香川県丸亀市の美術館で、ある絵画展が開かれています。そのタイトルは「生きもの 森羅万象 石村嘉成展」。愛媛県在住のアーティスト、石村嘉成(よしなり)さんの個展です。嘉成さんは2歳のとき自閉症と診断されました。そんな彼が18歳で版画と出会い、アーティストとして才能を開花させたその裏には、厳しい療育と向き合ってきた日々がありました。

療育とは、自閉症や発達障害の子どもたち一人一人の発達や特性に合わせて行う支援・教育のこと。嘉成さんの父である和徳さんに、自閉症の子どもの子育てについて話を聞きました。

特別な子育てをしているわけじゃない

「嘉成は自閉症ですが、だからといって特別な子育てをしてきたとは思っていません。ただ、普通の子育てを、普通より丁寧にしてきただけです。定型発達の子どもは親やきょうだいなど周囲の人たちがすることや話すことを見聞きし、模倣し、そして習得することも多いですが、自閉症の子にはそれができない。だから、親がそれを一つひとつ後ろから手を添えるようにして教えていく。社会性を身につけるために、普通のことを一つひとつ教えていくだけなんです」

今でこそ絵の才能を開花させ、アーティストとして活躍する嘉成さんですが、創作を始めたのは18歳の頃。両親の療育も、もちろんその才能ありきではありませんでした。

「私たちの療育の目標は生活の自立。自閉症の子はどうしても周囲のサポートが必要になるから、人から好かれる子に育てること、そして自分たちが死んだあとも社会との折り合いを自分でつけていける子に育てることが目標でした。そのためには、人の言うことを聞ける、黙って座って話が聞ける、人から教えられたことにハイと答えて実行できる、そういうところまで親が持っていってあげなければいけないんです」

適切な療育によって生活の自立、日常生活の獲得ができていることが大切だと話す和徳さん。

「私たちは、嘉成が自閉症と診断された2歳のときから、泣いてもわめいてもやるべきことはやるということを徹底してきました。泣いたりわめいたりすればなんとかなるなんてこと、世の中にはないんですから。自閉症だからといって、中途半端に『好きなことをさせて、楽しく遊んであげるだけ』では何にもならないと思っています」

一貫した療育を徹底的にやる、その積み重ねがあったからこそ、嘉成さんが絵というものに出会ったときその才能が開花したと和徳さんは言います。

「適切な療育を続けてきたからこそ、本来ものの見え方や情報の入り方、処理の仕方がまったく違う嘉成ならではの表現ができるようになったんだと思うんです。自閉症や発達障害の子は、ものすごい記憶力や突出した才能を持っている場合があります。そうした能力を伸ばし、社会の中で生かしていくためには、生活の自立、日常生活の獲得ということが必要だと思います」

個展は自己肯定の連続

これまで愛媛や岡山、兵庫などで個展を開催してきた嘉成さん。個展を開催するにあたって大切にしていることがあります。

「会場は基本的に撮影OK。嘉成が在廊しているときは、写真撮影やサインもいつでも対応していますし、会場内でのライブドローイングも行います。版画や絵画作品を、お客さんの前で、ときにはお客さんにも手伝ってもらいながら完成させるんです」

今回の個展には、トラやザリガニ、カメレオンといったさまざまな動物たちの生命力あふれる表情を切り取った絵や版画が展示されています。

ちょうど夏休みということもあって、会場には親子連れの姿がたくさん。なかには美術館に来たのははじめてという子どももいました。

「子ども連れでゆっくり見られる美術展ってそうそうないでしょ。でも嘉成の個展に来たら、本物の絵画を間近で見られるだけじゃなく、作家もなんだか近所のお兄ちゃんって感じで親しみやすい。試しに写真をお願いしたらノリノリで撮ってくれるし、サインもしてくれる。子どもにとって、絵画とか美術館というものの敷居が低くなりますよね。それと同時に、嘉成にとってもうれしいことづくめ。『サインしてください』『写真撮ってください』って、彼にとっては自己肯定の連続ですよ」

「自閉症の人はサービス精神が乏しいと言われていますが、嘉成は個展でサービス精神を思い切り発揮します。それは自己肯定感の積み重ねからくるものだと思うんです。自閉症は治らないものと言われていますし、療育は一生続くもの。だけど、自閉症の子が持つ能力を最大限引き上げてあげることはできる。そういう方法を教えてくれる先生に出会えたことで、私たちは救われました。幼少期に適切な療育を知り、親がどう取り組んでいくかで、20年後は大きく変わるんだと思います」

「生きもの 森羅万象 石村嘉成展」は9月11日まで、香川県丸亀市の中津万象園・丸亀美術館で開かれています。

晴野ねこ