で準備をすると選手に伝えたという。それは初戦で秀岳館(熊本)に1対11で敗れた6年前のセンバツの反省からだった。
「前回に甲子園に出させて頂いた時は正直、甲子園ということを子どもたちにあまり言わずに過ごしたんです。その時は秀岳館相手に途中まで頑張っていましたが、途中から自分たちで崩れてしまいました。阪神甲子園球場 は他の球場と違うところを僕自身も行って初めて感じたところがありました。選んで頂く以上、同じようなゲーム展開はできないですし、彼らにセンバツに選んで頂く意味の大きさを理解してほしいというのもあるので、大阪桐蔭さんが優勝されてからは、出られる確約はないですが、選んで頂く体で色んな話は始めています」
明治神宮大会が終わった11月下旬からは3月18日に開幕するセンバツから逆算してチーム作りを進めてきた。例年であれば、12月と1月は個人練習に多く時間を割くが、1月からは実戦的な練習を多く取り入れている。センバツへの準備を赤坂監督は登山に例えて話してくれた。
「普段は夏の大会というなだらかな山を見据えたら良いと思いますけど、その前にとてつもない大きな山がありがたいことにできました。山を登るにはどんな服装で行くかなど、準備を考えないといけません。3月の山を登って、下りる。そして、夏に向けてまた山に登って行く。子どもたちには例年にない山を登っていくと言っています」
6年前も指揮を執っていた赤坂監督は、前回の反省を踏まえて万全の準備を進めている。現在のチーム状況について北嶋はこう語った。
「まだまだ甲子園に向けて足りないところがあったり、逆に去年に比べて上がっている部分を感じることもあります。課題は毎日出ていて、そこを繰り返さないようにすることが甲子園で1勝することの近道だと思うので、そこをしっかり改善していきたいと思います」
センバツは彼らにとって大きな目標であると同時に夏に向けての通過点でもある。「甲子園に出て終わるのではなく、春の甲子園で1勝することも夏に繋げるための通過点になると思うので、必ず1勝して、そこからステップアップしていきたいと思います」と北嶋。まずは初戦突破を目標に掲げ、チーム一丸となって練習に取り組んでいる。
昨年の取材時もそうだったが、練習の雰囲気は明るい。特にムードメーカーの東口が積極的に声を出し、アップから活気に溢れていた。
取材日は休日の1日練習。午前中はノックやティー打撃で個々の能力を上げ、午後からはランナー付きノックで実戦力を鍛えていた。最終目標の夏を見据えながらもセンバツで結果を残すことを目指している。
彼らの努力はセンバツ出場という形で報われることができるだろうか。運命の日がいよいよやってくる。
(記事=馬場 遼)