3月11日、NHKは「2050年の国家公務員の働き方は? 若手職員チームが報告」というニュースで、若手の中途退職などが課題となっている霞が関の取り組みについて報じました。

 記事によると、若手チームがまとめた国家公務員の将来像として、「官民でプロジェクトごとに横断的に働くようになる」「省庁間の垣根を超えた異動が行われるようになる」「管理職のポストが公募制になる」「年功序列がなくなる」などが示されています。今後はこの将来像に対する意見を広く募り、働き方の改善に向けた提言が取りまとめられることになります。

 同じように民間においても、若手の意見を聞いて改善に取り組もうとする「若手の声を聞く作戦」はよく見られます。会社内の若手からメンバーを選抜し、プロジェクトチームを組んで意見を出してもらい、その意見を上層部が検討する――という流れです。

 冒頭で紹介した霞が関のケースは、若手の中途退職が課題になっていることから当事者の意見を聞きたい、というのが主な意図のようです。一方、会社が「若手の声を聞く作戦」を実施する背景はさまざまです。多くの会社に共通する主な目的として3点挙げられます。

 1つ目は、斬新なアイデアへの期待です。役員や管理職、ベテラン社員などは豊富な経験があるものの、その経験が仇となり、どうしても先入観でものごとを見てしまう嫌いがあります。若手層は経験が浅い分未熟かもしれませんが、先入観にとらわれることなく柔軟な発想や斬新なアイデアを生み出すことが期待されます。

 目的の2つ目は、社内の風通しをよくすることです。若手層の声を聞く姿勢を一つの象徴的な事例にして、一方的な上意下達ではなく、社員の考えを尊重し、職責や社歴にとらわれず自由闊達に意見交換できる職場環境を整えるのがゴールです。

 最後は、当事者意識の醸成です。会社から意見を聞かれることは、若手層にとって会社全体の視点から施策を考える貴重な機会となります。その経験を通して若手層に視野を広げてもらい、自分自身も会社を支える当事者の一人である、という気付きを促します。

 会社から「これからはあなたたちの時代です。忌憚なくどんどん意見を出してください」と投げかけられると、色んな思いを胸に秘めていた若手社員の心に希望の灯がともります。そして意気に感じた若手社員たちから、実際にさまざまな意見が出てきます。

 しかし残念なことに、多くの会社では「若手の声を聞く作戦」が実を結びません。意見を聞いた経営者や管理職からは、よくこんなせりふが聞こえてきます。

 「貴重な意見をありがとう。検討しておくよ。他にもあったら遠慮なく伝えてほしい」

 その言葉を信じて、若手社員たちは意見を思い付くたびに伝えます。そして、経営者や管理職と話せる機会が増え、これまでより距離が身近に感じられるようになっていきます。

 しかしながら、「検討しておく」といわれてから明確な返答をもらえず、一向に事態は進展しないものの、意見を聞いてもらっていることに一定の満足感があるため、若手社員たちの情熱は次第に冷めていきます。

 一方、意見を聞いた経営者や管理職たちは「詰めが甘い」「頭でっかちになっていて現実性がない」「もっと思い切った意見がほしいのに物足りない」などと、上層部だけが出席する会議の中で若手社員が出した意見の至らない点をあげつらいます。

 やがて月日は流れ、業務に忙殺される日々を過ごす中で、結局は何も変わらないまま、会社が若手層に意見を聞いたこと自体が社内から忘れ去られていきます。若手層に意見を求めたのは会社の方なのに、なぜこのような事態に陥ってしまうのでしょうか。

●若手の声を聞く「裏」の理由

 実は、「検討しておくよ」と回答した時点で、会社側の真の目的はおおむね達成されていた可能性があります。会社が「若手の声を聞く作戦」を実施する背景には、先ほどの3点とは異なる裏の目的が隠されていることがよくあるからです。こちらも3点挙げます。

 裏の目的の1つ目は、不満のガス抜きです。会社の意向と社員の希望とのズレが大きくなると、社内に不満が蓄積していきます。会社は若手層の離脱を防ぐために意見を聞く場を設け、会社が変わろうとする姿勢を示すことで、たまり続ける不満が爆発するのを防ぎます。会社としては意見を聞いただけである程度のガス抜きはできるので、意見を聞いてからどう対応するかまでは重視しません。

 2つ目は、対外的イメージの向上です。「若手の声を聞く作戦」を実施する会社は、風通しがよく、社員を大切にしている印象を外部に与えます。株主や顧客、求職者など会社を外側から見ている人たちのイメージが向上すれば目的は達成されるので、必ずしも社内の風通しを改善するための取り組みを具体的に進める必要まではありません。

 最後は、不満が拡大していくことの防止です。社内で何らかの不満が既に渦巻いていると、会社の悪口が社員の間で繰り返され、不満の輪が広がっていきます。不満の拡大を止めたくても長年不満を蓄積してきたベテラン層の説得は容易ではありません。会社としてくみしやすいのは、新鮮な感覚を残している若手社員たちです。意見を聞く機会を設けてコミュニケーションをとりながら懐柔し、若手社員たちがベテラン社員たちの言葉に耳を傾けにくい雰囲気さえつくれば目的は達成されます。

