新入社員の約半分が県外出身! 注目を集める理由

月の残業時間は2時間、ボーナスは基本給の4.1か月分、服装は自由。「こんな職場で働きたい!」そんな理想を体現したような会社が、新潟県加茂市にあります。それが、各方面から注目を集めている〈小柳(おやなぎ)建設株式会社〉。

〈Microsoft Base Niigata-Kamo〉でもある〈小柳建設株式会社〉の加茂市のヘッドオフィス。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による地域活性化や地方創生を目的としたマイクロソフト社の新しい取り組みである〈Microsoft Base〉は、全国にDX拠点を展開。小柳建設は新潟県内初、業界初の拠点として、オフィスそのものをDX推進の体験型ショーケースとして運営。建設業に特化したDX導入事例や各Microsoft Baseと連携したセミナー、オフィスツアーを通じてDXを体感できます。

同社のスタイルを象徴しているのが、ガラス張りのスタイリッシュなオフィス。1階には地域に開かれたコワーキングスペースが置かれ、2階と3階は自然光たっぷりの開放的なワーキングエリア。キッチンを備えたカフェテリアもあり、天気のいい日はテラス席でゆったり、なんていう過ごし方もできます。

1階のコワーキングスペース。
カフェテリアで飲み物を入れて好きな場所で仕事をすることもできます。

自分の席を持たないフリーアドレスなので、従業員はどこで作業をしてもOK。新進気鋭のベンチャー企業のようですが、1945年創業の老舗建設会社というから、そのギャップにも驚きです。現在では新入社員の約半分が県外からやってくるそう。

「入社したいと思う人が、会社に来てがっかりするような社屋では、士気も下がります。みんながワクワクして、ここで働きたい! と思える場所をつくりたかったんです」と話すのは、3代目社長の小柳卓蔵さん。

三条に本社を持つ小柳建設。ヘッドオフィスとして2021年に新しくなった加茂オフィスは、時間と場所を自由に選択できるワークスタイル「Activity Based Working(ABW)」を採用。ABWとは働く人が「いつ、どの場所で仕事をするのがもっともパフォーマンスを出せるのか」を自らが決め、業務効率を最大化させる働き方のこと。

小柳さんは、建設業でDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させたことで、業界では知られた人物。DXとはデジタルテクノロジーを活用することによって、ビジネスをより良いものへ変革していくこと。いまだにきつい、汚い、危険の「3K職場」であるイメージが残る建設業は、慢性的な人材不足に悩まされていますが、その問題を解消できるのではと、DXに期待が集まっているのです。

建設DXの旗手である小柳さんですが、もともと家業を継ぐ予定はなかったそう。

「会社は長男が継ぐものとして育てられてきました。私は三男坊なので、学校を出てからはお金のおもしろさを学びたくて金融業界へ。大学で法律を学んだこともあり、将来的には法律の仕事をしたいと考えていました」

ところが、後継者である長男が会社を退職することになり、当面のあいだ、父親である社長を助けるため、2008年に小柳建設に入社。実際に働いてみると、想像以上にアナログで属人的な業務体制に驚いたと当時を振り返ります。ひとつずつ課題を見つけては改善していく日々。

そして6年ほど経ったある日、父親から跡を継ぐことを打診されます。業界の将来に希望が持てなかった小柳さんは、即答できなかったそうですが、悩むうちに気持ちに変化が。

「アナログな業界だからこそ、逆に建設技術とITを融合できれば、業界で唯一無二の存在になれると気づいたんです。若い世代に『建設業はかっこいい』と思ってもらうことができれば、業界全体を変えることも夢ではないと思いました」

そこで2014年、社長に就任。これを機に本格的にDXに舵を切ります。

社長就任後は、社内データをクラウド化し、また社内のコミュニケーションツールは、メールではなくチャットに。さまざまな改革は、小柳さんにとってあくまでも「社員の働きやすさ」を追求するため。その結果がDXだったといいます。

会議室が建設現場に早変わり! 画期的技術とは?

小柳建設のDXで特筆すべきは、日本マイクロソフト社と共同開発したアプリケーション〈ホロストラクション〉です。これは、専用ゴーグル型端末〈ホロレンズ〉を装着すると、目の前に3D映像のリアルな工事現場が再現されるという業界初の画期的な技術。

ホロストラクションの開発は、カナダで行われたマイクロソフトのイベントで、MR(Mixed Reality:複合現実)デバイスである〈Microsoft HoloLens(ホロレンズ)〉に出合ったことがきっかけ。建設業の未来を変えることができると確信した小柳さんは、すぐにマイクロソフト本社に交渉し、開発の契約を結んだそう。(画像提供:小柳建設)

これにより、現場まで足を運ばないとできなかった施工イメージの共有や打ち合わせなどが、会社の会議室でできるように。2016年から開発が始まったホロストラクションは、19年からトライアル運用が開始され、いまも品質向上のための研究が行われています。

「現在は、ドローンで計測した点群データをホロストラクションで再現できるようになり、どの程度、土が盛られているのか、重機がどこに置かれているのかといったことまでわかります。これらの技術を駆使して、昨年からは工事の完成検査もリモートで行っています」

工事の完成検査をリモートで実証したのは、小柳建設が世界で初めて。(画像提供:小柳建設)
ホロストラクションを活用した、フルリモートでの阿賀野バイパス竣工検査の様子。(画像提供:小柳建設)

