「7、8年前までは求人広告を出すと応募が来たが、だんだんと人集めが厳しくなった。人がいない日は自分が入るしかなく、自分と妻で週120時間は働いている」

 「最低時給なので応募がないし、いい人が集まらない。仕事のレベルが低く、内引き(従業員の不正行為)などされても、かわりの人を集められないからやめさせられない(注:同様の意見は多数)」

 「募集しても応募がない。仕事が複雑、覚えることはたくさんあるし、何でもやらなきゃいけないのに(トイレやごみ捨て場掃除、タクシー呼んでくれ、道を教えてくれ……)、時給が一番低い。底辺の仕事みたいになっている」

 「深夜の人手不足の状況は改善されず、自分が入るしかない。23時から6時までは赤字営業。本部からは、売り上げが下がるから時短営業はオーナーさんのためにならないと言われ、深夜の納品となるフローズン、書籍、新聞、パン、牛乳などの荷受けのために人がいないといけないので、時短する意味もない」

 「時短営業を申請して実施している。本部からは『時短してもしなくても利益的には変わらない、オーナーさんのためにならない、店舗移転の希望も通らなくなる、時短しなければ月10万円の補填を考える』といわれた。結局、時短した結果、日販で4万減となり、収入は月十数万円減少。一方、人件費は40万ほど少なくなり利益は改善。夜中の店からの呼び出しを心配しなくてもよくなり気が休まるようになったし、人手不足の心配が減った。ただ、本部と毎日やりとりするメールボックスの回収が、営業時間外の深夜2時ころのため、自分がいなければならず、それを調整してほしい」

 これは、経済産業省が2019年6月〜12月に4回開催した「新たなコンビニのあり方検討会」で提出された資料の一部です。

 上記のコメントは全て加盟店のオーナーによるもので、6ページにわたるヒアリング結果には「サービスの拡大」という項目もあり、次のように記されています。

 「行政が行っていたサービスをコンビニが対価を得ずに肩代わりしている。公衆トイレのかわり、喫煙所のかわり、ごみ捨て場のかわり、派出所のかわり(高齢者・子どもの保護、女性の駆け込み、振り込め詐欺の防止、道案内)、市役所のかわり(住民票の発行)、消防のかわり(防災拠点)をコンビニがしていて、そのコストを加盟店は負担しているが、本部もだれも何も負担していないのではないか。トイレを取ってみても、トイレ掃除の人手(1日に7回ほど掃除する)、トイレットペーパー、清掃の洗剤など全て加盟店の負担である。行政もサービスのコストをある程度は負担する必要があると思う」

 コンビニはもはや単なる小売店ではないのです。「行政が行っていたサービスをコンビニが対価を得ずにしている」にもかかわらず、報じられるのは「24時間をやめるか? 続けるか?」という表面的なことばかりです。

 本部はコンビニに付加価値をつけることで存在価値を高めてきました。そのやり方を批判するつもりはありません。でも、その対価を払ってきたのでしょうか? 全て現場に「ひとつよろしく!」と押し付け、二言目には「オーナーさんのためにならない」と言い放った。

 その結果、現場の人たちが命を削って働いている――。それが今のコンビニ問題の本質です。

●命を置き去りにした「24時間営業」議論

 実際、「コンビニオーナーの死亡率は官僚の6倍」「コンビニオーナーが病気になるリスクは官僚の9倍以上」という説(資料から分析)や、コンビニオーナーの突然死(過労死)はさまざまなメディアでも取り上げられてきました。

 しかしながら、過労死や過労自殺を定量的に捉えるのは極めて困難です。民間企業であれば、過労死が1件でも公表されれば、社会的な制裁を受け、労働環境の改善が求められますが、コンビニオーナーは労働者ではないため、仕事が原因であるかどうかを特定するのは無理。自己責任扱いされる可能性が極めて高いのです。

 つまり、誰もがコンビニオーナーの労働環境の厳しさを感覚的には分かっていても、その労働環境を作っている本部のダメージはほぼゼロに等しい。今、この時間にも、身を削って働いているオーナーさんがいるかもしれないのに、それを救う手だてがないままに「24時間営業の是非」が問われている。

 ファミリーマートなどが時短営業の実験結果などを公表していますが、そこで捉えているのは「営業利益」です。捉えるべきはオーナーの労働時間であり、睡眠時間であり、心身の健康度の変化なのに、人の命が置き去りにされているという、嘆かわしいリアルが存在するのです。

●25年前に議論された「コンビニ問題」

 さかのぼること25年前の1994年。セブン-イレブン・ジャパンの経常利益が親会社のイトーヨーカ堂を抜き小売業トップになり、これは小売業界の“地殻変動”と呼ばれました。

