独特の台詞回しと動きで、暮らしの中のおかしさや面白さを描き出す、日本最古の喜劇「狂言」。この世界を古くから牽引する流派「大蔵流」を受け継いだ若き狂言師の善竹富太郎さんは、現代に生きる私たちに、この「狂言」が分かるように伝える活動に情熱を注いでいる。「狂言はお笑いであり、生活を豊かにするサプリメント」。こう語る善竹さんの思いに迫った。(聞き手:早川周作・経営コンサルタント)

狂言は「お笑いの演劇」

早川)狂言は今日まで約700年にわたって受け継がれてきた日本の古典喜劇ということですが、歌舞伎と違ってあまり知られていない面もあると思います。改めて、狂言について基本的なところから教えていただいてもよろしいでしょうか?

善竹 狂言は難しく、厳粛なイメージがあるかと思いますが、実は室町時代から伝わる「お笑い」の演劇です。現代で言うと「M1」のような漫才と同じです。だから、気軽に楽しんでいただきたいと思います。「能楽」という芸能があります。「能」という芸能と「狂言」という芸能が合わさったものを指しています。能は面をつけて演じます。題材は人物が中心です。特に歴史上の武将などをレクイエム的に扱った話が多いです。暗い話ではないけれど、緊張感がある話が多い。

これに対して、狂言は日常のできごとを、室町時代から江戸時代にかけての日常語「〜でござる」などを駆使した会話劇で展開します。武士や農民、商人、職人、宗教者、盗人、すっぱ(詐欺師)、山賊(さんぞく)。さらに、現世利益をもたらす福神のほか、鬼や亡霊、動植物の精などが登場し、上流階級に属するものは登場しない点が特徴です。

このほか、「二字目を張る」といって、2番目の音を強調して台詞を言うなど、独特なところがありますし、演技や演出についても、さまざまな決まりごとがあります。

「狂言はサプリメント」だと私は思っています。当時を描いた「笑い」は、現代に通じるものがあります。現代を生きる人たちが、この狂言を見て、豊かな日常生活を送っていただけたらと願っています。

早川)善竹さんの所属している「大蔵流」は、どのような特徴があるのでしょうか?

善竹 私たちが求めるゴールというのは、現代人のみなさまが狂言を見た時に、説明や解説などがなくても、ご覧いただいたものが、そのまま理解していただけることを目指しています。しかしながら、室町時代から平成の世まで、すでに650 年以上経っていますので、現代人にも分かっていただけるように、なんらかの「橋渡し」が必要ではないかなと思っています。

(早川)善竹家は「華麗なる家系」だと思いますが、そういう「家」に生まれたことに対して、何か感じることはありますか?

善竹 曾祖父の彌五郎は狂言界で初めて人間国宝になりました。私にもその血が流れているのだという責任感は感じます。彌五郎の息子は5人いまして、五男が私の祖父の圭五郎です。次男が先代の宗家、彌右衛門です。大勢の先人が守ってきた伝統を、恥ずかしくないように継承して、さらに新しい風を吹かすのが、私の使命だと思っています。

早川)伝統を継承するために求められるものは何でしょうか?

善竹 やはり稽古でしょう。何時間と決まっている訳ではありません。私も弟も仕事があるので時間を決めてやっています。食事中などでも、よく狂言について会話をしています。お互い限られた時間の中でも、こうした時間を持つことは重要です。

早川)狂言を引き継がれるに当たって、迷うことはありませんでしたか?

善竹 迷いはまったくなかったです。親からこの道を無理に押しつけられることもありませんでした。「やりたくなければやらなくてもいい」と言われるぐらいでした。ところが、ある時から「自分はラッキーボーイだな」と思うようになりました。大学生の頃に、私の中で意識変革が起きたのです。70〜80席を受け持つようになった時、自分のお客さまを呼ぶようになりました。それまでは「与えられた」舞台をこなすだけだったのですが、その時から「ご覧いただく」という精神が芽生えたように思います。「私のファンを増やしていかないといけない」と、真剣に考えるようになりました。

五輪を機に狂言にも触れてほしい

早川)私たちが展開しているリーダーズ・オンラインというサイトでは、日本の大切な文化や本物を若者や海外に広めるということをテーマに掲げて、老舗企業の経営者や、著名人にインタビューをしています。日本にはさまざまな伝統文化があるのに、実は知らない人が多い。そういう人たちが狂言を楽しむ方法というのはありますか?

