愛情を持ってずっと一緒に暮らしていける――そう思って結婚したはずの夫婦でも、ボタンのかけ違いひとつで離婚騒動に発展することがあります。今回お話を伺ったのは、「そんなことで離婚するなんて!」と周囲にびっくりされたという女性。きっかけは些細なことでも、毎日のこととなると夫婦間の溝は大きくなっていくようです。今回も、夫婦カウンセラーの原嶋めぐみさんからのアドバイスとともにお届けします。

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甘く優しく接してくれた前夫 周囲もうらやむ夫婦だったのに

 今では別の男性と再婚をし、幸せな日々を送っている田中梨々子さん(仮名・32歳)。前夫との結婚や離婚の原因について話してくれました。以下、梨々子さんのお話です。

 前の夫と出会ったのは……以後、彼と言いますね。彼と出会ったのは、私が大学3年生のときでした。就職活動をしているときに訪問した会社に勤めていて、あれこれとアドバイスをくれたのが彼だったんです。彼は当時、31歳。中高大と1つのスポーツに打ち込んできたためか、いわゆる“男らしい”性格でした。やや強引なところはありましたが、私にはそこが頼もしく思えたんです。

 結局私は別の会社に就職したのですが、それからも連絡を取り合い他愛もない会話を続ける仲に。彼から告白を受けて付き合うようになり、付き合って2年後に結婚しました。

 彼は私にはベタベタに甘く、優しく接してくれました。結婚式はすべて私の希望通り。新婚旅行も私の行きたいところを優先してくれ、新居や家具なども2人で選びにいき、意見が違ったときは私の希望するほうを選んでくれました。優しい彼を、友人や母親、姉は「うらやましい!」と大絶賛。私もいい人と結婚できて本当に良かった! と、自分自身の幸運に酔いしれていました。

トイレットペーパーを使う量で毎日圧 夫婦間に溝が

 でも、ひとつだけどうしても気になることが出てきたんです。それが、トイレットペーパーを使う量についてでした。

 彼は中学時代に母親を亡くしていて、男兄弟の中で育ち、大学時代から一人暮らしをしていました。そのせいか、女性がトイレットペーパーを大量に使うことがどうしても理解できないようだったんです……。

 私は結婚後、専業主婦をしていたので、家のトイレを1日に6〜7回は使います。トイレットペーパーを買ってくるのはいつも彼で、シングルタイプ・2倍巻き・8個入りのものを好んで買ってきていたのですが、減るのが早いと思ったのでしょうね。ほかのことではあんなに優しいのに、「トイレで紙を使いすぎじゃない?」「ひとり暮らしのときは、1パック買ったら半年はもったよ?」って言ってきたんです。

 冗談で言っているのだと思い最初のうちは軽く聞き流していたのですが、毎回毎回同じことを言われるので「男の人は大きいものをするときしか使わないかもしれないけど、女の人は小でも大でも毎回使うんだよ。減るのが早いのは当たり前でしょ」と説明したんです。でも、彼はどうしても納得がいかない様子でした。

説明するも納得いかない様子 我慢も限界に

 女性なら理解してくれると思うのですが、生理のときなどは1ロールを2日ほどで使い切ってしまうこともあります。でも彼は「この前取り換えたばかりなのに、もうなくなってるよ!?」って……。わざわざ大げさに驚いて圧をかけてくるんです。

 本当に、それが嫌で嫌でたまらなくて。彼との結婚生活自体が色褪せたものになっていきました。親や友人からは「トイレットペーパーくらいで……」と嘆かれましたが、我慢する必要のないことを強いられる生活なんて、無理だと思ったんです。

 結婚から丸2年我慢したところで、コップの水があふれた感じになり、彼に離婚を申し入れました。彼の方もあっさりと離婚を承諾し、離婚届にサインし、関係を終わらせることになりました。

 今の夫は、彼ほど優しくもないし甘やかしてもくれませんが、逆に文句を言いやすいというか(笑)。もちろん使うトイレットペーパーの量については何も言ってきませんし、彼のように地味に圧をかけてくることをしないので気楽に過ごせています。

夫婦の揉め事で意外に多い「トイレットペーパー問題」

 たかがトイレットペーパー、されどトイレットペーパー。それぞれの価値観はあると思います。今回の梨々子さんの件について、夫婦カウンセラーの原嶋めぐみさんは次のように話します。

「まず、すんなりと離婚できて、本当に良かったと思います。そして、現在幸せであるとのことも本当に良かったですね。理由が理由ですので、もしも相手がゴネた場合、速やかに解決するためには慰謝料を支払う必要があったかもしれません。

 誰もがそうだとは言えませんが、人は、結婚に対して『理想の形』を抱いていることがあります。そして結婚生活を理想の形にするために、自分の価値観を相手に対して押し付けてしまいがちです。これはあくまでも私の推測ですが、前の夫は妻の願いを最大限に叶えてあげる自分、妻を守る自分がいる家に、強い理想の形を抱いていたように思います。ご本人にしかわかりませんが、もしかしたらトイレットペーパーの減り具合は、彼の理想のなかでこだわりたい部分だったのかもしれません。

 実はこのトイレットペーパー問題、笑えないほどよく聞く話だったりします。男性は女性が思っている以上に紙を使わずに用を足すため、男兄弟、男社会で女性のリアルを知らずに育ってきてしまうと、女性の使用量に理解が追い付かない場合があるようなのです。

 逆に、男性側が大をする際、驚くほど紙を使う点にイライラが募るという話を聞くこともあります。トイレットペーパーをシングルにするかダブルにするかで離婚する・しないの夫婦喧嘩が勃発した話もあるんですよ。生活に必要不可欠な存在だからこそ、お互いに『絶対譲れないもの』になっているのかもしれませんね」

和栗 恵

夫婦カウンセラー・原嶋 めぐみ