山歩きをしていると、背中に密着する薄いザックを背負い、ショートカットのシューズを履いて登山道を駆け抜けていく軽装のランナーたちに出会うことがある。不整地を走るトレイルランニング(トレラン)を楽しむ人たちだ。都市部に近く適度な距離とアップダウンのある縦走路は人気があるようで、第17回「二葉山〜尾長山〜牛田山」(https://hread.home-tv.co.jp/post-129543/)や、第50回「安芸アルプス㊦」(https://hread.home-tv.co.jp/post-236553/)でも行き会った。広島市近郊にもいくつか大会が開かれるコースがある。その一つで、11月5日に「可部連山トレイルランinあさきた」が開かれたばかりの、南原峡を囲む山々を巡るルートに挑戦してみた。

 

新太田川橋を走るバスから見た可部連山。中央の鋭鋒が可部冠山。右中ほどに南原ダム

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)広交バス南原研修センター線(おとな片道490円)/横川駅前(8:28)→(9:14)スポーツセンター前

帰り)広交バス桐陽台線(おとな片道450円)/南原口(16:52)→(17:29)横川駅前

 

可部連山地図

 

「可部のマッターホルン」

今回目指すのは堂床山(859.6メートル)、西冠山(721メートル)、可部冠山(735.6メートル)の3山をめぐるルートだ。トレラン大会ではショートコース(16キロ)に設定されている。新太田川橋付近にさしかかったバスから見ると、まさに貴族の冠のような形をした鋭鋒が印象的だ。ヨーロッパアルプスの名峰になぞらえて「可部のマッターホルン」という呼び方もあるそうだ。右下には南原発電所を構成する南原ダムが見える。主に岩や土を積み上げて築くロックフィルダムだ。

 

バスを降り、まずは南原発電所を目指す

 

最寄りのスポーツセンター前バス停についたのは9時14分。帰りのバスは15時44分。行動時間6時間30分は少しタイトだが、これを逃すと次は17時29分の最終便までない。ま、何とかなるだろう。

堂床山登山口のある龍頭ヶ原園地までは約3キロの上り基調のロードを歩く。トンネルを抜け、南原ダムとダム湖を過ぎ、約40分で登山口に着いた。と、右手の茂みで物音がしたので目をやると、約20メートル離れたあたりから立派な角をはやした雄シカがこちらをうかがっている。刺激しないようそっと通り過ぎた。

 

トンネルを抜けると

 

青空を水面に映すダム湖が現れた

 

龍頭ヶ原園地で出会った雄シカ

 

2つの滝めぐり

遊歩道のように整備された道を川沿いに500メートルばかり進むと、眼前に落差20メートルほどもある三段滝が現れた。加賀津ノ滝だ。水量は少なめだが、方向を変えながら流れ下るさまはなかなか優雅だ。

 

三段に流れ落ちる加賀津ノ滝

動画もご覧ください

 

滝の横の急階段を上って滝の上部に回り、さらに川沿いに10分ほど遡ると石采(いしうね)の滝。落差15メートルほど、岩肌を水が5つの筋になって流れ落ちていた。

 

石采の滝

動画もご覧ください

 

このまま上れば、明神ダムを経て西冠山に至るが、今回はルート最高峰の堂床山に向かうので引き返した。

 

急登、急登、また急登

堂床山への分岐の標高は約340メートルで、頂上までの標高差は約520メートル。計算上の平均斜度は20度にもなる、相当な急登だ。実際上り始めてみると最初からきつい上りの連続だ。標高650メートル付近で右にトラバースするあたりがわずかに緩やかな道だが、そこを過ぎるとまた急登。息を切らし、視線を落としてひたすら足を運ぶ。トレランの人たちはここも駆け上がるのだろうか。

 

堂床山に向かう急登

 

高度が上がると道沿いにわずかに雪が残っているところも。山頂に着いたのは12時。石采の滝に寄ったこともあり、登山口から約1時間40分かかった。少し広い平坦地が広がっているが、樹林に囲まれていて眺望はまったくなし。本当は眺めの良い可部冠山で昼食にしたいところだが、コースタイム通りでも90分かかる。そこまで我慢してはガス欠になりかねないので、ここでお昼にすることにした。

 

山頂の手前に雪が残っていた

 

堂床山山頂のパノラマ写真。眺望はなし

 

メニューはカップヌードルとおにぎり。カップヌードルは最近テレビCMをよく見る「謎肉まみれ」だ。ビジュアルはなかなかの迫力だが、「謎肉」が多い分、エビはなし。これはこれでおいしいのだが、どこか物足りない。個人的にはスタンダードが好みかな。

