
博物館から道の駅へ。異業種への転職
「90歳になる祖父は、僕が鉄道会社に転職したと、今でも本気で思っているんですよ」と笑う馬場大輔さんは〈道の駅たがみ〉の駅長さん。朗らかで、物腰がやわらかく、自ずと周りに人が集まってくる、そんな印象です。2020年4月、道の駅の立ち上げにともない、生まれ故郷である田上町に戻ってきました。
新潟市秋葉区と加茂市のあいだに位置する南蒲原郡田上町(みなみかんばらぐんたがみまち)。人口約1万人、面積30平方キロメートルほどの小さなまちですが、そこは自然の宝庫。信濃川が流れ、田園地帯が広がり、護摩堂山(ごまどうやま)に代表される丘陵のふもとには、開湯280年の湯田上温泉が湧いています。
「護摩堂山は、子どもも気軽に登れる標高270メートルほどの山ですが、山頂からは、越後平野、弥彦山、佐渡島といった、新潟らしい景色を一望できます。僕たちは幼い頃から、こういったすばらしい自然に囲まれて育つんです」

馬場さんの以前の職場は、越後の豪農「伊藤家」の旧大邸宅を保存、公開している新潟市の〈北方文化博物館〉。このとき、新潟市と協働で行った、新潟の郷土芸能である神楽舞を次世代につなぐ活動が、Uターンのきっかけになりました。
「どの地域も高齢化や人口減少によって、地元の文化が次世代へとつながらないんです。だからこそ神楽舞の継承者たちは、自分のまわりや子どもたちに地域文化を伝えることに、ものすごい情熱を傾けています。その姿を見たとき、地域コミュニティを支えているのは、こうした文化の継承なんだと気づきました」

以来、田上町のために自分も何かできないかと考えるようになった馬場さん。若い人が地元を離れてしまうのは、自分が生まれ育った土地のことをよく知らず、関心を持っていないからだと話します。
「その問題を解決するためには、僕たちが、地域の文化や歴史を次世代に伝え、さらに自分のまちを誇りに思えるような“新しい価値”をつくる必要があると考えています。そんなとき、道の駅立ち上げの話がありました。道の駅を通して、田上町を”つなぐ”活動を本気でやってみたいと思ったんです」

各分野のプロと手を組んだ、新しいカタチの道の駅

新潟県では41番目の道の駅としてオープンした道の駅たがみ。後発ということもあり、馬場さんはまず、他店舗との差別化を図りました。
「田上町って、県内の人でも場所を知らない人が多いんです。存在すら知らない人も。みんなから注目されるような道の駅をつくって、まちの名前をしっかり発信できれば、地域のさまざまなものにチャンスが生まれると思いました。そこで、子どもからお年寄りまで、訪れる人がワクワク、ドキドキできる、ほかにはない楽しくて、かわいい道の駅をつくることにしたんです」

そのコンセプトを具現化するためにタッグを組んだのが、新潟市の上古町(かみふるまち)を拠点に活動するクリエイティブ集団、〈hickory03travelers(ヒッコリースリートラベラーズ)〉の代表である迫一成さん。

「迫さんは上古町に店舗を構え、商店街全体を盛り上げている人。新潟市美術館のミュージアムショップも運営されている関係で、前職からつきあいがあり、この人しかいないと思いました。ブランディングからデザインマネジメントまで一貫してお願いしています」
動物と山をモチーフにした愛らしいロゴマークが目を引く、やさしい雰囲気の道の駅は、白をベースにした、木の温もりが感じられるナチュラルな空間。店内には、地元の採れたて野菜や果物をはじめ、田上町の特産品である梅やたけのこを使ったお土産品、全国から選りすぐった文具や衣類といったアイテムまでずらりと並び、眺めているだけで楽しくなります。


おもしろそう! と思ったら、まずは実行という馬場さんが大切にしているのは、その道のプロとチームを組んでつくり上げること。
「僕たち自身が成長するためにも、プロフェッショナルな人と一緒に仕事をするように心がけています。僕たちの成長は、子どもたちに受け継がれていくもの。みなさん田上町の未来を本気で考えてくださる方ばかりで、すごく恵まれているなと感じます」

