昨年の明治神宮大会で37年ぶり2回目の優勝を果たし、大学日本一の座についた日本体育大。そのエースとしてチームをけん引し、最速150キロのストレートと多彩な変化球で秋の首都大学リーグは防御率0.77、明治神宮大会も実質予選となる関東地区大学野球選手権も含めて3試合で0.38と圧倒的な数字を残した松本 航投手。昨夏はユニバーシアードに出場する侍ジャパン大学代表にも名を連ね、大学球界を代表する選手となった松本投手にピッチングフォームについてお話をうかがった。

成績を伸ばした秋


松本 航投手(日体大)

 昨シーズンを振り返ると、春季はやや不調だったものの秋季で大きく成績を向上させた松本投手。その理由の一つとして挙げられるのがフォームを修正したことだ。
 「今、投球時に意識しているのはお腹に力を入れて投げることです。元々、トレーナーの方からそうやって投げるように言われていたのですが、『自分の体の成長が止まり、この体格でやっていくんだ』となった時、持っているパワーを出し切るためにはどう投げればいいのかを考えた結果、ずっと言われてきた『腹を締めろ』という言葉の意味が分かってきて、この投げ方に落ち着きました」

 ボールが荒れたり浮いたりする時は、腹に力が入っていないことが多いという。だから、「腹が緩んでいると感じた時は試合中でも腹筋をして力が入るようにしています。それに、腹に力を入れると、肩の力が抜けて力みなく投げられるんです」。それでは、もう少し具体的にフォームについて聞いてみよう。

自身で語る投球フォームについて


インタビューを受ける松本 航投手(日体大)

―― Q.具体的にはお腹のどの部分に力を入れているのでしょうか?
松本 腹横筋というお腹の深層部にある筋肉で、いわゆるインナーマッスルの一つです。ドローインと呼ばれる、腹をへこませて深層筋を活用する呼吸法があるのですが、そのドローインをすることで腹横筋を意識して投げています。意図としては、体幹を通して下半身で生まれたパワーを上半身に伝えてリリースまで繋げていく感じです。

――Q.体幹を使うということですが、どんなトレーニングをしているのでしょうか?
松本 体幹トレーニングはスタビライゼーションやサイドブリッジといったメジャーなものですね。あとはバランスボールに座ったまま、もしくは立ったまま重たいメデシンボールを投げたり、バランスマットに片足で立ってやはりメデシンボールを投げたり、目をつむってバランスを取ったりしています。結構、難しくて集中力がないとバランスを保ち続けられないんですが、今はウエイトトレーニングよりも体幹トレーニングの方が多いくらい重点的にやっています。

――下半身のパワーをロスしないために気を付けていることは何でしょうか?
松本 実際に投げる時は腹を斜めに突き出すようなイメージで動かして、胸を張るようにしています。

――Q.そのほかにフォームで気を付けていることはありますか?
松本 体が開かないようにして左肩を残すようにしています。自分はボールがトップの位置にある時に軸足のかかとが上がってしまい、プレートを蹴り出した後に三塁側の方向へ外回りして流れてしまう悪いクセがあったんです。そこで、右足のかかとはぎりぎりまで上げないようにし、プレートを蹴った後は真っすぐ左足の横へ踏み出すようにしました。

――Q.そのフォームを習得するために、どんな練習をしたのか教えてください
松本 体を開かないで投げる習慣を付けるため、短い距離で構わないので半身のまま腕を振って投げる練習をしました。そうやって、とにかく体を開かないで投げることを徹底したおかげで、今は投球フォームでも左肩が残るようになりました。だから、いまだに体が開いていると感じた時はこの半身で投げる方法でキャッチボールをしています。

――Q.そのフォームを習得するために、どんな練習をしたのか教えてください
松本 体を開かないで投げる習慣を付けるため、短い距離で構わないので半身のまま腕を振って投げる練習をしました。そうやって、とにかく体を開かないで投げることを徹底したおかげで、今は投球フォームでも左肩が残るようになりました。だから、いまだに体が開いていると感じた時はこの半身で投げる方法でキャッチボールをしています。
 また、こうしたフォームの修正によってボールのキレも増したという。「低めのストレートが伸びるようになって、打者がボールと思って見逃した球がストライクになったり、高めにいってもファウルになったりしてストライクが取れる形が増えました」

