前回の記事では、「ソーシャル・ジャスティス(社会的公正)」が経営の土台として重要であることは理解できた、という方も多いだろう。しかし、目線を変えてビジネスとしてどう取り入れるのかと考えた時に具体的なイメージは浮かぶだろうか。

ビジネスとして取り入れるのが難しく見えるSocial Justiceを「攻め」の視点で捉えると、他社との差別化戦略の1つとして取り入れようという動きも見えてくる。

『Where to play(どこで戦うか)』4つのポイント

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1つは企業戦略の「Where to play(どこで戦うか)」として取り入れるということだ。改めて「Social Justice」というレンズを通して市場を見ると、新たな顧客や市場が存在していることに気づくはずだ。

以下はその取り組み例である。

 

①B2C(個人を相手にしたビジネス)

既存のビジネスターゲットからは“抜け落ちてしまっていた人たち”を顧客(ユーザー)にする、見落とされがちな悩みや隠れたニーズに寄り添う、といったサービス提供が考えられる。

・取り残されたローミドル層への金融アクセスの提供

ケニアで国民の70%が使用するモバイル送金サービスであるM-PESA。日本でも一般的な金融サービスへのアクセスが担保されるローアッパー層以上と、生活保護などの対象となる低所得者の間で、ローンやクレジットカードなどの金融サービスから取り残されつつあるローミドル層(下位中間層)が拡大傾向にあり(国内だけでも推計850万世帯規模)潜在市場が存在する。

・女性特有のヘルスケア課題の緩和(Femtech)

グローバルで見るとFemtech領域は2027年までに5兆円の市場規模に成長すると言われている。日本でも、ルナルナという生理周期を管理するなどの機能を持つアプリが、2020年11月現在1600万ダウンロードを達成している。

・不動産、住宅仲介における格差是正

不動産、住宅仲介などにおいて一人親、外国人、シニアといった方々が敬遠され、契約しづらい状況がある。それらの個別事情に対応するため、外国人専門の家賃保証事業やひとり親専用のシェアハウスといったサービスを展開している企業も出始めている。

②B2B(企業相手のビジネス)

ソーシャル・ジャスティスの要請・対応が強まる企業に対して、ソリューションを提供することが考えられる。

・医薬品臨床試験における多様性確保

ヘルスケア領域では、医薬品開発において臨床試験参加の多様性をどう確保するかが課題となっている。米国のAcclinate社は、企業・研究機関から要請された要件に合わせて、多様性のバランスが取れた治験候補者の情報を提供し、全ての人の健康の公平性と個別化されたヘルスケアの実現を目指している。

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・女性企業家に対する融資

スウェーデンの大手金融グループSEBは、1800万人を超える零細企業家にリーチし、100のマイクロファイナンス機関への投資を通して資金を注入してきた。零細企業家の多くは女性で、同社は、生活環境の改善や女性の経済的地位の強化に主眼を置いている。

 

③B2G(政府や自治体を相手にしたビジネス)

政府・自治体が行う活動の中でSocial Justiceをどう確保するかという点と、政府・自治体が取り組むSocial Justiceをどう後押ししていくかという両面から、サービスの提供を始めている例もある。

・公的機関における不適切事案への対処サービス

米国では警察が必ずしもSocial Justiceに適合した対応しない場合があると捉えられており、警察に連行された際に専門家からの法的アドバイスをリアルタイムで提供し、家族らに位置情報を届けるアプリを提供するLegal Equalizerというサービスが展開されている。

また、政治腐敗が激しいブラジルでは、政治家の汚職の履歴を顔認証で紐づけて表示する、汚職検出器「コラプション・ディテクター(Corruption Detector)」というサービスがある。

・公的機関に代わって個々人にあった教育サービスを届ける

日本でも「LITALICO(りたりこ)」という企業が「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、就労支援、幼児教室・学習塾などの教育サービスを提供。障害者総合支援法と児童福祉法を根拠法として、国からも報酬を得るビジネスモデルを展開している。

④「人材戦略」としてのSocial Justice

さらに、Social Justiceに取り組むことは人材獲得戦略としても有効だ。

社会課題、サステナビリティといったテーマに感度が高いミレニアル・Z世代に対してブランド価値を高めることに繋がるのはもちろん、今まで能力/やる気等があるのに取りこぼされてきた人たちが活躍できる場を引き出すことで、優秀な人材の獲得、あるいは生産性の向上といった効果にもつながる。

・時間の制約がある人に対する仕事の創出

専門知識・スキルはあるものの育児や介護でフルタイムワークができずキャリアが断絶されがちな人材に対して、時短の仕事を切り出した仕事を提供するサービス(日本でも大手人材サービス企業などが提供)。

・ビジネスモデル上の格差の是正

今までプラットフォーマー企業や旧来型のビジネスモデルの中で下流に位置付けられていた方への適正な報酬を支払う企業が出始めている。最低報酬保障を設けデリバリービジネスを展開するWoltや携帯電話を製造するオランダのフェアフォンもその一つ。