特に子ども向けのイベントを企画する際は、気合が入ります。たとえば12月は、新潟で造園業を営みながら植物アート作家としても活躍する冨田昌希さんと手を組み、高さ4メートルの生木のクリスマスツリーを用意。地域の園児を集めて一緒に飾りつけを行いました。また春は、〈長岡つるしびなの会〉協力のもと、和布を使ってひとつひとつ手づくりされる、伝統的なつるしびなを展示。子どもたちの心に刻まれるような、田上町の恒例行事をひとつずつていねいにつくり上げています。
また道の駅を発信の場だけでなく、地域の人たちの憩いの場にもしたいと考えていた馬場さんは、週に1回、地域おこし協力隊の山口匠さんと一緒に、高齢者向けの無料のスマホ教室を開催。
「以前からコロナワクチンの予約ができない、孫とLINEをやりたいけどやり方がわからないといった声があったので、じゃあ企画してみようと。勉強したことをノートにメモしたり、みなさんすごく熱心で。やってよかったなとしみじみ感じています」
「おれのまちにはたけのこがある!」から生まれたイベント

昨年10月、竹灯籠や竹まりといった「竹あかり」でまちをライトアップする、田上町をあげてのアートプロジェクト「たがみバンブーブー2022」が開催されました。10月1〜30日までの開催期間中の累計来場者数は2万4000人以上。大盛況だったこのイベントの仕掛け人も馬場さんです。
「地域を象徴するような催事をしたいとずっと考えていました。田舎の人ってよく『うちのまちは何にもない』って言うでしょ。でも田上の人って違うんですよ。おじいちゃんも若者も口をそろえて『おれのまちにはたけのこがある!』と、当たり前の顔をして言うんです。これはすごいことだなって。何かおもしろいことに変わるんじゃないかと思ったんです」

県内有数のたけのこの産地として知られる田上町は、同時に、放置竹林問題を抱えています。
「すごくおいしいたけのこをつくるのに、目も当てられないような放置竹林があっては、その魅力も半減してしまいます。竹を利用して、みんなの記憶に残るようなアーティスティックなイベントができれば、田上町の知名度を上げることができ、そして何より、地域の人たちが誇れる、新しい価値をつくることができると思いました」

そこで、自身も所属する商工会青年部に声をかけて、プロジェクトチームを結成。竹あかりの制作には熊本を拠点に活動する、竹あかり総合プロデュース集団〈CHIKAKEN〉に協力を依頼しました。
「地域の人たちにも協力してもらって竹を伐採し、竹あかりをつくりました。みんなが準備段階から参加し、“自分ごと”としてこのイベントに関われたことが何より良かったと感じています。もちろん来年も行うつもり。毎年続けて、田上町を美しい竹のまちにしていきたいと考えています」

「まちの価値をつくるためなら何でもしたい」と、今では道の駅を超えて、田上町の顔となり、地元のラジオに出演したり、地元の大学生とイベントを企画したり、パソコン片手に東奔西走する馬場さん。最近では、小学生と直接関わる活動も行っています。
「地元の小学校の設立150周年の一環で、4年生の授業を受け持ったんです。そこで特別講師に迫さんを招いて、田上町の魅力をキャラクターにして発信する授業を行いました。地元の小学生たちは、1年生から3年生まで田上町について勉強するので、4年生はその集大成。キャラクターは、何歳で、どこで生まれて、何が得意で、といったことを考えてもらい、最終的にみんなの意見を少しずつ取り入れたキャラクターを11種完成させました。自分たちのアイデアが入りまくりなので、子どもたちは大喜び。その様子を目の当たりにしたとき、子どもたちの未来をつくっている仕事になったなって、すごくうれしくなりました」

地域の仲間と地域の未来について考え、行動できることが何より楽しいと話す馬場さん。今後も独自のアイデアでまちを盛り上げてくれそうです。
Profile 馬場大輔
1978年田上町生まれ。大学卒業後、いくつかの職を経て、北方文化博物館に勤務。博物館では、8代当主伊藤文吉氏のもとで、国際交流や地域文化継承の重要性など、多くのことを学ぶ。2022年10月、田上町の文化継承とまちの新たな価値づくりのため、道の駅たがみの駅長に。休日は、新潟の自然をちゃんと感じたいと、冬はスキー、夏はキャンプと、家族でアウトドアを楽しむ。
Information
【道の駅たがみ】
address:新潟県南蒲原郡田上町大字原ヶ崎新田3072-1
access:JR信越本線羽生田駅から徒歩約12分、または北陸自動車道三条燕ICから約30分、磐越自動車道新津ICから約15分
credit text:矢島容代 photo:内藤雅子