太ももの付け根には、下半身のリンパや神経が集まる「鼠径部(そけいぶ)」がありますが、この部分は痛みが出やすいといわれています。ただ、女性が足の付け根の内側・外側にしこりや痛みを感じた場合、さまざまな原因が考えられます。

そこで今回は女性が足の付け根のリンパ節に痛みを感じる原因や症状、何科を受診すればよいのかを紹介します。

女性が足の付け根に痛みを感じる原因となる病気

女性が足の付け根(鼠径部・そけいぶ)に痛みを感じる場合、以下の病気が原因となっている可能性があります。

リンパ管炎:リンパ節に赤い線がある

足の付け根のリンパ節に向かって熱を帯びた赤い線が現れて痛みを感じる場合、リンパ管炎を起こしている可能性があります。リンパ管炎とは、リンパ管に細菌が侵入して感染することによって起こる炎症のことをいいます。

【症状】

・リンパ腺に赤い線の出現(触れると痛い)
・リンパ腺の腫れ
・悪寒
・発熱
・頭痛
・筋肉痛
・食欲不振

【原因】

リンパ管炎は「急性リンパ管炎」と「慢性リンパ管炎」の2種類に分類されます。

・急性リンパ管炎の原因:手足の外傷部分から溶血性連鎖球菌やブドウ球菌、レンサ球菌などの細菌が侵入することで感染
・慢性リンパ管炎の原因:空気中や土壌中に存在する真菌が体内に侵入することによって感染

リンパ系から血流へ感染が及ぶと感染症が全身に拡大したり、急激に進行したりすることもあるため、すぐに病院を受診する必要があります。

鼠径ヘルニア:40代以上の女性に多い

いわゆる「脱腸」と呼ばれる鼠経ヘルニアは、足の付け根の内側部分にある鼠径部(そけいぶ)から腹膜(腸などの内臓を包んでいる袋)が飛び出してしまう病気です。

鼠経ヘルニアは40代以上の男女や乳幼児に多くみられます。

【症状】

・足の付け根に痛み
・しこりのようなやわらかい膨らみが出現
・膨らみを手で押したり仰向けで寝たりすると消える
・鼠径部の不快感や違和感

【原因】

鼠径ヘルニアの原因は生まれてくるときに鼠径部の腹膜が癒合しない「先天性」のものと、生活習慣や加齢、病気、妊娠などによる「後天性」のものがあります。成人の鼠径ヘルニアは自然治癒することはないため、手術による治療が必要です。

変形性股関節症:足の付け根の内側・外側の痛み

足の付け根の内側や外側が急に痛くなった場合は「変形性股関節症」の可能性があります。変形性股関節症とは、足の付け根にある関節軟骨がすり減ることで炎症を起こし、痛みや軟骨の変形が起こる状態のことをいいます。

【症状】

・足の付け根の痛み(内側・外側)
・関節の違和感・足の長さが左右で違う
・関節がボキボキと鳴る
・靴下が履きにくくなる
・長時間立っているのがつらくなる

足の付け根の左右両方が痛むこともあれば、どちらか片方が痛むケースもあります。症状が進行すると痛みが強くなり、就寝中も痛みが出るようになります。

【原因】

変形性股関節症の原因の多くは臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん:骨盤の形が先天的に異常があること)や加齢による軟骨のすり減り、体重の増加などが挙げられます。

痛み止めなどの薬物療法や生活改善、運動療法を行っても痛みが改善されない場合は手術を行うこともあります。

子宮内膜症:生理前に足の付け根・リンパの腫れ

生理前や生理時に足の付け根のリンパが腫れる女性は、子宮内膜症を起こしている可能性があります。子宮内膜症とは、本来子宮の中にできるはずの子宮内膜組織が子宮以外(卵巣・卵管・腸・腹膜など)に発生する病気で、20〜40代の女性に多くみられます。

【症状】

・足の付け根や下腹部周辺に硬いしこりができる
・しこりを押すと痛い
・生理の出血量が増える
・生理痛がだんだん重くなっている
・貧血
・便通の異常
・下血
・喀血

子宮内膜症は月経周期に合わせて増殖するため、生理時に足の付け根にしこりができて痛みを感じやすくなります。

子宮内膜症を起こすと月経時の血液がうまく排出されずに周囲の組織と癒着してしまい、生理の回数を重ねるごとに症状が悪化する傾向があります。

【原因】

子宮内膜症の原因は明らかになっていません。命に関わることはほとんどありませんが、発症すると不妊症の原因になる恐れがあるため早期発見・早期治療が重要です。

性感染症:鼠径部の赤い腫れ・押すと痛み

性感染症は性行為の経験があれば誰でも感染する可能性がありますが、発症すると足の付け根のリンパ節に赤い腫れや痛みを引き起こすことがあります。

【症状】

・梅毒:足の付け根のリンパ節に腫れやしこり
・発熱
・疲労感
・食欲不振
・HIV:足の付け根に小さなしこり
・腫れ
・発熱
・発疹
・疲労感
・下痢
・貧血
・軟性下疳(なんせいげかん):ズキズキとした痛み・皮膚の腫れ・性器や肛門に小さな水ぶくれ

【原因】

おもに性行為によって感染し、梅毒はキスや皮膚の傷口からうつることもあります。性感染症は悪化すると命に関わる危険性があるため、気になる症状がある場合はすみやかに医療機関を受診してください。

悪性リンパ腫:足の付け根に痛みのないしこり

悪性リンパ腫は血液がんの一種で、白血球の中のリンパ球ががん化した病気です。

【症状】

・足の付け根のリンパ節に痛みや弾力性のないしこり
・腫れがだんだん大きくなる
・皮膚の赤み
・腫れ
・かゆみ

症状が進行するとしこりや腫れは全身に広がり、発熱や倦怠感、体重減少、嘔吐などの全身症状が現れます。リンパ組織は全身にあるため、足の付け根だけでなく全身の部位で悪性リンパ腫が発生する可能性があります。

【原因】

悪性リンパ腫の原因ははっきりしていませんが、遺伝やウイルス感染などが関連しているといわれています。悪性リンパ腫の治療は化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療が中心で、種類によっては根治を目指せる可能性があります。

足の付け根・リンパに痛みがある女性は何科を受診?

女性が足の付け根のリンパ節に痛みがある場合、受診先は痛みの原因によって異なります。

・リンパ管炎:婦人科・内科・整形外科
・鼠径ヘルニア:消化器外科・外科
・変形性股関節症:整形外科
・子宮内膜症:婦人科
・性感染症の場合:婦人科・産婦人科
・悪性リンパ腫の場合:内科・血液内科

リンパ管炎は原因が性感染症の場合は婦人科、自己免疫疾患の場合は内科や整形外科を受診する必要があります。自分自身では原因が分からない場合、まずかかりつけ医に相談しましょう。

足の付け根に痛みやしこりがあれば早めに医療機関へ

何らかの病気が原因で足の付け根のリンパ節に痛みやしこりがある場合は自然治癒することがないため、医療機関で治療を受ける必要があります。

・足の付け根の痛みがだんだん酷くなっている
・痛みが1週間以上続く
・日常生活に支障をきたしている
・発熱や倦怠感、食欲不振などの全身症状がある

などの症状がある場合は早めに受診しましょう。

放置するとほかの臓器に障害を起こしたり合併症を起こしたりなどのリスクがあるほか、性感染症や悪性リンパ腫の場合は命に関わる危険性もあるため注意が必要です。受診の際はしこりの大きさの変化や痛みが続いている期間などの症状をできるだけくわしく医師に伝えましょう。