ビックカメラは7月4日から一部店舗で“遠隔接客”を試験的に実施している。店舗とは別の場所にいる販売員が、売り場のモニターを通して来店したお客に商品説明などをリアルタイムで実施する。一定の効果があったことから、「今後の展開については前向きに検討したい」(広報担当者)という。どのような仕組みなのだろうか。

●“遠隔接客”はどんな感じ?

 「この掃除機を実際に持ってみてください」

 「軽いですね」

 「ありがとうございます。今、どのような掃除機をお探しですか?」

 ここはビックカメラ有楽町店(東京都千代田区)。売り場には40インチ近いモニターが設置されており、女性の姿が映し出されている。モニターの前にはダイソン製の掃除機が並べられており、通りかかったお客に対して販売員が声をかけている。

 販売員がお客の要望を一通り聞きだした後、画面が切り替わり、ダイソンが取り扱っている掃除機の一覧表が映し出された。販売員は「お客さまのご要望に合うのはこのあたりかと思われます」と説明しながら、赤いマーカーで書きこんでいく。また、商品の性能をアピールするため、あらかじめ用意しておいた動画を再生したり、実際に商品を手に取って特徴を解説したりしていた。

 ある程度“脈”がありそうだと判断されたのか、店内にいる“リアル”販売員がモニター前にいるお客に近づいてきた。そして、実際の性能を体感してもらうため、売り場へと誘導していった。

 お客がいなくなると、モニターの中にいる販売員はお客の興味を引くために商品紹介をしたり、タイムセールを実施していることをアピールしたりしていた。モニターの横にはもう一人の販売員がおり、まるで通販番組で展開されるようなやりとりをすることもある。

 販売員の休憩時間になると、自動的に商品のデモ画面に切り替わる仕組みになっている。モニターの横には購入カードが置いてあり、説明の内容に納得したらレジに持って行ってそのまま商品を買うこともできる。

 ビックカメラ有楽町店は都心部の大型店であり、休日ということもあってか売り場の前を通る客の数も多い。遠隔で接客するスタッフは「有人スタッフの補助」「売り場の盛り上げ要員」という位置付けのように見受けられた。

 有楽町店にこのサービスを7月に試験的に導入した結果、1日平均で20人程度の接客をこなした。また、掃除機を1日平均3台販売できたという。この結果を踏まえ、ダイソンは8月以降も遠隔接客を続行するとともに、展開する店舗数を増やすことにしたという。

●遠隔接客の仕組みとは?

 冒頭で紹介したサービスの名称は「えんかくさん」。販売イベントや見本市運営などを手掛けるベストプロジェクト(大阪市)が提供している。同社はこのサービスを複数のビックカメラが運営する店舗で展開し、ダイソンの掃除機をお客にアピールしている。

 ビックカメラとダイソンは、コロナ禍では非対面・非接触での説明を受けたいというニーズがあると考え、遠隔接客の実施をベストプロジェクトに依頼した。ビックカメラにとっては、初めての試みだったという。また、競合であるノジマやヨドバシカメラの広報担当者は、こういった遠隔接客をこれまで行ったことはないと説明する。対面での接客が基本の大手家電量販店では、珍しい取り組みといえるだろう。

 えんかくさんの基本的な仕組みはこうだ。「テレショッパー」と呼ばれる販売員が、複数の店舗の状況を同時にモニタリング。各店舗にはモニターや商品が設置されており、立ち止まったお客に販売員は声をかける。また、商品の情報をお客が知りたいと思ったら、モニターの前に設置されているボタンを押すことで、販売員を呼び出せる。販売員は資料や動画を駆使しながら、画面越しに接客を行う。

 このサービスを利用するメリットは何か。店舗側や販売員のいるスタジオ側に必要な機材(PC、モニター、呼出しスイッチなど)を設置する初期コストや販売員の人件費、システム利用料といったランニングコストの組み合わせによっては、店舗側は1日当たりの人件費を削減できる可能性がある。店舗によっては、接客をしない手持ち無沙汰な時間が発生していることがあるからだ。

 また、スキルの高い販売員の“接客力”を一度に複数の店舗で活用できる可能性もある。現在、販売員は都内のスタジオから接客しているが、将来的には自宅での勤務も想定しているという。

 ベストプロジェクトの上野山沢也社長は、このサービスを考案した背景について次のように語る。

 「もともと、コロナとは関係なくこのサービスの準備を進めてきました。これまでは、体調が悪いという理由で販売員が店舗に来れなくなり、代役を急きょ用意しなければいけないこともありました。また、販売員の数が足りないという問題意識もありました。こういった課題を解決するためには『画面越しに接客すればいいのではないか』と考えたのです」

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、店舗でのサービスに非接触が求められるようになった。また、お客が画面越しに販売員と会話をすることに違和感を抱かなくなったことも、このサービスが一定の効果を出している理由だと上野山社長は考えている。

●遠隔接客のノウハウを蓄積中

 有楽町店での接客を観察していくつか気が付いたことがある。まず、販売員の動きや話し方が全体的に“オーバー”に感じられた。また、定期的に「今、午後2時ですね」「外は暑いですね」といったように、天気や時刻にあえて言及している。

 この点についてベストプロジェクトの担当者は「動きがオーバーなのは、画面越しでも違和感なく接客できるようにするためです。また、時間や天気について話題にするのは、録画したものを流しているのではなく、リアルタイムで配信していることをアピールするためです」と説明する。同社では7月の試験運用中、さまざまな試行錯誤をして遠隔接客のノウハウを蓄積してきたという。

 遠隔接客の取り組みは、物珍しさが先行している面もある。ただ、実際の販売に結び付いているも事実で、ビックカメラの広報担当者は「商品を説明しながらお客さまに動画を見て頂いたりすることも可能であり、接客の幅が広がっている印象です。また、スキルの高い販売員が場所に縛られることなく接客を行うこともできる」と前向きに評価している。

 家電量販店では珍しい遠隔接客の取り組みは、販売員とお客にどこまで支持されるか。