 

本日の昼食は謎肉まみれカップヌードル。なかなか迫力のあるビジュアル

 

トレラン向けの縦走路

堂床山から滑りやすい急坂を標高差にして100メートルほど下ると、歩きやすい縦走路になる。適度にアップダウンもあり、トレランには最適だろう。ほとんどは林間の道だが、ところどころに眺望もある。左手の眼下に中国自動車道の安佐サービスエリアが見えたり、遠く雪の残る西中国山地の山々が望めたりする。堂床山からは200メートル近く下っており、振り返ると高度差を実感できる。

 

急坂を下る。落ち葉で滑りやすい

 

遠く雪化粧した西中国山地の山々が見えた

 

縦走路から堂床山を振り返る

 

約1時間歩くと、右手の木立の合間から見え隠れしていた明神ダムのダム湖が望めるポイントに着いた。中国電力南原発電所は、下の南原ダムのダム湖に貯めた水を、電気の余っている時間帯に上の明神ダムのダム湖にポンプアップし、需要の多い時間帯に水を落として発電する揚水発電所だ。最大出力は62万キロワット。夜に水をくみ上げ、昼に発電するのが一般的だが、太陽光発電の多い九州電力などでは、昼間の太陽光で発電した電気を利用して揚水を行い、夜に発電する機会が増えているという。発電機の起動と停止が短時間でできるため、天候に左右されやすい太陽光や風力などの再生可能エネルギーの調整弁としても注目されているそうだ。

 

明神ダムのダム湖

 

絶景の可部冠山

西冠山も残念ながら眺望なし。15分ほど歩いて最後の急登を上りきると可部冠山の頂上だ。岩の上に上がると、右手にしんどい思いをして登った堂床山。可部の市街地や太田川の流れ、阿武山などが見渡せる。好天だが少しもやっていて広島市街は霞んでいる。山頂の左側は懸崖の上になっていて高度感は抜群。正面に白木山(https://hread.home-tv.co.jp/post-130985/)が堂々たる存在感を放っている。

 

西冠山。ここも眺望なし

 

可部冠山に到着

 

山頂の展望岩

 

展望岩から可部市街地、広島市街地方面を望む

 

遠方に白木山。手前は備前坊山(789メートル)

 

しばし景色を楽しんでいたが、ふと時計を見ると14時20分を回っている。急いで下山にかかった。

 

旧石州街道を下る

10分ほど下ると可部峠。浜田と広島を結んでいた旧石州(石見)街道の峠だ。「石見街道一里塚跡」と刻まれた立派な石碑が立てられていた。ここからは旧街道のルート上を下っていく。江戸時代には浜田藩の参勤交代にも使われた由緒ある道だが、峠は標高650メートル以上もある険しさだ。桧の暗い道を南原峡へ向けて下っていく。水害で傷んだ個所も多く、あまりペースは上がらない。可部峠と可部町を示す「しるべ石」の石柱を見送り、舗装道に出た時は15時4分。バスの時間に間に合わせるのは厳しい状況になってきた。

 

石見(石州)街道一里塚跡の石碑が立つ可部峠

 

しるべ石

 

ここからは2021年夏の豪雨災害で流出し、改修を終えた舗装路を歩く。歩き始めて間もなく、前方100メートル先を3頭のシカが横切った。「もしかしたらバスに間に合うかも」と淡い期待を込めて歩を早める。並行する南原川は土砂で埋めつくされたような平坦な河床となっている。水害と復旧工事のため、大きく様相を変えてしまったようだ。

 

土砂で河床が埋まった南原川

 

石の壁のような南原ダム

 

その後も懸命に歩いたが、バス停近くまでたどりついたのは発車から10分後。1時間半も待つのもつらいのでバス便の多い国道183号の南原口まで約4キロを歩いた。

総歩行距離は19.6キロ、行動時間は7時間21分(休憩時間含む)だった。

 

《おまけ》

旧石州街道が国道183号に合流する600メートルほど手前に広島県の史跡に指定されている地蔵河原一里塚がある。周囲の道路がかさ上げされているため、一里塚の原形は失われているが、かつては高さ22メートルもある目印のクロマツが残るなど、旅人の目印だった往時の姿をとどめた貴重な史跡だった。クロマツは1981年に枯死して伐採され、現在は切り株が残っている。

 

地蔵河原一里塚。かつては22メートルもあるクロマツが立っていた

 

地蔵河原一里塚の説明板

 

2023.11.19(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」