2019年5月、国内の民間企業が独自開発したロケットとしてはじめて宇宙空間に到達した小型観測ロケット『MOMO』。未来へつながる偉業を成し遂げたのは、大樹町に本社を構えるインターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST株式会社)です。

「実は宇宙って身近なものなんです」そう語るのは、IST株式会社社長の稲川貴大さん。大学卒業後、IST株式会社へ入社し、現在は代表として日本の宇宙産業をけん引しています。

今回は稲川さんがロケットをつくりはじめたきっかけから、北海道における宇宙産業の可能性までたっぷりお話を伺いました。

稲川貴大(いながわ・たかひろ)。1987年、埼玉県生まれ。東京工業大学卒業後、大手カメラメーカーへの入社を直前で辞退しインターステラテクノロジズ株式会社入社。2014年に代表取締役社長に就任。2019年に打ち上げた観測ロケット『MOMO』が国内の民間企業ではじめて宇宙空間に到達。2020年には宇宙開発についてわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「ロケット大学 いなチャンネル」を開設。

ニコニコ動画、ホリエモン…ロケットづくりへ導いた偶然の数々

北海道Likers編集部:大学生の頃からロケットに関心を持ちはじめたとのことですが、何かきっかけはありましたか?

今回の取材はオンラインで行いました。

稲川さん:「ロケットはつくれる」と気づいたことがきっかけでした。

もともと、ものづくりにハマったのは高校生の頃。工芸部で木工家具をつくっていました。インターハイに出場する機会に恵まれ、将来はものづくりで生きていきたいと思うようになったんです。

大学生時代(右が稲川さん)

大学では飛行機づくりに熱中。人力飛行機の滞空距離を競う『鳥人間コンテスト』に参加し、2年生で優勝、3年生で4位になって「やり切った」と感じていました。

そんなとき、北海道大学の永田晴紀先生と植松電機さんの『CAMUIロケット』打ち上げ中継をニコニコ動画でたまたま見て「ロケットってつくれるんだ!」とものすごい衝撃を受けました。

そこからロケットサークルを設立。大学の先生や企業にロケットづくりを学びに行きました。そのひとつが「なつのロケット団」としてロケット開発をしていたSNS株式会社(のちにIST株式会社が事業を継承)だったんです。

大学卒業後はロケット業界へ進みたかったのですが、やはり狭き門。結局、カメラメーカーに就職を決め、ロケットは趣味として続けるつもりでした。

IST株式会社入社4か月、堀江貴文さんと(左から1番目が稲川さん)

入社直前の3月29日。学生最後のお手伝いとして「なつのロケット団」のロケット打ち上げに参加しました。地上で爆発し、打ち上げは失敗。残念だなと思っていたとき、声をかけてくれたのがIST株式会社ファウンダーの堀江貴文さんです。

「君どうすんの?」「つくりたいのはカメラ?ロケット?どっち?」「一緒にやろう!」

そんな堀江さんの言葉に背中を押され、その日のうちにIST株式会社へ入社を決めました。ロケット業界への興味、宇宙産業の可能性、ベンチャー企業の面白さに惹かれていたし、きっかけをくれた堀江さんと一緒にチャレンジしてみよう!と思ったんです。

大樹町には挑戦を応援するムードがある

北海道Likers編集部:2014年には社長に就任、幾度もロケット打ち上げに挑戦されています。なかでも2019年の『宇宙品質にシフト MOMO3号機』(以下、MOMO3号機)の宇宙空間への到達は衝撃的な出来事でした。

MOMO3号機

稲川さん:ロケットの打ち上げは、国でしかできないといわれてきました。でも物理的には民間で実現可能だし、アメリカではすでにスペースXが成功していたので、やれば絶対できると思っていたんです。

これまでの苦労や挑戦が華開いた『MOMO3号機』の成功は喜びが爆発しました。20人くらいの会社規模で、ロケットをイチからつくって宇宙空間へ到達した。この実績で、世の中の常識を覆すことができてよかったです。

北海道Likers編集部:大樹町だからこそチャレンジできると感じることはありますか?

