広島県のA-pfeile(アフィーレ)広島は、障害者サッカー団体。「身体的にも精神的にも落ち込んでいるかも知れない障害者を太陽の下に呼び出すこと、そのきっかけをサッカーを通して作りたい」という理念のもと、代表の坂光徹彦さんが2013年に立ち上げた。アフィーレ広島には、主に上肢、下肢の切断障害がある選手がプレーするチームや、視覚障害のある選手がプレーするチームなど全部で5つのチームがある。今回はそのうち、ウォーキングフットボールを行うチーム、WFCを取材した。

ウォーキングフットボールとは名前の通り歩いて行うサッカーの総称で、55歳以上の高齢者の健康を目的として2011年にイギリスで発祥したスポーツだ。認知症予防や介護予防などの予防医療としても注目され、世界中で行われている。アフィーレ広島ではこのウォーキングフットボールを通じて、障害者や異文化を理解し共生するきっかけを作ることを目指している。

障害者とプロの選手が一緒にできるサッカー

ウォーキングフットボールのルールは、通常のサッカーの常識をくつがえすものばかりだ。
「走るのもダメ。腰より高くボールを蹴るのも、相手との接触もダメ。速いシュートもダメ。それを聞いて、すごく面白いと思ったんです」と話すのは、アフィーレ広島でウォーキングフットボールを担当する松本由香さん。日本国内にもウォーキングフットボールのチームはいくつかあり、本格的な試合をすることを目的とするチームもある中で、アフィーレ広島では違ったコンセプトで運営している。

「誰でも楽しく参加できて、ゲームを通じ、お互いの個性を理解できるようになることを目標にしています。ですから、試合ではなく体験会という言い方をしているんです。目の見えない人、義足の人、精神的な障害がある人、自閉症の人、脳性麻痺の人、また健常者の大人や子どもも同じルールで一緒にプレーするんです」と松本さん。
だが、果たしてそんなことが可能なのだろうか。健常者は3歳くらいの子からお年寄りまで、さらにはサッカーが上手な子どもや、Jリーグのプロサッカー選手が参加することもあるというのだ。

参加者みんなで話し合い、誰もが楽しめるルールを決める

体験会は1か月に1度、2時間ほど開催されるが、WFCは特定のチームメンバーがいるわけではない。当日に参加する人がその日の選手となるので、最初の30分を交流にあてている。話し合いや鬼ごっこなどを通じて、その日の参加メンバーの誰もが楽しめるルールを決めていくのだという。

「ルール作りに大切なのは、一人一人の個性を見て、何ができて、何ができないかを確認することです。氷鬼ってあるじゃないですか? 鬼にタッチされたら動けなくなる子どもの遊びです。それをみんなでやってみて、何が楽しかったかなあ? 何が大変だったかなあ? と、参加者のみんなに聞くんです」

例えば、目が見えにくい人がいれば鈴が入った音の出るボールに変えたり、ゲーム中にぶつからないように参加人数を減らす。また、自閉症の人の中にはコートに入ることやボールに当たるのが怖い人もいる。その場合、母親と手をつないで一緒にプレーしてもらったり、柔らかいボールを使ってみたり、様々な工夫をするのだそう。

「ゲームにうまく溶け込めないでボールを触れない人がいたら、全員が1回ずつボールに触らないとシュートができないルールを作ることもあります。元々、なかなかゴールが決まらないスポーツなんですよ。それくらい、お互いの個性に合わせてプレイするのは難しいということですね。でも、その分ゴールが決まったときのみんなの喜びようはすごいですよ」

この経験を通じ、体や個性に違いがあっても工夫次第で喜びを共有できる意識が、参加者の中に育まれていく。

スポーツを通じて、助け合いの輪が広がっていく

他人と話し合い、誰もが楽しめる中間点を見つける。こういった経験を多くの人がすることは、多様性に寛容な社会を目指すための礎になるはずだ。
「この活動を通じて、私も考え方が変わりました。スポーツを通じてお互いの違いを知り、わかりあうことができる。障害者だけでなく移民との文化の違いや、家庭環境の違い、それによる悩みなどを互いに知り合うことも可能だと思います」

誰もが暮らしやすい、優しい社会。松本さんの話を聞いていると、ウォーキングフットボールが持つ可能性への期待が膨らんでくる。
「よくマイノリティーに居場所を作ってあげる必要があると言いますが、そのためには何に困っているか、どういうことを必要としているか気づく力が重要だと思うんです。そういう意識がある人が世の中にたくさんいたら、お互いに助け合える社会になる気がしています。ウォーキングフットボールがそういう能力を高めるきっかけになってくれればと思います。それに、純粋に楽しいですよ。サッカーができないとあきらめていた人に、ボールを蹴ってシュートできると思わなかったと言われた時は嬉しくてたまりませんでした。どんな人でも気軽に参加してほしいです」

岡内大三