香川県東かがわ市にある“自由すぎる動物園”として有名な「しろとり動物園」には、動物園公認のフォトグラファーがいます。「仔カピ写真家・みのカピ(@minokapi)」として活動する、吉田稔さんです。

吉田さんは動物園スタッフからも「カピバラを熟知した写真家」として厚い信頼を得ています。一般の人が入れないエリアでも、動物園から特別な許可を得て撮影。9月10日に誕生したカピバラの赤ちゃんは、生後2日目から追いかけています。

「あの子を1番かわいく撮れるのは、自分だけ。絶対に自信があります」

カピバラの撮影は「恩返し」と語る吉田さん。そこには、吉田さんにとって特別なカピバラの存在がありました。しろとり動物園にいた、今は亡き「バジルちゃん」です。

バジルちゃんの存在が、心の支えに

吉田さんとバジルちゃんの出会いは、2021年3月。しろとり動物園で開催された「カピバラ赤ちゃんのミルクやり体験」に夫婦で参加した時のことでした。

「その頃僕は日々の仕事に疲れ果て、道中の車の中で涙するほど、精神的に参っていました。笑うことすらできなかった僕に『バジルちゃん』がそっと寄り添ってくれました。『ここにいてもいいんだな』と思わせてくれたんです」

吉田さんの疲れた心を、温かい気持ちで満たしたバジルちゃん。「私は、あの子に助けてもらったんです」と、吉田さんは感謝を込めて語ります。

それまで各地の動物園でカピバラの写真を撮影していましたが、カピバラの子を専門とする“仔カピ写真家”を志したのはバジルちゃんの存在あってのこと。

恩返しの気持ちを込めて、『仔カピ写真家みのカピ』としての活動を決意した吉田さんは、バジルちゃんを始め、大人と違った雰囲気の“仔カピバラ”の姿をメインに撮影し、SNSで投稿・発信し始めました。

モットーは「カピバラの気持ちになって」。カピバラの視点でとらえられた写真は愛らしさに満ちており、見る人をほっこりとした気持ちにさせてくれます。

突然の別れ「きょうの出会いを大切に」

”仔カピバラ”の撮影に力を注いでいた吉田さんですが、バジルちゃんとの別れは突然やってきました。2021年7月、先天性弁膜症のために急逝。早すぎる別れに言葉を詰まらせる吉田さんですが、「バジルちゃんへの恩返しのために」と、思いを新たにしたと言います。

「私は平日は薬剤師として働き、常に命の尊さや別れと向き合っています。もしきょう元気でいても、明日会えなかったら……と考えさせられるんです。だからこそ“きょうの出会い”を大切にして、悔いのないよう全力で撮影しようと心掛けています」

バジルちゃんの存在が、自身の写真家としての道と志になった吉田さん。今も自身のSNSには、バジルちゃんの元気だった頃の写真と愛情に満ちたコメントが投稿されています。

ほふく前進の終日撮影もいとわない

カピバラの魅力を自分なりの視点で伝えることが、バジルちゃんへの恩返しに繋がると信じ、撮影を続ける吉田さん。しろとり動物園で新しいカピバラの命が誕生した時、翌日には吉田さんの姿が園内にありました。

カピバラは、まったりとした雰囲気を持っていますが、意外に警戒心が強い生き物。母カピバラのとくちゃんは、人が近寄ると警戒し”おちびちゃん”を守っていますが、既に吉田さんの存在を認めているようです。

好奇心旺盛なおちびちゃんは、横になる吉田さんの上によじ登るほどに。吉田さんも「きょうはよろしくね」「横通るよ」など声をかけながら、カピバラに無理をさせない撮り方で、撮影しています。

吉田さんの撮影スタイルは「待つ」が大前提。カピバラより目線を下にして撮影するため、“ほふく前進”しながらゆっくりと距離を縮めます。

「ほふく前進は、オールシーズン。春夏秋冬、雨が降ってもこの状態です。ひどく汚れますが、仕方ないですね。もう、愛がないと撮れないです」

カピバラの耳や目を見て状況を観察し、大きなレンズやシャッター音で驚かせないように配慮しながら撮影。「もっともっと可愛く撮れるはず」と都度思案し、違う時間帯や角度を追及。集中して撮影すると、あっという間に閉園時間が訪れるそうです。

カピバラの生態を熟知し、身体を投げ打つかのように撮影に力を注ぐ吉田さん。そこには「全てはカピバラのために」という信念と、「バジルちゃんへの恩返し」という大切な気持ちが込められていました。

吉田さんの写真はしろとり動物園の公式SNSでも発信されており、多くのファンと動物園を繋いでいます。

ほ・とせなNEWS編集部