 当時の日本社会では働く女性が増え、DINKS(子どもを持たない共働き夫婦)と呼ばれる世帯が登場。その結果、食料から生活用品、公共料金の支払いまでできる「年中無休」は、時代のニーズに合った、極めて魅力的な営業形態でした。が、その一方で、コンビ二の店長(オーナー)は、“ニューハードワーカー”と呼ばれていました。

 そこで、労働省(現・厚生労働省)は、コンビ二店長の“働き方”の実態を捉えるために、1993〜94年、「オーナー店長」と「雇用店長」を対象に調査を実施。その内容は「コンビニエンス・ストアの経営と労働に関する調査研究」というタイトルで、問題点と共にまとめられています(以下、内容を抜粋し要約)。

【労働時間】

・店長の週平均勤務時間は、65.1時間。オーナー店長が67.1時間、雇用店長が62.2時間で、オーナー店長の方が長い

・オーナー店長では「休日なし」が、34.5%と最も多く、雇用店長は「週1日」が53.3%と、過半数を占めた

・「週休2日」は店長全体のわずか6.6%。「月1日」は13.1%

 以上から、仮に週に1日は完全に休み、6日間労働としても、1日当たり10.9時間労働となることが明らかになった。

【職務満足感】

 仕事全体、収入、能力発揮、裁量性、勤務時間、休日数の6項目の満足感を尋ねた。

・「仕事全体」は、半数以上が「満足」とした

・「能力発揮」「裁量性」で、特に満足度が高く、約6割の人が「満足」と回答

・「休日数」では、8割近くが不満と回答

・「収入」では、6割弱が「不満」

・「一日の勤務時間」は、6割強が「不満」

・ほとんどの項目で、雇用店長の満足感の方がオーナー店長より若干高い傾向にあった

 以上から、収入や休日などの労働条件に関しては不満があるものの、能力発揮と判断の裁量度という点で、店長たちが満足していることは強調されてよい。

【精神健康】

・雇用店長はオーナー店長より心身の不調を訴えていた

・特に「目が疲れる」「かぜをひきやすい」「根気が続かない」「好きなことでもやる気がしない」「生活にはりあいを感じない」の項目では、雇用店長で不調を訴える人が多く、特に精神症状で不調を訴える人が著しく多かった

・一方、オーナー店長は、多くの項目で低い傾向が認められた。ファミレスやホテルで働く人たちとの比較でも低い値を示しており、相対的にストレスが少ないことが明らかになった

 以上のことから、オーナー店長と雇用店長では、ストレスの度合いが異なり、その理由は以下のことが考えられる。

・雇用店長は相対的に年齢が若く、その経験に比して重い責任が課せられている可能性

・雇用店長はオーナー店長とは異なり、社員としての付加的な業務が与えられている可能性

・雇用店長はオーナー店長とは異なり、営業成績に一定のノルマが課せられている可能性

 特に精神的な自覚症状の訴えが強いことから、雇用店長に加重されている負担は、肉体的なものではなく、精神的なものであることが予想される。

●25年前の調査が予感させる「今」の窮状

 以上の結果を受けて、報告書では次のような見解をまとめています(概略)。

 「今回の調査から、店長の仕事は、勤務時間が長く、休日が少ないといえる結果が得られたが、能力発揮と判断の裁量度という点で、オーナー店長たちが満足していることは強調されてよい。オーナー店長が脱サラの受け皿になっている点から考えると、彼らの期待が裏切られなかったと解釈してよいであろう。

 現時点で利用できる資料を検討した限りにおいては、コンビニエンス・ストア経営に伴うストレスの強さは、特にオーナー店長では、十分に耐えられる程度にあるといえそうである。

 まだ歴史の浅い業界だけに、問題に対する柔軟な対応が期待できるが、逆に対応を間違えると、業界全体の発展を疎外することにもなりかねない危険性をはらんでいる」

 要するに、「長時間労働で休みもないけど、仕事の満足感は高いんだよ〜。でも、オーナー店長は経営者だからいいけど、オレらはしょせん会社員。なんやかんや上からうるさく言われるし、雑用も多いし、ストレスたまっちゃって、体調悪いし、やる気も出ないんだよなぁ〜」ということが明かされたのです。

 これらの結果を受け、コンビニ業界がどんな施策を講じたかは分かりません。しかし、ここで得られた結果と問題点は、「今」を予想させるもので、本部のやりがい搾取が「今」の窮状を生んだといっても過言ではありません。

 つまり、件の報告書には、「対応を間違えると、業界全体の発展を疎外することにもなりかねない危険性をはらんでいる」とあるにもかかわらず、その危険性を排除しないまま、店舗数は爆発的に増えた。そして、25年たった今、年中無休は、働く人の健康を脅かす“凶器”となってしまったのです。

(河合薫)