武南、西武台千葉、千葉黎明が高いレベルで充実のつばぜり合い

武南vs西武台千葉

 近年の埼玉県の戦力構図は、2013年春には優勝を果たし、今春のセンバツ大会でもベスト4に進出した浦和学院と、2017年夏に全国制覇を果たしている花咲徳栄が抜けた2強と言っていいであろう。それを春日部共栄が追うという形だ。何しろ、2011年以降は、この3校以外の甲子園出場はない。

 ただ、それを追いかける次の勢力集団としては、西部地区では山村学園、星野、川越東に2020年の代替大会で優勝した狭山ヶ丘や公立校では市立川越などがある。さらには北部地区では本庄第一に公立の伝統校である上尾、熊谷商。東部地区では新鋭私学として昌平、叡明などがある。そして、南部地区では浦和実と共に武南が健闘している。武南は、サッカー部が全国的な強豪として知られているが、野球部も今春はベスト16に進出して今年の夏はシード校となっている。エースの石橋君の注目度も高い。

 千葉県の勢力構図も、昨年春夏連続出場を果たしている専大松戸と今春のセンバツ代表校の木更津総合が2強。これを伝統の習志野が追いかけ、さらには東海大市原望洋に中央学院などが続く。それに今年は、伝統の銚子商と習志野も続きそうだ。そして、その次のグループとしては、八千代松陰、東京学館や東京学館船橋、千葉明徳、千葉敬愛、成田、東海大浦安、流通経済大柏など中堅私学と言われるところが鎬を削り合っている。西武台千葉と千葉黎明もそこに加わっていくという存在でもある。

 そんな、埼玉県と千葉県の、いわゆる第2〜第3勢力軍に位置する私学校の対戦で興味深かった。

 会場は、当初は西武台千葉で予定されていたようだが、首都大学野球連盟に所属する獨協大がグラウンドを提供してくれることで、越谷市の獨協大学天野貞祐記念球場での開催となった。吉田茂内閣時には文部大臣も務めた、獨協大学の創設者の名前を冠した球場だ。両翼100mで中堅122mの見事な球場である。この日は、この球場を管理している獨協大の亀田晃広監督も顔を出していた。

 選手たちにとっては、大会前に、こうした立派な球場で試合が出来ることは、両校選手たちにとっては幸せなことである。高校と大学が連携して、いい環境を選手たちに与えていくということもまた、大事なことではないかと再認識させられた。


ダイナミックに足を上げて投げ込む武南・石橋君

 武南には、最速146キロをマークしたということも伝わり、プロのスカウトからも注目されている石橋君という投手がいる。身長は175㎝前後だということだが、ダイナミックに足を上げて、今年のプロ野球では完全試合を達成して大いに話題になった佐々木 朗希(千葉ロッテ)を思わせるようなフォームで投げ込んでくる。注目されていくことで自分でも自信を持ってきている様子も窺えて、堂々としたマウンドだった。

 この日は、最速141キロだったが、投球内容としてもフォークボールを封印してストレート中心にまとめて、制球よく打たせて取っていくという形でもあった。だから、バッタバッタと三振を奪っていくという投球ではなかった。

 しかし、こうして組み立てていかれる投球が出来ることで、さらなる幅を広げていっていると言っていいであろう。新井功監督も、「自分で考えた投球が出来るようになってきて、ここは成長と言っていいでしょう」とスピードというよりもむしろ、投球術の向上を喜んでいた。

 終わってみれば石橋君は1、2回に3安打されたものの以降は無安打。3安打1四球で完封した。奪った三振は7つだったが、ここぞというところでビシッと決めて行っていた。このあたりも自分の投球に自信を持ってきているという証であろう。

 武南は、続く千葉黎明との試合でも2年生の石嶋君が完投。失策絡みや、やや不運な打球もあって、5失点はしたものの、内容的には悪くはなかった。新井監督も、「あれだけ投げてくれれば、今の段階では悪くはない」と評価していた。暑い中での連戦となっていくであろう夏の戦いを見据えていけば、こうして完投能力のある投手をもう一人育てておくことは大事なことであろう。さすがに埼玉県のシード校という仕上がりぶりだった。