ホロストラクションで業務の負担を大幅に軽減した小柳さん。さらにここ数年は、売り上げを大胆にコントロールする試みも。

「以前は売り上げ100億ほどでしたが、いまはあえて70億に。受注を増やせば、売り上げは増えますが、現場に配置される人員が減ります。そうなると当然、残業が増え、従業員は疲弊し、仕事がずさんになり、利益が下がるという悪循環が生まれてしまう。それを避けるために、残業をせずに業務に集中できる環境をつくりました。

結果、売り上げ100億のときと同じ利益をキープしています。つまり、労働時間を減らし、利益率を上げることができたんです」

利益が出た分は社員に還元。以前の年間ボーナスは月給2か月分だったのに対し、現在は4.1か月分に。残業時間も月平均で2時間という、業界では驚異的な短さを実現しています。しかしこれらの成功は、あくまでも社員たちの努力によるものと強調する小柳さん。

「デジタル技術を導入するだけでは、残業時間は減らせません」

小柳さんは、社員をプロジェクトごとに細かいグループに分け、業務を「見える化」し、社員全員で会社を経営する意識を持つ「アメーバ経営」を導入しています。見える化とは、会社の活動実態を全員が把握し、社員同士も互いの業務状況をわかっている状態のこと。

「見える文化にすることで、仕事の問題点も自ずと見えてきます。残業が少なくなったのもそういった問題点を社員たちが改善していったから。DXで目指すべきは、会社の文化そのものを変えること。デジタル技術はそのための手段にすぎません」

階段で社員がプレゼンテーションすることも。映像化した社内報などもプロジェクションされていて、情報共有が自然にできるようになっています。
個別ブースで上司と部下が面談しコミュニケーションをはかることにより、課題が明らかになったり、評価されることでモチベーションも上がります。窓の外には弥彦山が。

さまざまな視点から働く環境を改善していく小柳さん。2021年には「子育てサポート企業」として「くるみん認定」を、2022年には女性活躍推進に取り組む企業として「えるぼし認定」をそれぞれ厚生労働省から受けています。

また福利厚生の一環として、「iDeCo+(イデコプラス)」の運用を開始。これは、個人が加入するiDeCo(公的年金にプラスして給付を受けられる私的年金制度のひとつ)に、会社が掛け金を上乗せし、従業員の福利厚生を拡充させる仕組みのこと。

「運用を始めた目的は、社員の金融リテラシーとモチベーションの向上です。これからの時代、金融リテラシーを身につけて、自己資産をいかに自分で増やせるかが重要。強制ではありませんが、運用したいという社員に対しての協力は惜しみません」

変化を恐れていては、何も始まらないというのが、小柳さんのモットー。「変化を楽しもう。」というコーポレートメッセージもここから生まれています。

チャレンジしたい地域の人や、高校生の起業も支援

従業員のみならず、地域の人たちも積極的に応援したいと話す小柳さん。

「地域で挑戦している方々を応援したくて、1階にキッチン併設のコワーキングスペースを設けました。現在はここで定期的に“出張カフェ”を行っています。

これは、地元の店舗がスポットで出店し、自分たちの商品を販売しながらマーケットリサーチできるというもの。出店の基準は、何か新しいことに挑戦しているかどうか。企画書を出してもらい、我々が判断します。飲食店だけでなく、学生も大歓迎。地域に開かれたチャレンジの場にしたいと考えています」

カフェ併設のコワーキングスペース。この日は地元のベーカリーが、新商品のスコーンを携えて出店。カフェは従業員だけでなく、一般の方も利用できます。

また、全国の学生を対象に、起業支援も行っています。

「高校生起業家を応援するため、スタートアップ企業に投資する、いわゆる“エンジェル投資家”のグループに加わっています。いまは高校生も起業する時代。いずれは新潟でも高校生の起業を支援するような活動ができればいいなと考えています」

2階のオフィスからカフェも見通せて、つながりのある空間。

斬新な発想で、業界に新しい風を吹き込み続ける小柳さんのプライベートも気になるところ。趣味をたずねてみると、「ありません」とキッパリ。

「昔から食事に行ってもすぐにオペレーションを見てしまうタイプ。段取りが悪いなとか、自分が店長だったらこうするのにって(笑)。逆に新しいシステムやサービスなんかを見ると、おもしろいな、自分の仕事にも連結できないかなって。考えている時間が好きなんです」

そんな小柳さんの次なる構想は、建設業のビジネスモデル自体を変えること。

「建設会社は請負というビジネスモデルが一般的ですが、今後はサブスクリプション化していきたいと考えています。たとえば雪国の建設会社は冬は除雪の仕事が多いのですが、昨年から、積雪量にかかわらず定額で除雪を行うサブスクリプション除雪サービスを開始しました」

小柳建設の屋号「丸直」の法被を入り口に展示。

「建設業はかっこいいと思ってもらいたい。スマートに楽しく働ける業界にしたい」。それが小柳さんの一貫して変わらない目指すゴール。今後も従業員、建設業界、地域、学生などみんなにとってメリットのある、いままでにない働き方を新潟から発信してくれそうです。

Profile 小柳卓蔵

1981年新潟県生まれ。2008年に小柳建設株式会社に入社し、管理部門、総務・人事部門などを担当。常務、専務を経て2014年、3代目社長に就任。2016年、日本マイクロソフトと共同で〈ホロストラクション〉を開発し、建設DXの旗手となる。建設DXにおける講演なども積極的に行う。著書に『建設業界 DX革命』(幻冬舎)。

Information

【小柳建設株式会社】

credit text:矢島容代 photo:水野昭子