2017年公開の映画「幼な子われらに生まれ」で第42回報知映画賞の監督賞を受賞した三島有紀子監督(50)の最新作「Red」が21日に公開される。エリート会社員と結婚し、何不自由のない生活を送る主婦が、かつての恋人と運命の再会を果たし、心も体も解放される物語。主演の夏帆(28)と妻夫木聡(39)が濃厚なベッドシーンを演じることでも注目される大人のラブストーリーだ。三島監督に撮影エピソードや演出のこだわりを聞いた。(有野 博幸)

 理想のキャスティングが実現した。前作「ビブリア古書堂の事件手帖」(18年)に続くタッグとなる夏帆には「主役として撮りたい。この作品なら新しい夏帆さんの一面を表現できるはず」と強いこだわりを見せる。

 特に大きな瞳を意識した。「夏帆さんは目が大きくて、美しい球体をしている。生気がなくなったら、何を見ているのか分からない神秘性を感じさせる。感情を持ち始めると、全てを見透かしているように力が宿る。夏帆さんの目の変化を捉えて、(役柄の)塔子の思いを表現していこうと思った」。夏帆の瞳は物語の展開によって、全く異なる輝きを放つ。

 妻夫木にも「何しろ塔子(夏帆)の生き方を問う存在ですから、魅力的であり、なおかつ純粋さもあり、人を愛する業も持っている。それを表現できるのは妻夫木さんしかいない」と信頼を寄せる。撮影初日、役づくりのため、減量して現場に来た妻夫木に会うと「全身から渇望している感じがする」とドキッとしたという。劇中の妻夫木は行動や表情で思いを伝える場面が多く、大人の色気を感じさせる。

 夏帆は妻夫木との大胆なベッドシーンにも挑戦した。「頑張って挑戦してくれました。セックスという行為はそもそも何なのかをじっくりと考えて、相手の存在を感じ合うことではないかと話しました。鞍田(妻夫木)がずっと会いたかった塔子の存在を慈しみ、彼女を喜ばせて、解放していく」。その様子を表情で見事に表現。これまでのイメージを覆し、女優として新たな魅力を開花させた。

 ベッドシーンは2人の熱演をしっかりとカメラに収めようと演出にも力が入った。「執拗(しつよう)に25分くらい、一部始終を撮影しました。愛撫(あいぶ)から始まって、彼女が満たされた、ほほ笑みをするまで、途中で止めたら、その変化を捉えられないので、カメラを回し続けました」と振り返る。「過酷だったと思うけど、それに見合う表情が撮れたと思う」と胸を張る。

 「男女の間に言葉は必要ない」というのが持論だ。撮影初日、大雪のロケ現場で夏帆と妻夫木が食堂に入るシーンを撮影したが、「塔子と鞍田ではなく、普通に夏帆と妻夫木が食事に来たようにしか見えない」とダメ出し。「塔子と鞍田はどんな思いで食堂に入ってきたのか、どんな会話を交わしたのか、想像してください」と訴えた。細かく指示するのではなく、役者本人に感じてもらうのが三島流の演出だ。

 映画を通じて表現したかったのは「男女の物語」だけでなく、「最近、自分の尺度を持った人が少ない。そのことに恐怖心を感じる」という思いも。「塔子(夏帆)は感情を内面に押し込めて、何も悩みがないかのように生きている。それが、鞍田(妻夫木)と出会うことで『あなたにとって、何が大切ですか?』と問いかけられる。それを描けたら、現代社会に投げかける意義がある」。それは観客へ問いかけるメッセージでもある。

 ◆「Red」 直木賞作家・島本理生氏の同名小説が原作。裕福な夫、かわいい娘、何も問題のない生活を過ごしていた塔子(夏帆)が、10年ぶりに、かつて愛した男・鞍田(妻夫木)に再会する。鞍田は塔子の気持ちを少しずつほどいていく。現在と過去が交錯しながら向かう先の、誰も想像しなかった塔子の決断とは―。映画オリジナルの結末に心を揺さぶられる。123分。R15+。

 ◆三島 有紀子(みしま・ゆきこ)1969年4月22日、大阪府生まれ。50歳。神戸女学院大在学中に自主映画「夢を見ようよ」を製作。卒業後の92年、NHKに入局。ドキュメンタリーを中心に手掛ける。03年に退局し、09年に「刺青〜匂ひ月のごとく〜」で映画監督デビュー。17年に「幼な子われらに生まれ」で国内外10以上の賞を受賞。主な作品は「しあわせのパン」(12年)、「少女」(16年)、「ビブリア古書堂の事件手帖」(18年)など。名前は三島由紀夫ファンの父親が命名した。