東京五輪女子ソフトボールで、日本代表金メダル獲得の立役者と呼ぶに相応しいのが、鉄腕エース・上野由岐子投手(ビックカメラ高崎)だろう。

 大会では全6試合のうち4試合に先発と獅子奮迅の投球を見せ、特に決勝では1次リーグ最終戦で敗れたライバル米国と対戦。後藤希友投手(トヨタ自動車)に一度マウンドを譲ったものの、最終回に再登板してして無失点。13年前の北京五輪に続く大会連覇、そして胴上げ投手となった。

 上野投手は今年で現役21年目の39歳。ベテランでありながら、最前線でチームを引っ張り続けることができる背景には、若手時代から積み上げてきたメンタルコントロール術がある。

 今回は上野投手に、メンタルの側面から大会を振り返っていただき、登板前や試合中の心境も語っていただいた。


緊張感でパフォーマンスが落ちるような練習はやっていない

取材に応じる上野由岐子投手

 東京五輪開会式に先駆けて、7月21日に行われた初戦のオーストラリア戦。
 予選リーグの勝敗だけでなく、今後のチームの勢いにも影響を与える大事な試合の先発を任された上野投手だが、登板はかなり早い段階から告げられていた。

 「初戦が一番難しいというか。一番緊張感も高いし、一番慎重にもなる。そういった難しさが初戦はありますね」

 立ち上がりから積極的に攻めていくタイプの投手ももちろんいるが、上野投手は気持ちの8割近くは「慎重」から入る。自身の調子やグラウンドのコンディション、相手打線の狙いなど様々な不安を抱えてマウンドに登るが、中でも特に緊張感が走る場面は初回の投球練習だという。

 「私は足場が変わればボールが変わると思っています。ブルペンとマウンドって全然感覚が違っていて、もちろんブルペンの足場とマウンドの足場が違うこともあるし、意気込みも違うし、緊張感や相手から威圧感もあるし。
 色んなものを感じるのが試合のマウンドだと思うので、よく若い選手には足場が変わればボールが変わるから、良いイメージばかり持たないようにマウンドに上がって、そこから自分の感覚を再確認するんだよと伝えています。なので、私は初回の投球練習が一番緊張しますね」

 初回の投球練習は様々な不安との戦いであるが、かと言って、緊張で思うようなパフォーマンスが出来ないかというと決してそうではない。

 不安はあくまで不確定要素との戦いから来るもので、自身のパフォーマンスを疑ってのことではない。そこにはトップアスリートとしての矜持があり、その裏付けとして日々積み上げる練習があると断言する。

 「緊張感でパフォーマンスが落ちることは、ほとんどないですね。そんな練習を普段してないと自負していますし、そんなことで自分のパフォーマンスを乱したくない。そこは自分の中で、逆にプライドを持っています」

ルーティンは作らず体の声にフォーカスする

東京オリンピックで力投を見せた上野由岐子投手

 上野投手の言葉から強く感じるのは、不確定要素の多いゲームの中で、いかにその場その場で柔軟に対応することができるかということだ。

 普段の生活の中でも、「体が何を求めているか」に常にフォーカスを当てるという上野投手。多くのアスリートが実行しているルーティンも作らず、その時の最適解を見つけ出すことを意識して心身のコンディションを整えると明かす。

 「私はルーティンが無くて、行き当たりばったりと言うと言葉は悪いですが、試合の中では常に何が起こるかわからない状況です。自分のイメージ通りに事が進むことはあまり無くて、試合時間が急に早くなったり、腹痛が起こったり、不足の事態が起きた時でもすぐに対応できるためにも、決め事はあまり作っていないですね。

 普段のコンディショニングでも、決まった食事やトレーニングなどを行うのでは無く、自分の体が今何を求めてるかを考えます。決め事として考えない方が、気持ち的にも動きやすいのかなと思っています」

 現役生活を重ねる中で、心身の状態を徐々に感じ取ることができるようになったと語る上野選手。同じ練習、コンディショニング法を繰り返しても、毎日体の状態が変わるため同じパフォーマンスはできないことに気が付き、そこから心身の状態に合わせたコンディショニングを行うようになったと話す。

 柔軟な姿勢で準備、本番に臨むことが、上野投手にとって一番のメンタルコントロール術であるのだ。

 「体の声にとにかく敏感に意識していて、逆にルーティンとかそういった形にこだわることはほとんどないです。柔軟になんでもOKみたいなイメージです」

 では実際に、五輪期間中はどのようなことを感じながら、コンディショニングを整えてきたのか。vol.2では、メンタルコントロール術を離れて、調子を整えるためのコンディショニング術に迫っていく。

(記事:栗崎 祐太朗)