「魔法のコトバ」を発することはできなかった。札幌市内の地下にあるカラオケボックスでスピッツの「魔法のコトバ」が流れ始め、イントロが終わり、私がさあ歌おう、という時だった。いきなり曲が切れ、電気も消えた。一緒にカラオケをしていた2人のいたずらか?と思ったが、そうではなかった。

 9月6日午前3時10分すぎだったと記憶している。北海道内は突然の停電に見舞われた。日本代表合宿取材で札幌市に滞在しており、午前3時8分の大きな揺れも経験した。最大震度7の北海道胆振(いぶり)東部地震だ。恐怖も感じたが、地下だったせいか、同じ時間にホテルで寝ていた人ほどの恐怖はなかった。だが、地上に上がり、外に出たら繁華街のススキノは真っ暗だった。

 日本代表は札幌市内の厚別公園競技場にほど近いホテルに宿泊。選手たちは20階に泊まっていたらしい。後日取材したFW小林悠(川崎)は寝ている時に大きな揺れと携帯電話の緊急地震速報の音で目が覚めたという。20階の揺れは相当なものだったようだ。「初めて家族と会えなくなるかと思いました」と恐怖心を語っていた。

 日本代表の宿泊しているホテルは地震後の対応が素晴らしかった。市内のほとんどが停電する中、自家発電があり、電気がついた。断水もすることがなく、選手たちはシャワーも浴びることができた。それだけではない。ロビー脇では宿泊者以外にも携帯電話の充電用にコンセントを解放。夕方からは炊き出しでカレーなどを無料で提供した。多くの外国人旅行者が列を作っていた。また、ロビーにあるパン店はパンを焼いて、販売。初日はケーキまであった。一流ホテルの素晴らしいホスピタリティーを感じさせられた。やはり施設だけでなく、サービスも素晴らしいと実感させられた札幌出張だった。

 ◆恩田 諭(おんだ・さとし)1978年、島根県松江市生まれ。2001年に入社し、静岡支局ではJ1磐田担当として史上初両ステージ制覇を取材。2008年北京五輪、18年ロシアW杯も現地で取材した。