「ずっと逃げていた農業に向き合った」

好きになったらとことんまで追求してしまう農家がいます。新潟県南魚沼市の農家、〈こまがた農園〉の駒形宏伸さんです。2020年にはお米の日本一を決める大会〈第17回お米日本一コンテスト in しずおか〉で最高金賞を受賞し、日本一の米農家になりました。お米以外にも、地域の特産である八色(やいろ)スイカへのこだわりも強く持っています。

DJ CO-MAこと、駒形宏伸さん。

さらに、農家になる前からDJ CO-MA名義でDJをしていて、なんと世界最大のDJ大会〈DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2006〉で優勝した経歴を持ちます。DJテクニックへの追求もハンパではありません。 実はCreepy NutsのDJ松永さんの師匠でもあります。

こうした異色の経歴を持つ駒形さんは、1777年から続く米農家の10代目。しかしきちんと農業に向き合ったのは30歳を過ぎていたといいます。

田植え機に乗って、田んぼに登場。

「農家を継ぐのがイヤで、“逃げ”として公務員試験や消防士、警察官などの試験を受けていました。やりたい仕事というわけではなかったのですが、そういう“しっかりした”仕事なら親も文句は言ってこないだろうと思ったんです。消防士なら2日行って2日休みなのでDJの練習ができるなとか、警察官で駐在所勤務になれば、裏の部屋でいつでもDJの練習できるなとか。当時は本当にDJのことしか頭になかった。そんな浅はかな奴が受かるわけもありませんよね」

しかし生活はあるし、なによりレコードを買わなければなりません。しょうがなく実家の農家を手伝い始めたようです。

自宅のDJ部屋。コンパクトだが、機能的にまとまっている。

転機が訪れたのは2011年頃。優勝後も継続して挑戦を続けていたDJ大会も、なかなか思うような成績が残せなくなってきました。その頃に結婚をし、同じタイミングで、弟子であるDJ松永さんから「東京に出てDJとして生きていく」という報告を受けます。それに対して、「俺も一旗あげてやる!」という気持ちが湧かなかったといいます。

何かモヤモヤした気持ちを救ったのは、何より目の前にあった農業でした。

「それまでは親父に言われたことをただこなすだけだったのですが、明らかに気持ちは変わりましたね。自分からいろいろと覚えようとしました」

希少な八色スイカとは?

父から最初に覚えろと言われたのはスイカでした。南魚沼市の特産である〈八色スイカ〉は、「富士光TR」という品種で、駒形さんが住む旧・大和地区が発祥とされています。ほかのスイカと比べると、やわらかく、独特の甘みと旨みが特徴。しかし、つくり手が多くなく収穫量が少ないため、県内と関東の一部にしか出回らない希少なスイカです。

八色スイカの赤ちゃん。ここから大きく育っていく。

スイカは手間をかけた分だけ付加価値がつき、やりがいがあると駒形さんはいいます。そんなモチベーションを高めるできごとがありました。

「あるとき、それまで行ったこともなかったスイカ組合青年部の会合に出席してみたんです。ひと通りはスイカ栽培を経験しているので、それなりにわかっているつもりでしたが、青年部のみんなは、もっと高いレベルでスイカのことを理解していて。全然会話についていけず、悔しい思いをしました」

スイカをひとつずつチェックして、いいものに目印を立てていく。

地域の特産物になるには、こだわりを持った農家同士が切磋琢磨する環境があるのかもしれません。八色スイカの産地でも、良きライバル関係による競争が行われていました。

ここから駒形さんも、スイカづくりを追求し始め、自分だけのオリジナリティあふれる育成方法を試していきます。

スイカの花。こまがた農園では、ミツバチによる受粉を行っている。

「若い世代は、父親世代ではやっていなかった最新の育て方を実践しています。僕は親父から教わったことしか知りませんでした。僕も最新の手法を試してみました。しかしあまりうまく育たなかったので、昔のやり方を織り交ぜてやってみたらうまくできたんです」

いろいろな情報と経験を組み合わせながら、実験していくこと。そうして、ここ数年はすごくいい八色スイカを収穫できているといいます。


お米でもコンテストでトップを取るための努力を欠かさない

こまがた農園も代替わりをし、駒形さんも米づくりにも携わるようになります。南魚沼市といえば、日本有数の米どころ。豪雪地帯特有のミネラルを多く含んだ雪解け水があり、昼夜の寒暖差が大きいことなど、この土地特有の自然条件がおいしいお米を育てます。

「自然環境を与えてもらっているので、普通につくってももちろんおいしいのですが、それにあぐらをかくことなく、さらにおいしいお米をつくりたい。そうなるとかなり奥が深いです」

紙マルチというものを敷き、その上に稲を植えていく無農薬栽培の田植え。紙マルチは45日ほどで自然分解する。

お米という、日本人にとってもっとも身近にあふれる食材であるからこそ、ありがたみが薄くなっている消費者は多いのかもしれません。しかし駒形さんは、さらにお米の地位を高めるべく活動します。

