岡山を拠点に、全国各地で老いや認知症をテーマに演劇活動を行う劇団「老いと演劇 OiBokkeShi(おいぼっけし)」。一見何の関係もなさそうな「老い」と「演劇」を結び付けるものは何なのか。劇団を主宰する、岡山県奈義町在住の菅原直樹さんに、介護と演劇の関係性、そして、「演劇を生活に近づける」新しい取り組みについて話を聞きました。

介護と演劇は相性がいい

学生時代から演劇に興味をもっていた菅原さん。結婚を機に介護の資格を取得し、俳優活動をしながら老人介護施設で働くようになりました。

「いつも僕のことを時計屋さんと勘違いして話しかけてくるおばあさんがいたんです。初めは否定していたのですが、時計屋さんを演じて話してみると会話が弾みました。こちらの都合に合わせて“正す”のではなく、ただ“受け止める”ことが実はとても大切で、介護と演劇の相性の良さを感じました」

2014年、菅原さんは介護と演劇をつなげる活動として「老いと演劇のワークショップ」を行い、ここから劇作家・演出家への道が始まりました。

演劇を生活に近づける

3月中旬、奈義町で演劇「エキストラの宴」のワーク・イン・プログレスが行われました。ワーク・イン・プログレスとは、演劇作品の制作過程を公開し、観客と作品を練り上げる手法の一つで、芝居がつくられていく過程も楽しむことができるものです。

菅原さんは、2021年から奈義町内で老いと認知症、介護をテーマにしたワークショップを開催しており、ワークショップの発表公演として「エキストラの宴」を制作しています。

「人とのつながりを大切にしながら、より地域に密着した形で演劇をつくれたらなと思い、稽古に励んでいるところです。今回の劇は、ほとんど演劇経験がない地域の人たちと一緒につくっています」

あらかじめ完成した台本を用意するのではなく、稽古場で出演者との対話を重ね、登場人物や場面設定を決めていきます。保健師経験のある人には元保健師役を、在宅介護の経験のある人には介護者役を演じてもらい、出演者の人生経験や個性をそのまま舞台に反映させていきます。

「老いや介護がテーマですから、演劇を立ち上げた当初から、可能なかぎり演劇を生活に近づけていけたらという思いがありました。演劇って、公演が終わったらその座組は解散になるんですけど、今集まっているメンバーとは、公演が終わっても生活の一部のようにずっと続けていきたいなと思っています」

寄り道やプロセスに気づきがある

菅原さんは、今回の公開稽古まで、計画通りにいかないことを楽しむということをやってきました。

「きっかけは、ワークショップに参加していた認知症の方です。たとえば、コミュニケーションゲームをやってうまく成立していない時は、その方に合わせてゲームのルールを変えていくようにしました。完成された作品をつくることが目的だと、稽古場はどうしてもピリピリして、プロセス自体を楽しむ余裕がなくなってしまうんですよね。でも、プロセスにこそ大きな気づきがあるんです」

「あらかじめ決められた計画を立てるのではなく、このメンバーだからこそ生み出せるものを発表できたらと思いました。あわよくば、お客さんにもそのプロセスに加わってもらう。ということで、今回のワーク・イン・プログレスでは、台本は途中までしか書かず、未完成のままで発表しました」

地域の建物をそのまま舞台に、地域の人をそのまま俳優に、様々な人がそれぞれの個性を活かしながら参加する演劇。菅原さんのもとに集まる人たちと試行錯誤しながら、そこにあるもので創意工夫し、コミュニケーションの中で創りあげられていきます。

「今回出演してくださった方々は年齢も職業も異なりますし、認知症や障がいと共に生きている方々もいらっしゃいます。これだけ多様な方々が演劇に参加してくれたということで、もう成功だったんじゃないかなと思っているんですよね」

「今回のワーク・イン・プログレスを通じて、それぞれが自分の個性を発揮して、共に表現を楽しむ場を、舞台の上につくれたんじゃないかと思います。この空気感や関係性を、舞台の上だけではなく、現実の世界にさらに広げてくような活動ができたらと思っています」

脚本家、演出家である菅原さんが、演劇と介護を通じて感じた「相手が見ている世界に好奇心をもち、演技を通じて心を通わせるコミュニケーション」は、私たちの日常生活でも十分生かせる方法なのかもしれません。

奈義町