稲川さん:ロケット打ち上げ会社の強みは、ロケット射場を持っているかどうか。広い場所や周辺地域のサポートが必要になるので開拓が難しいんです。ロケットベンチャーと呼ばれる会社は世界に100社以上ありますが、ロケット射場のプランがない会社がほとんどといわれています。大樹町には民間にひらかれた北海道スペースポート(宇宙港)があり、その中のLaunch Complex-0というロケット射場で私たちは『MOMO』の打ち上げやエンジン燃焼試験をやっています。

大樹町のロケット射場

大樹町は広くてロケット射場の拡張性が高いため、今後もさらなる射場建設を行う予定です。また、自治体や地元の方のサポートが手厚い。人口約5,000人の町で、約200人の方が大樹インターステラ後援会として協力してくださっています。これは圧倒的なアドバンテージです。

十勝特有のチャレンジ精神や民間が主体となる地域性も魅力的だと感じています。外から来た人や新しいチャレンジを応援してくれるムードがある。私たちだけロケットを打ち上げているのではなく、みんなで“宇宙のまちづくり”に挑戦している感覚です。ロケット打ち上げやスペースポートを核として、宇宙産業のシリコンバレーを北海道大樹町につくるという壮大なビジョンの実現に向けて邁進しています。

防災や漁業にも役立つ?宇宙をもっと身近に

北海道Likers編集部:宇宙産業やロケットと聞くと、どうしても遠い存在に感じてしまいがちです。北海道に住む人々にとってはどんな意味があるのでしょうか。

稲川さん:「ロケットは打ち上げが楽しいもの」とエンターテイメント的に捉えられることが多いですが、それ以上に産業的な意味があります。

1つは雇用。ロケット開発は労働集約型の産業です。大樹町は地理的にも宇宙産業にピッタリな場所でポテンシャルがある。北海道スペースポートを中心に、将来は宇宙産業の集積地となり、雇用が生まれると思います。しかも先端産業なので、若くて面白い人材もたくさん集まるはずです。

組織も成長中。2021年春からは従業員も60名になった。

2つ目は観光。南十勝は観光地としてあまり強くありませんが、ロケット打ち上げが盛んになれば観光の目玉になりえます。

最後に“宇宙を使う(宇宙利用)”観点で考えると、ロケットで打ち上げた人工衛星のデータが、防災や農業・漁業といった一次産業にも役立つというポイントもあります。

たとえば、木の本数って正確に把握できていないじゃないですか。台風や地震で土砂崩れがあっても、人力では限界がある。そんなとき宇宙から見た地球のデータがあれば、防災の強化につながります。

一次産業のスマート化にも宇宙は役立ちます。実際、すでに海水面の温度から魚のいる場所をデータ化したサービスや養殖網の形状把握の実証実験が行われているんですよ。

北海道Likers編集部:思っている以上に、宇宙は私たちの生活に関係しているんですね。今後はどのように北海道を盛り上げていきたいと考えていますか。

稲川さん:雇用や観光に貢献するためには、ロケットをたくさん打ち上げることが必要です。年に1〜2回ではなくて、5〜10回打ち上げられるようにしたいと思っています。

Our stars株式会社の人工衛星

宇宙を利用するという意味では、子会社として設立したOur stars株式会社で人工衛星の開発を進めていきたいです。この衛星ができれば防災や幅広い産業への宇宙利用が進み、北海道だけではなく世界規模での課題を解決することができると考えています。

 

―――自分の気持ちに正直にチャレンジを続けた結果、宇宙産業の歴史に1ページを刻んだ稲川さん。挑戦はこれからも続きます。可能性あふれる宇宙産業。最高の環境が揃った大樹町で、開拓精神が旺盛な仲間とともに、自らの手で未来を切り拓く。こんな面白い仕事はそうそうありません。稲川さんのお話を聞いていたら、未来が楽しみになりました。