スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、2019年のノーベル化学賞を旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)ら3氏に授与すると発表した。スマートフォンなどに広く使われるリチウムイオン電池を開発し、現在の情報化社会を支える成果として高く評価された。日本人のノーベル賞受賞は2年連続27人目。吉野氏はこの日夜、東京・千代田区の旭化成本社で会見。約300人の社員の歓声に包まれた中で、笑みを絶やすことなく「みんなで、明るい話題で大騒ぎすることが必要」と受賞の喜びを分かち合った。

 現代の生活において手放すことができなくなったスマートフォン。その「命」ともいえるリチウムイオン電池を開発した吉野氏が、2010年の鈴木章北海道大名誉教授(89)と根岸英一米パデュー大名誉特別教授(84)以来9年ぶり、8人目の化学賞に選ばれた。

 受賞が決まった瞬間、本社ホールでは約300人の社員から歓声が上がった。間もなく、万雷の拍手の中を吉野氏が登場。その場にいた全員の顔は、旭化成のかつてのCM「イヒ!」ではないが、笑顔にあふれていた。

 過去の受賞者と比べて余りにも早く、そして多くの人が集まった受賞会見。その理由は、社員に愛される吉野氏の人柄からだった。関係者によると、ノーベル賞の有力候補として名前が上がるようになった7〜8年前から、毎年発表の日には社員の有志が集まり、「その時」を待っていたという。昨年までは「また来年頑張ります」と“敗戦の弁”を述べていた吉野氏から、ついに「ありがとうございます」の感謝の言葉が発せられた。

 その人柄を表すように、会見の言葉には個人よりも周囲と喜びをかみしめたいという気持ちが感じられた。「社員のお子さんが『親が勤めている(会社の人が受賞した)んだ』と喜んでくれるとありがたいと思いますね。全英でしぶこさん、ラグビーでアイルランド。明るい話題で大騒ぎするのが必要。子供達が将来を決めるきっかけにしてもらえればと思います」。ゴルフ・全英女子オープンで優勝した渋野日向子(20)、W杯で大金星を挙げた日本代表を話題に挙げ、受賞が後進の励みになることを願った。

 受賞の理由となったリチウムイオン電池が、最も貢献したといえる携帯電話を、実はしばらく持っていなかった。「広く使われ始めたのはガラケーですよね。でも携帯に拒否感がございまして。『便利なツールが出た』と皆さんが思っていた時には実感しておりませんでした。一応、買ったのは5年前。スマホでした。それまでリチウム電池を実感しないままだったんですね」。携帯で世界中の人たちの生活を変えた人物が、実はつい最近まで“蚊帳の外”だったと明かし、笑わせた。

 リチウムイオン電池には、まだ将来の展望があるという。「技術は進んでいく。モバイルから電気自動車、飛行機を飛ばそうというところまで来ています。まだ謎だらけなんです」。自らが開発したリチウムイオン電池が、更に時代の変革を起こす将来を思い描いていた。

 ◆吉野 彰(よしの・あきら)1948年1月30日、大阪府吹田市生まれ。71歳。70年京都大工学部石油化学科卒、72年京大大学院工学研究科を修了し、旭化成工業(現旭化成)に入社。電池材料事業開発室長などを経て、2003年に同社フェロー。17年から名誉フェロー、名城大教授。電池材料メーカーによる技術研究組合「リチウムイオン電池材料評価研究センター」(大阪府)の理事長も歴任。04年に紫綬褒章受章。13年にロシアのノーベル賞ともいわれるグローバルエネルギー賞、18年に日本国際賞、19年に欧州特許庁の欧州発明家賞受賞。神奈川県在住。家族は妻・久美子さんと1男2女。