短期間でフォーム修正を可能にした体の柔軟性


練習中の様子

 このフォーム修正を短期間で可能にしたのは、松本投手の体の柔らかさにも一因があるだろう。「小学校2年から野球を始めたのですが、その時に母親から『テレビを見ながらでいいから、毎日、ストレッチをしなさい』と言われたのをきっかけにずっと続けてきました。いまやストレッチをやらないと罪悪感さえ抱いてしまうほどです。足を伸ばした状態で前屈する長座前屈や股関節を広げるストレッチをよくやっているのですが、特に決まったメニューはなくて、全身のどこだろうが自分が伸ばしたいところを伸ばしています。
 時間も10分ほどしかやらないのですが、毎日、続けてきたおかげで体の可動域が広がったと思います。やはり体の可動域が狭いとやりたい動きがあっても制限されてしまうので、体が固い人には特にストレッチはおすすめしたいです。それから、フォームを変える時などは、それまで使っていなかった筋肉を動かしたりして疲労がたまるので、その部分を集中的にストレッチすると良いと思います」

 松本投手を指導する辻 孟彦コーチもその柔軟性には舌を巻く。「これまでたくさんの選手を見てきましたが、松本ほど体が柔らかい選手は見たことがありません。これだけの柔軟性があればケガもしにくくなると思います」。その一方で「体が柔らかいゆえにパワーがクッションに吸収されるように、ボールに力が伝わりにくいタイプの投手でしたが、様々なトレーニングを積み重ねてきたことで入れるべきところに力が入るフォームになってきました。松本が大学に入ってから一番、変わったのは体つきだと思います」と、評価している。

 また、松本投手はコントロールについても、最近になってコツをつかんだという。「よく『コントロールを乱さないために、キャッチャーミットから目を離すな』と言われますが、自分の場合はキャッチャーミットばかりを見て投げると、そのミットを構えている場所にピンポイントでボールが行かないと『ミスしたな』と思ってしまうんです。ミットを見てしまうと、どうしてもそこに投げたくなってしまうんですね」
 コントロール良く投げたいという欲が、逆に窮屈なピッチングを招き、制球を乱す原因になっていたのだ。そこで、今は投球動作に入って足を上げた時にキャッチャーから目を離し、一旦、三塁側の方を見てから投げ始めるのだという。「あえてミットを見ないことにしたんです。良い意味でアバウトに考えて、ちょっとくらい外れていても高さを間違わなかったから良いとか、インコースやアウトコースのラインは外れていないから良いとか。あと、指のかかりが良かったから良いボールだったと自分の中で処理したり。そのようにベストボールじゃなくても良いんだと捉えるようにして、今は投げています」
 また、この視線を外した瞬間には、これから投げるボールの軌道を思い描いたり、自分のフォームのなかでチェックしたいポイントをもう一度確認したりして有効に使っており、安定感のある投球を実現させるのに大いに役立っている。そして、ベストの結果にこだわらない考え方はピンチの場面での投球にも応用している。「ピンチを迎えた時はいろいろなアウトのパターンを頭の中で整理して『このシチュエーションなら三振がベストだけれど、内野ゴロでもいい』とか、『絶対、高めに浮いてはダメだから、最悪、低めで四球になってもいい』と、考えています」

 こうして躍進を遂げた松本投手。今年の目標は「リーグ戦は春季、秋季ともに5勝。年間で10勝し、防御率は0点台を目指します。キレのあるストレートには自信があるので、そのストレートを活かすための変化球も駆使して、相手打線を抑えていきたいです」と、話している。また、「結果を残すことで自信が付き、マウンドで冷静になれるようになった」と自己を分析しているが、この好循環を支える要因となったのはフォームの修正と心身の成長だったのだ。

文=大平 明