大阪では抜群の知名度を誇る「スーパー玉出」。

 大阪市南部を中心に45店(うち市内29店)を展開している。大阪府以外では、隣接する兵庫県尼崎市に1店があるのみで、大阪市内最強のローカル食品スーパーといえるだろう。年商は450億円で、1店舗当たり10億円の売り上げを誇る計算だ(2019年4月時点)。

 派手な黄色の地に赤で屋号が書かれた看板や、ネオンサインを散りばめた内装は、パチンコ店かと目を疑うほど。24時間営業で、1円の目玉商品を売る驚異の激安商法は、「日本一の安売王」の看板に恥じない。店名の“玉出”からしてパチンコ店を連想してしまうが、これは西成区の地名に由来する。スーパー玉出は1978年に当地で創業している。

 総菜や弁当はその安さに定評があるが、特に寿司は最近では中国人をはじめとする訪日外国人観光客にも人気が高まっているという。また、安くて鮮度が高い魚介類を売っているので、近隣の飲食店がスーパー玉出を卸売市場の代わりに使っている。

 今回は大阪の庶民派スーパーであるスーパー玉出のユニークなビジネスモデルを紹介したい。

●反社会的勢力との関係ない組織づくりを遂行

 スーパー玉出は、18年7月に菓子、自然食品など多彩な事業を展開するアイセ・リアリティ(東京都台東区)が出資するフライフィッシュ(大阪市西成区)が約46億円で買収して事業を承継。営業権が譲渡されている。

 創業者の前田託次氏が、暴力団関係者に飛田新地の売春用不動産物件を貸して、賃料を受け取ったとの組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の収受)容疑で大阪府警に逮捕されたが、アイセ・リアリティは当該物件にかかわっておらず、反社会的勢力とのつながりはない。

 フライフィッシュは、今回の事案に鑑みて、改めて現状の取引先及びその関連先を精査し、今後も引き続き反社会的勢力と無関係な組織づくりと事業展開を遂行すると表明している。

●個人営業の八百屋からスタート

 スーパー玉出は食品を主に扱うスーパーマーケットであるにもかかわらず、どうしてパチンコ店のように見えてしまうのか。それは、もともとパチンコ店だった店舗を購入して、ギンギラギンの装飾をそのまま残し、居抜きで使ったからである。

 前田氏は個人営業の八百屋としてスタートした。その店が繁盛して事業資金がたまっていく中で、個人営業のスーパーとなっていった。そして、売りに出された同業で個人営業のスーパーを次々と買収するなどして、チェーン化を進めていった。チェーン化した店では、パチンコ店風の空間づくりをしていった。パチンコ店のネオンサインをつくっている職人が、店内のネオンサインを手掛けている。

 当時は商店街の全盛期で、大阪では数多くの商店街が立ち上がり、大いににぎわっていた。

 今では半ばシャッター街と化した商店街が増えてしまったが、特に西成区はアーケード商店街の密集地で、鶴見橋、サンスーク花園、今池、萩之茶屋本通、玉出本通などといった商店街が隆盛を誇っていた。スーパー玉出はその勢いに乗った。これらの商店街は人があふれていたのだ。

●客単価が平均の半分近く

 スーパー玉出は、大阪の下町に密着した昭和の商店街全盛時の繁栄と熱気を今に伝える庶民派のスーパーだ。一般のスーパーが客単価2000〜2500円であるのに対して、1000〜1500円と半額近くとなっている。

 その代わり、毎日買物に来る顧客が多く、コンビニに近い感覚で当日使う食材を買っていく。郊外にある駐車場が広いスーパーなら1週間に1度、駅前のスーパーでも2〜3日に1度くらいの来店頻度だから、顧客の購入スタイルに特色がある。

 地域の人たちがなんとなく毎日集まってくる、コミュニティーのような性格を持っているのだ。

●2タイプのスーパー玉出が存在する

 店舗の分布にも特徴がある。淀川より北には淀川店と東淀川店があるだけだ。新大阪よりさらに北に位置する吹田市や豊中市といった大阪市外の北摂地域に入ってくると、街の雰囲気が変わってくる。「成城石井」や「いかりスーパーマーケット」のような高級イメージのあるスーパーが似合うような場所は、スーパー玉出に似つかわしくない。

 一方で、大和川より南に位置する泉州地域の堺市・泉大津市・岸和田市や、大阪市の東にある守口市・八尾市といった北河内地域には駐車場が付いた郊外型の店を有しており、営業時間は午前9時から午後9時くらいまでとなっている(一部除く)。都心型の24時間営業店とは顧客層が微妙に異なり、顧客単価も若干上がってくるという。顧客の来店頻度も2〜3日に1度くらいとなる。