 同じ「若手の声を聞く作戦」でも、先に挙げた目的の場合は、会社を変えることにつながります。しかし、裏の目的の方は、会社を変えないまま維持することが前提です。そのため、若手の意見を聞く機会を設けてコミュニケーションがとれた時点で、目的はおおむね達成されているのです。

 これまで会社と働き手の力関係は、圧倒的に会社優位でした。会社の意向と働き手の志向にズレが生じた場合も会社側は変わる必要がなく、その都度、働き手に認識を変えさせて対処してきました。働き手は、会社が変わるように見せかけるだけのパフォーマンス主義だと気付いていても、会社の意向には逆らえず、黙って歩調を合わせざるを得ませんでした。

 しかし、そんな会社優位の運営手法が今後も通用するかは分かりません。会社の意向と自分の志向とにズレが生じると、働き手は会社にしがみつかず、離れていく兆候が既に見られます。自己都合退職者が増え続けていると報じられたJR北海道や、50歳以上の幹部社員を対象とした早期退職制度に過去最大規模の3031人が応募した富士通などの事例がそうです。また、冒頭で紹介した記事にある、若手国家公務員の中途退職もその一つだといえます。

 会社と働き手の力関係が徐々にフラットに近づいている背景に、少子化による人口減少が挙げられます。しかし、それよりもっと急激なスピードで直接的に影響を及ぼしているのが、働き手自身の中で生じている意識の変化です。大きく分けて5つあります。

●働き手の「5つの意識変化」

 まず、転職への抵抗感が薄れていることです。新卒入社した会社でコツコツと働き続け、年功序列で勤続年数とともに給料を上げながら定年まで勤め上げる――という典型的なキャリアに縛られない働き手が増えています。今や新卒1年目から転職を視野に入れている人は珍しくありません。

 次に、仕事の選択肢が拡大していることです。長い間、仕事といえば正社員と呼ばれる雇用形態のみが正当な働き方だと見なされてきました。そのため、合法であっても正社員以外の働き方は「非正規」と呼ばれます。しかし、今や非正規と呼ばれる働き方を選ぶ人が4割もいます。中には正社員を希望しているものの、それが叶わず非正規を選ばざるを得ない「不本意型」が相当数いることは問題です。しかし、会社から強い束縛を受ける正社員という働き方を拒み、自ら望んで非正規で働いている本意型の人たちもたくさんいます。

 一言で「非正規」とくくられる働き方も、今や多種多様です。7割はパート・アルバイトですが、契約や嘱託社員、派遣社員のような特殊な雇用形態もあります。また、ウーバーイーツなどに代表されるギグワークも増えてきました。働き手の志向性が多様化していくのに合わせて、仕事の選択肢がどんどん拡大し、正社員だけに縛られない考え方が広がってきています。

 3つ目の変化は副業・兼業の促進です。今や副業・兼業は原則容認が主流で、これからのキャリア形成は、今所属する会社の中で昇格を目指す一本道のルートに限られなくなりました。副業・兼業などを交えながら複数の可能性を追求するマルチキャリアの時代へと移り変わりつつあります。

 4つ目は共働き意識の浸透です。今や全世帯の3分の2が共働きですが、家計を担うバランスは多くの世帯で「夫が主、妻が補助」です。しかし、厚生労働省の令和3(2021)年賃金構造基本統計調査によると、女性一般労働者の21年における月額賃金は01年比で3万1200円増加しています。一方で男性は3500円減少しており、男女間の賃金格差は縮小傾向です。また、政府も会社も女性活躍推進や女性管理職比率向上に力を入れています。社会の流れは、「夫が働き、妻は家庭」という図式から、家計も家事育児も、夫婦が協力し合ってともに担う方向へと進んでいます。

 5つ目は、働き方へのこだわりです。「週3日だけ働きたい」といったこだわりを持って仕事を探す層は、仕事と家庭の両立を希望する主婦層だけに限らなくなってきています。高給獲得より、ほどほどの給料でもやりがいや社会的意義がある仕事を優先したり、副業・兼業やワーケーションを希望したりと、働き方へのこだわり方も多様化しています。

 ここに挙げたような働き手側の急激な意識変化を踏まえると、会社優位の運営手法には限界があることが見えてくるのです。

 冒頭で紹介した記事では、「霞が関の慣習や古いやり方にとらわれず、大胆に自由に勇気を持って提言してくれることを願っている」という、若手チームに対する大臣コメントが紹介されています。

 心強く励まされる言葉だとも感じますが、若手チームの報告にあった内容は、どれも実現させるハードルが高く難しい提言です。そこにあらためて大胆な提言を求めるということは、組織を根本から作り変えるほど強い覚悟がある表われなのかもしれません。しかし、もし提言内容のほとんどが実現しない結果に終わったとすると、パフォーマンス主義の典型だったように見えてしまいます。

 経験が浅い若手層の意見ですから、未熟さがあるのは当たり前です。「若手の声を聞く作戦」を成果に結び付けるには、経営者や管理職が若手の声を尊重し、どうやって実現させるかをともに考え、支援する必要があります。社員が離れていくことを心配する会社が真っ先に取り組むべきは、見栄えのよい施策を次々と生み出すことではありません。会社自身が変わろうとする真摯(しんし)な姿勢を示し、会社優位の運営で染み付いてしまったパフォーマンス主義から脱却することなのです。

(川上敬太郎)