新型コロナウイルス対策のため、都心部を中心に急激に浸透した在宅勤務。中にはIT企業やベンチャーを中心に、「コロナ後」もテレワークの継続に舵を切った結果、本社オフィスを“消滅”させる動きが進んでいる。「職場」は本当に要らないのか。意外なメリットとは?

 サービス業の店舗向けに情報共有などが可能な動画サービスを提供するClipLine(東京都港区)は、4月末に本社オフィスの賃貸契約について解約通知を出した。

●都心の快適オフィスより「自宅の方がいい」

 同社では東京都など7都府県の緊急事態宣言(4月7日)の直前に、約50人いる社員のほぼ全員がテレワーク体制に移行し、コロナ終息後も続ける方針だ。今後、臨時の面会などに使う小さいスペースを借りるかは検討中だが、少なくとも社員の固定席があるオフィスは持たない。

 実は、割とオフィス環境には気を遣ってきたという同社。JR田町駅近くの築3年ほどのビルのワンフロア全体(約600平方メートル)を、月額約500万円で1年半前から借りていた。天井も高く、50〜60人は入れる会見やセミナー用のホールを完備。「部署間のコミュニケーションを改善するため、2フロアに分かれていた前のオフィスから引っ越した経緯があった。きれいでセキュリティ面も良く、前より業務も進めやすくなっていた」(高橋勇人社長)

 ただ、高橋社長がテレワーク中の社員に面談で感想を聞いたところ、「仕事が楽になった」という声が多数を占めた。通勤に加えて身支度の時間が無くなるメリットがよく挙げられたという。さらには「自宅なら好きな時間に飲食できるし、社員のリラックス度合いも違っていた」(高橋社長)。

 「駅に近く快適なこのオフィスを出ることになるとは、夢にも思っていなかった。でも今回、(テレワークを機に)『自宅の方がオフィスより快適です』と社員にはっきり言われたようなもの。引き続き働く場は分散していきたい」(高橋社長)。外出自粛が解けた後も勤務場所は自宅にも限定せず、例えば親の介護で実家に行ったり、観光地で旅行しながらの勤務など、働き方の自由度を高めていく方針という。

●テレワークが生む絶大な「コスト削減」

 AI(人工知能)を活用した人材マッチングサービスを手掛けるLAPRAS(東京都渋谷区)も、同区にある約430平方メートルの本社オフィスを間もなく解約する。コロナ後の働き方の詳細は検討中だが、サテライトオフィスのような小さなスペースは確保する方針。現在実施中の全面テレワークを続けるか、通勤するは社内のチームごとに選んでもらうようなイメージという。

 同社もコロナ以前はテレワークを特に推奨していなかった。担当者は「チャットより対面の方がコミュニケーションの質や量も高まり、(オフィスにいれば)他の部署の人とも打ち解け合ってアイデアも出ると考えていた」と振り返る。

 しかし、やはりコロナ対応で業務を全面リモートに。加えてコロナ後も見据えた勤務体制を検討するため、従業員に仕事のパフォーマンスがどう変わったか、「商談の達成数といった、数字で測定できる成果」と「個人の主観的な実感」の両方について調査してみた。

 「従業員は仕事の成果が上がったと(主観的に)実感していた一方、定量的な仕事のパフォーマンスはテレワーク前後で変わらない結果となった」(担当者)。やはり、長い通勤時間を趣味や仕事の準備に当てられる、といった心理的メリットが多く挙げられたという。

 加えて同社の「オフィスとの決別」の決め手となったのは、固定で掛かる膨大なコストだ。前述のClipLineと同様、LAPRASも都心の駅に近いビジネス街に居を構え、月数百万円の賃料や光熱費などを払ってきた。「スタートアップ企業にとって家賃の負担はとても大きい。仕事のパフォーマンスがテレワーク時も変わらないと分かったので、これらは不要なコストと判断した」(担当者)。

●「集まって仕事する」無意味さ気付けるか

 テレワーク研究の第一人者で、多くの企業の導入例を分析してきた東京工業大学環境・社会理工学院の比嘉邦彦教授は「コロナ後も日本企業は人手不足にもかかわらずイノベーション力を上げることを求められている。今までの通勤が前提だった働き方の必要性を検討すべきだ」と説く。中でも、テレワーク継続で有力な大義名分になるとみているのが、この「コスト削減効果」だ。

 「全員が(オフィスという)同じ時間、同じ場所にいるコスト、つまりは家賃、紙やコピー機などのリース代金といった費用は実際に計算できる。東京23区内では従業員1人当たり(オフィスのコストが)平均7万円というデータもある。そのコストに従来の勤務形態を維持する正当性があるかどうか、判断すべきだ。経営者も『従業員が集まって仕事する意味は無い』と気付けるのではないか」(比嘉教授)