 つまり、地域に合わせて2タイプのスーパー玉出があるのだ。人口密集地域では24時間営業を行い、半径800メートルのエリアをターゲットとしている。一方で、郊外では車での移動を前提に、半径1.5〜2キロ圏内がターゲット。その範囲内にチラシをまいて集客に努めている。

●1円セールのからくり

 スーパー玉出名物の「1円セール」は、1000円以上買った顧客が特定の商品を1円で購入できるというもの。その内容がチラシに書かれており、チラシの告知を見て顧客が来店するわけだ。

 1円で購入できるのは、1人1回に限られる。1000円以上買わなければサービスを利用できない。これが薄利多売、激安商法の肝だ。1円の商品を入手するために、多くの顧客が1000円分以上の商品を購入する。「商品1円」の効果は極めて高く、大量に1円以外の商品が売れるので利益が確保できている。1円セールの対象商品は毎日変わるので、ファンはついつい毎日行きたくなるのだ。

 スーパー玉出のチラシは週に2〜3回配られるだけでなく、各種Webサイトにもアップされる。チラシの配布日には公式Webサイトのアクセス数が2〜3倍に急増する。

 1円セールの対象によく選ばれるのは、飲料、麺類、豆腐、ソース、菓子、バナナ2本セット、石けんなどで、これらを織り交ぜて販売している。

 スーパー玉出は1円セール用の商品を集める商談会を毎週水曜日に開催する。賞味期限が迫っているが、在庫処分に経費を使うくらいなら1円ででも売り切ったほうが良いと判断するような商品を、食品メーカーは抱えているものだ。メーカーと持ちつ持たれつの関係で、残念ながら過剰在庫になってしまったが、世に問うべき商品を消費者に知ってもらう機会として、1円セールが活用される側面もある。

 1円セールは「新商品の販売」「キャンペーン商品の試食」「サンプル配布の代わり」に使われるケースもある。そのため、「ウチの商品を1円で売るとはけしからん!」とメーカーから叱られることはないわけだ。1円で売ったからといって、スーパー玉出が大赤字になるわけでもない。

●小売りのテーマパーク

 「1円セールは、販促の効果を狙ったものですね。アトラクションというか、お店の売りを面白くしているのです。最近は、パチンコ店のような内装の効果もあって、ありがたいことに東京などから大阪に観光に来た人が『スーパー玉出で買物をした』と、よくSNSに投稿してくれます。普通はスーパーで買物をしたことをわざわざSNSに投稿しないです。食材、総菜を介してエンターテインメントを提供しているとも言えます」(フライフィッシュ取締役管理本部長の浅浦哲夫氏)。

 浅浦氏によれば、スーパー玉出には東京ディズニーリゾートやUSJのようなテーマパーク的な要素があり、行って楽しい空間が構築できているのが強み。台湾の旅行ガイドにも掲載され、中国語圏では大阪の観光スポットの1つとして認識されている。店の前でポーズを取って記念撮影をし、SNSに投稿する外国人も増えている。

 24時間営業をしているのは、大阪のような大都会では深夜や早朝でも人が動いているという現実を踏まえてのことだ。「スーパー玉出に来ればコンビニにはない何かが置いてある」という顧客の期待に応えている。オペレーションの面では、夜中に総菜や弁当の仕込みをしたり、棚に商品を補充したりできる。また、店内の清掃もできるので、朝から昼の時間帯に余裕を持って営業ができるメリットもある。真夜中も総天然色のあかりが煌々と点いているので、防犯上も望ましいと地域住民に喜ばれているという。

●ドンキとの類似点

 「スーパー玉出での買物の楽しさは、ネット通販では決して味わえません。ウチと考え方が似た業態があるとすれば、ドン・キホーテさんでしょうか。売場が整然とし過ぎた今のスーパーでは、面白くなくて、通販でもいいだろうとなってしまいます。そうでなくて、商品が段ボールで山積みされたほうが、お客さまは来るのですよ」(浅浦氏)。

 スーパー玉出では、先の折れたニンジンを超激安で売ったこともある。規格品にこだわる大手スーパーでは、あり得ない商品だ。しかし、先が折れていようが栄養価に変わりないと構わず店頭に並べた。

 いわゆる“コテコテの大阪”こそが、同店が似合う風景である。

 今後、大阪では2025年に万国博覧会の開催が予定されており、都心回帰の流れもあって、人口が増える傾向にある。しかし、タワーマンションの住人のような高所得者とスーパー玉出の顧客層が合っておらず、追い風になっているとは言い切れない。

 大阪の庶民の日々の食卓を従来通り満たしつつ、インバウンドを含めた観光客をいかに取り込んでいくか。経営を一新したスーパー玉出の再興に期待したい。

(長浜淳之介)