「坂東太郎」は夏の季語である。江戸(東京)周辺で使われていた入道雲(積乱雲)の異称▼京都や大阪の丹波太郎、九州の比古太郎、近江や越前周辺の信濃太郎なども同じ意味とされる。幕末に生まれ明治から昭和初期にかけて活躍した幸田露伴は随筆「雲のいろいろ」の中で、坂東太郎について書いている▼「東京にて夏の日など見ゆる恐ろしげなる雲なり。夕立雨の今や来たらんといふやうなる時、天の半(なかば)を一面に蔽(おお)ひて、十万の大兵野を占めたるごとく動かすべくもあらぬさまに黒みわたり、しかもその中に風を含みたりと覚しく…」。暗雲が広がり、風雲急を告げる光景が目に浮かぶ▼坂東は関東の古称で、坂東太郎は利根川を指す言葉でもある。関東で最も大きい川であることから、日本の川の長男(一番)を意味する太郎と組み合わせて呼んだとされる。九州の筑後川が筑紫次郎、四国の吉野川が四国三郎などである▼かつて、利根川水系は全国有数の天然ウナギの産地だった。1960年代の終わりには年間千トンを超える漁獲量があり、全国の3分の1を占めるほどだった▼現在、漁獲量は激減してしまったが、坂東太郎は養殖ウナギのブランド名の一つにもなっている。25日は土用の丑(うし)の日。(斎)