善竹 そもそも日本人は日本文化のことをあんまり知りません。「これではいけない」「知らないといけない」と思いながら、結局、勉強をせずに、一生を終える人も多いと思います。しかし、2020年には東京オリンピックがあり、世界中からたくさんの人たちが集まるでしょう。それをきっかけにして、日本人としての足元を見つめるというか、自国の歴史や文化を振り返る人が多くなるのではないでしょうか。その時に是非、狂言にもついても触れていただきたいと思います。狂言は「お笑い」ですから、本来はとても楽しいものなのです。

早川)善竹さんが取り組んでいる「狂言道場」は、初めて見る人にも分かりやすく、オリジナルのテキストに沿って。狂言の知識を伝えています。その様子をYouTubeでも公開していて、狂言の普及に努めていらっしゃることがよく分かります。この「狂言道場」を、全国でたくさん開催すると普及が進むかもしれません。馴染みのない人からすると、予備知識も、解説もないまま、聞いているだけでは、なかなか理解が追いつかないかもしれません。

善竹 狂言道場では、私が日本一、いや世界一分かりやすく、小学生にでも分かるように、狂言の楽しみ方を実際の講演映像を交えてご紹介しています。私の公式サイトでも、動画が視聴できるので、興味のある方には、是非ご覧いただきたいと思います。

そのうえで、「笑いが絶えず、小学生でも分かるようにお届けする」をモットーに私が開いている「渋谷の夜の狂言会」に足を運んでいただけたらと思います。「狂言を通してあなたを笑顔にハッピーに!」という思いを込めてやっています。渋谷にあるセルリアンタワーの能楽堂(地下2階)などで夜に行います。このイベントのチケットは、私の公式サイトから購入できます。
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01m34zys4xkh.html

早川)「渋谷」と「狂言」は、なかなか結びつきません。そもそも渋谷に能楽堂があることを知らない人がほとんどではないでしょうか。若い人たちにフォーカスを当てて活動してみてはいかがですか?

善竹 そうですね。歌舞伎座がどこにあるかは誰でも知っています。しかし、渋谷に能楽堂があることは知らない人がほとんどです。ところが、歌舞伎は能楽からエッセンスを取っているのです。能楽が生まれたのは室町時代ですが、歌舞伎はそれよりずっと後の江戸時代に生まれました。私は地道にこうした伝統を守りつつ、「狂言」の知名度をあげていきたいなと思っています。

早川)最後になりますが、この記事を読んでいる経営者の方々、海外の方々へのメッセージをお願いします。

善竹 まずは「狂言」を見に来ていただきたいです。能楽堂の空気、生の声がどういう響き方するのかを感じてもらうことが大事なので、是非一度、多くの方々に足を運んでいただきたいと思っています。

【プロフィール】
善竹富太郎(狂言師)
1979年8月10日生まれ。学習院大学文学部心理学科卒。祖父・故善竹圭五郎、父・善竹十郎に師事。3歳より稽古を始め、5歳の時に狂言「靭猿」(うつぼざる)の小猿役で初舞台を踏む。現在では自主公演『渋谷の夜の狂言会』などを主催して多くの人に狂言を広めようと日々活動している。桐朋学園短期大学演劇科講師、昭和音楽大学短期大学部ミュージカル科講師、昭和音楽大学短期大学ミュージカル学科講師も務めている。
HP:http://goodbamboo.net/

【大蔵流】
金春座で代々、狂言を務めた大蔵彌右衛門家が室町後期に創流。宗家は大蔵彌右衛門家。1941年に茂山久治(後の善竹彌五郎。狂言界初の人間国宝)の次男・吉二郎が大蔵家に婿入りして二十四世大蔵彌太郎(のち大蔵彌右衛門)として宗家を継いだ。善竹彌五郎(茂山久治)のほかに過去に大蔵流から人間国宝に認定されたのは、三世・茂山千作(真一。十一世・茂山千五郎)、四世・茂山千作(七五三〈しめ〉。十二世・茂山千五郎)。型を重んじながら、芸風は繊細で細やか。現代に魅力ある狂言を伝えるべく、大阪と東京を中心に舞台を行う。


【転載元】
リーダーズオンライン(専門家による経営者のための情報サイト)
https://leaders-online.jp/