フィンランド・ヘルシンキで2014年に創業したデリバリーサービス「Wolt」フィンランド・ヘルシンキで2014年に創業したデリバリーサービス「Wolt」

『How to win(どう勝つか)』3つのポイント

How to win(戦い方)」においてもSocial Justiceの考え方は活きてくる。

戦い方のパターンとしては、モニター デロイトがこれまで提唱してきたCSV(共通価値の創造)の3つの切り口(社会課題テーマ、アプローチ、達成水準)がSocial Justiceにおいても当てはまる。

デロイトが提唱するCSV(共通価値の創造)の3つの切り口デロイトが提唱するCSV(共通価値の創造)の3つの切り口

①  いかに新しい社会課題テーマを捉え解決していくか。

例えば、英国では、BlockPowerという企業が環境課題と人権課題を掛け合わせて、エネルギーサービスが行き届いていない・デジタルデバイドが生じているコミュニティの建物に再生可能エネルギーとエネルギー効率化技術を設計・販売している。

インドでは、Aakar Innovations という企業が100%生分解性サニタリーナプキンを販売し、製造・販売時に女性の雇用を通じて社会進出を促進し、郊外の村において生理に関する教育を実施するということで、サーキュラーエコノミーと女性のエンパワメントを両立している例もある(インドにおいては女性の70%が生理用品を購入する経済力がなく、生理用品を入手できれば女性の退学率は90%削減できるといわれている)。

このように、社会課題を掛け合わせ新たな課題設定をすることで、現状では単体の課題として収益化が難しいこともあるSocial Justiceの領域を解いていくことが出来る。

②「課題解決のアプローチ」として取り入れる方法

今見えてきている戦い方は2つある。

1つは、時には政治的・社会的姿勢の分かれる社会課題に対し、明確な会社としての方針を示すことで、Social Justiceに立ち向かうブランドとして差別化し、Loyaltyを高める方法、「ブランド アクティビズム」だ。

Nike、Ben & Jerry’s、パタゴニアなどが有名な例であるが、日本において、ユニリーバやP&Gが「LUX」や「パンテーン」といったヘアケアブランドを通じて就職活動時の性別や顔写真欄の廃止を進めている動きもその一つと言える。

パンテーン『#PrideHair』(2021年)、LUX『#性別知ってどうするの』(2021年)パンテーン『#PrideHair』(2021年)、LUX『#性別知ってどうするの』(2021年)

もう一つは、ルール形成を通じて、自社の競争優位性を築いていく方法だ。

前述したAcclinateは医薬品臨床試験の多様性に対して、サービス提供を進めているが、並行して、FDA(アメリカ食品医薬品局)に対し医薬品の多様性の義務付けを求めている。

将来的な規制に先んじてソリューションを提供することで、今後2030年までに53億ドルに成長すると予測されている臨床試験の患者募集市場で大きな差別化要素を持つこととなる。

 

③ より高みを目指す「達成水準」という考え方

環境分野では、ネットゼロ、ゼロエミッションといったことを掲げている企業は称賛され、またその目標に向かって必要な同志たちを先行して巻き込み、早期のエコシステム形成を推進してきた。Social Justiceにおいても同様に達成水準という切り口は有効に機能するものと考える。

例えば、ユニリーバやロレアルなどのアクション『Better Business through Better Wages(より良い賃金で、より良いビジネスへ)』は、バリューチェーン全体の生活水準の向上を掲げ、同社に物品・サービスを直接提供する「すべての人々」が2030年までに最低でも生活賃金または収入を得られるようにする、としている。

しかしながら、Social Justiceの領域においては何をどれくらい達成することが求められているのか、あるいは一企業が取り組む水準として期待されているのかが、気候変動ほどまだ明確ではない。その意味では前述したルール形成の議論と合わせて、取り組む領域においてあるべきSocial Justiceの姿・水準は何か、それはどう計るべきかといった基準を示す動きもセットで進めることでより強固な強みになってくる。

【文・藤井麻野、福岡杏里紗 編集・中村かさね】

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2022年、ビジネスの新潮流となりつつある「Social Justice(ソーシャル・ジャスティス)」。

資本主義が一つの転換点に立つ中で、存在感を増してきた「Social Justice」について、モニター デロイトの執筆陣による全5回の連載で紐解いていきます。

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第1回 岐路に立つ日本企業。「ソーシャル・ジャスティス」に取り組むべき5つの根拠

第2回  “攻め” としての「ソーシャル・ジャスティス」。7つのポイントで解説

第3回 経営リスクとしての「ソーシャル・ジャスティス」。3つの“落とし穴”とは

第4回 3つの事例でみる。DXにおける「ソーシャル・ジャスティス」はビジネスチャンスだ

第5回 “戦わない”ブランドは選ばれなくなる。「ソーシャル・ジャスティス」のその先へ……

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