 西武台千葉の川井君も左腕から切れのいい投球を示していた。武南との試合では、3回にちょっと勝負を急いだところを武南の上位打線につかまって、曽根君、越沼君らに長打を浴びて失点したが、内容そのものは悪くはなかったであろう。

 スリークォーター気味に腕が出てくるが、球そのものはタテの大きなカーブも武器で、縦横の変化で相手を翻弄していかれる力がある。川井君は打っても3番で、千葉黎明との試合のように、投げない時は3番左翼手として出場することが多いという。この試合での川井君は、3番打者として6回に貴重なタイムリー打を放っている。また、守っても、終盤好守を見せて、あわやサヨナラ負けというところを守りで救っていた。

 西武台千葉打線は、この川井君に続く野川君、岩田君と続く左のクリーンアップが中心だ。やや調子を落としているという4番野川君だが、丸山健介監督は、「とにかく思い切って振り抜けということを言っています。振っていけば、何とかなっていくのだから」と、この日は無安打だったけれども、夏までにはもう一度調子を上げて行ってくれることを信じている。

 春季県大会では準々決勝で拓大紅陵に敗れはしたものの、ベスト8に進出しているのは力があると言っていいであろう。「一応、シードですけれども、ウチのシードは棚ぼたですから」と丸山監督は謙遜するが、秋季大会はブロック予選で敗退したところから一冬越えて立て直してきたのはさすがである。川井君をはじめとして、真面目によく練習するチームということで、そうしたチームの真面目さが一つひとつの成果を果たしていると言っていいであろう。


千葉黎明・伊東賢生君

 この日、急遽入れてもらったという千葉黎明。この日は、練習試合を当初予定していた相手校が、コロナの影響で来られなくなったということで、「何とか試合の出来るところはないか」ということで探しながら、西武台千葉が受け入れてくれてこの日の変則ダブルという形になった。実は、この両校はつい先日の15日、この日は千葉県民の日ということで休日だったということで試合を行ったという。

 この試合では西武台千葉が大勝したということだが、千葉黎明としてはこの日はその相手に対して1対1という形で、競り合ったのは、「同じ失敗は2度はしない」ということで学習能力の高さを示したとも言えようか。

 この試合は、西武台千葉横枕君、千葉黎明河野君というエースの次を任されるであろう投手が先発。横枕君はタテの変化球を巧みに使って要所を抑えていく投球。河野君も走者は出しても巧みなけん制で刺すなど、冷静なところも見せていた。

 また、この試合は1対1のまま9回となり、西武台千葉の丸山監督は、この回から抑えとして三塁手の大島君をマウンドに送ったが、代わり端に連打で一二塁とされる。図らずも、タイブレークみたいな形になったが、そこから3人をしっかりと抑えて、タイブレークの守りのシミュレーションの要でもあった。西武台千葉としては、ここを守り切れたことで自信は得られたと言っていいであろう。

 千葉黎明は武南の試合で投げた伊東君が投手の柱となりそうだが、この試合は7回を1失点。7回に3安打を集中されて1点を失ったものの、6回までの投球は長いリーチを利した投球で巧みにかわしていた。また、守りもしっかりとしており、再三、好守も見られた。また、高木捕手も捕ってから送球動作の素早さもさることながら、送球も正確だった。リードはもちろんのこと、多面的に投手を助けていた。

 千葉黎明は、昨年秋以降に就任した中野大地監督が率いて初めての夏の大会ということになる。中野監督は、明治大から日産自動車、JFE東日本とハイレベルな社会人野球を経験している。自分が経験してきた質の高い野球を生徒たちに伝えていこうという姿勢である。「自分としては、高校野球の指導は初めてになります。いろいろな方からも話を窺って、勉強しながら、選手たちに伝えていきたいと思う」と、意欲を示している。

 夏の大会まで、あと半月を切って、本番までは実戦経験が出来るのは、あと2度の週末しかない。その時点で、こうしたいい内容の試合が出来たということは、この日、獨協大に集合した3校は、いい調整が出来ているということが言えるのではないだろうか。

 折しも、この日は父の日でもある。息子たちの試合に観戦に訪れていた父親たちにとっても、内容のある試合が相次いで、いい父の日のプレゼントになったのではないだろうか。

(記事:手束 仁)