「当初、コンテストにも出してみたんです。正直言って、南魚沼産ならば誰が出してもいい成績を取れると思っていたんですよ。でも、かすりもしなかった!」

それでまた悔しくなり、人に聞いたり、研究を重ねていきます。しかしお米は1年に1回しか生産できないので、悠長に構えていることもできません。

「例えば30年後に金賞を取ることを目指すよりも、早いうちに金賞をとって、そこからさらに先の世界にブラッシュアップしていきたい」

さまざまな有機物を発酵させて、1年以上熟成させた自家製肥料を使用している。

そこで駒形さんは、同じ南魚沼市の米農家で、金賞を受賞している〈関農園〉の関智晴さんに教えを請います。

「僕もまだ尖っていたので、有名人であるこの人には教わらないと思っていましたが、そうも言ってられないなと。それで智晴を酔わせて(笑)。それは半分冗談ですが、こっちもかなり本気だったので、向こうもその意気を汲んでくれたのだと思います」

こうしたライバルでありながらも、情報交換できる若い米農家仲間がいたことは、何よりの強みだったのかもしれません。

土や米づくりの本に、駒形さんが好きなヒップホップアーティスト、Jディラの本がさりげなく混ざっていた。

もちろんコンテストに出ていい評価を受けることだけが、必ずしも米農家の生きていく道ではありません。DJもそう。コンテストに出ない米農家やDJはたくさんいます。それでも駒形さんがコンテストに出続ける理由はなんでしょうか?

「モチベーションですね。お米という繊細なものを、第三者が評価してくれること」

駒形さんの場合、「コンテストに出て勝つ」という目標設定が、よりおいしいお米をつくりたいというモチベーションになっているようです。

「DJと米づくりの共通点でいえば、どれだけ好きになって突き詰めるか。好きになると意味を知りたくなるんですよね。なんでこういうことになるんだろうって」

DJと農家は、一見、正反対に思える職業ですが、駒形さんのように突き詰める集中力を持っていると、そこに差異はないようです。

駒形さんが栽培方法を熱く語ったり、実際に田植えやスイカの作業をしている様子を見ていると、かつてはきっとこんなふうにDJに夢中になっていたんだろうなと感じます。農業もDJも、追求していくこと自体を楽しんでいるようです。

駒形さんにとって、「農業への意欲が湧いた」という意味での“就農”は30歳を過ぎていました。決して早かったとはいえませんが、追求し楽しむ心があれば、何歳で農業を始めても遅くはないのかもしれません。


こだわり農家のおいしい農産物は?

南魚沼市はお米が有名ですが、八色スイカのように隠れた名品もあります。新潟県内で見れば、まだまだたくさんのおいしい農産物があります。そこで駒形さんにおすすめを教えてもらいました。

長岡市の枝豆

新潟は“枝豆県”。県内各地においしい枝豆の品種がありますが、おすすめは長岡の茶豆です。
「僕も枝豆は毎日食べています。新潟の農家では、家庭でだいたい枝豆をつくっているくらい、必須のおつまみですね」

長岡市のれんこん

新潟県長岡市はれんこんの産地として有名で、〈大口れんこん〉として出荷されています。そのなかでも特にだるまれんこんはこの地で生まれた在来種。〈長岡野菜〉として認定され、地域特有の野菜のひとつです。

新潟市のル レクチエ

西洋梨の生産量が全国トップクラスの新潟県。その品種のひとつル レクチエは、「県内でも贈答品として使います」と、ここぞというときにも重宝されるもの。11月下旬から1か月ほどしか出回らないレアものです。
「毎年食べています。実もやわらかくて、ジューシーでおいしい」

津南町の〈鬼もろこし〉

野菜の産地である津南町で、粒が大きく、ひと粒ひと粒に甘みがつまっていておいしいと話題のとうもろこしが、〈鬼もろこし〉です。
「実はまだ食べたことがないのですが、〈鬼や福ふく〉という農家がブランド化したようです。自分たちの野菜を追求し、自信を持ってブランド化する姿勢に共感しました」

佐渡島のおけさ干し柿

佐渡島名産のおけさ柿を自然乾燥して干し柿にしたものがおけさ干し柿です。 「甘さが上品で、今まで食べた干し柿のなかで一番好きです。表面に糖分が上がってくるので白くて、中はきれいなオレンジ色。自分の家でも柿を干したりするんですが、あまり見た目が良くならないんですよね」

地域全体で取り組む有名な農産物から、農家の思いがこもった野菜まで。新潟にはたくさんの農産物があり、その背景には、農家それぞれのたくさんのこだわりが詰まっていました。

駒形さんのように古くから続く家業を継ぎながらも、自分なりのやりかたを見つけ出し、「さらにおいしく」しようと努力する農家が多い新潟県。進化する農業による農作物、その魅力はまだまだ奥が深そうです。

もっと新潟の農業を知りたいと思ったら!

新潟県が運営する農業情報サイト『にいがた農業ナビ』には、新規就農へのアドバイスや農業技術について、さらには農家へのインタビューなど、新潟県での農業に役立つ知識が掲載されています。

駒形さんのように農業に従事してみたいと思った人や、どのように就農したらいいかわからないという人には、就職情報も満載なので、ぜひご覧ください。

credit text:大草朋宏 photo:ただ(ゆかい)