「倒産」「減少」「縮小」「中止」など気が滅入る言葉ばかりが、毎日のようにメディアで報じられるなかで、われわれ日本人が愛してやまないソウルフード「寿司」についても、先週こんなニュースが流れた。

 「すし店の倒産が5年ぶりに増加、小・零細企業中心にコロナ禍の影響大」(東京商工リサーチ 2月17日)

 東京商工リサーチによれば、2020年4月から21年1月の寿司店の倒産(負債1000万円以上)は28件で、これは前年同期比で1.6倍と高水準で推移しており、このペースで進めば、15年度以来の30件台に乗せる可能性が高い、としてこのように結論付けている。

 「従業員10人未満が26件(同92.8%、同17件)と小・零細企業が9割を占め、コロナ禍の影響が資金力の乏しいすし店を直撃している実態が鮮明となった」(同上)

 そう聞くと、「コロナ倒産」という重苦しい文字が脳裏によぎって、暗い気持ちになる方も多いだろうが、個人的には、言うほどネガティブに捉える数字ではないと考えている。

 むしろ、これはコロナ禍のなかでもたくましく生き残っている「寿司店」の強みが浮き彫りなっている数字であり、日本経済復活のヒントにもなるような「前向きな話」とさえ思う。

 なんてことを口走ってしまうと、「小・零細企業が倒産の何が前向きだ!」とか「資金難で苦しむ飲食店の辛さを知らないのか! 謝罪して撤回しろ!」というお叱りの声がじゃんじゃんきて吊(つる)し上げられそうなので、はじめに誤解を解いておきたい。

 まず、筆者は「小・零細企業の倒産」が喜ばしいことだなどと言っているわけではない。町の小さなお寿司屋さんに限らず、すべての小・零細企業が倒産することなく、いつまでも事業が続けられることがいいに決まっているのは、当たり前だ。

 ただ、一方で世の中には、ビジネスモデルに致命的な欠陥があったり、時代の変化に対応することができずに廃業に追い込まれる小・零細企業も必ず一定数出てくる。デフレが悪いわけでも、政治が悪いわけでもなくごくシンプルに、経営者の資質がないとか、企業としての競争力がないことで倒産する小・零細企業が存在するのだ。寿司業界の場合、そういう残念な倒産が、コロナ禍の割に爆発的に増えていないことが「前向きなニュース」だと指摘しているのだ。

●寿司業界は危機に強い

 今回の倒産件数とともに、東京商工リサーチが出した「すし店の倒産年度推移」を見てみると、01年の43件から05年の51件、11年の40件、12年の41件などと10年以上、30件以上が当たり前で推移してきた。それが13年の27件からはやや低くなってこの7年間が30件以下が続いてきた。

 つまり、もし20年度の倒産件数が最終的に30件を超えてしまっても、この20年間の推移のなかでは、それほど驚くような数字ではないということなのだ。

 コロナ禍という人類が直面したことのない未曾有(みぞう)の危機。しかも、政府や自治体の飲食店支援が不十分だと言われているにもかかわらず、倒産件数を30台で抑えていることは、見ようによっては「寿司業界は危機に強い」とも言えるのだ。

 もちろん、これは個々のお店が血の滲(にじ)むような努力をされた結果であることは言うまでもない。倒産していなくても、売り上げが激減して、従業員の給料も払えないほど経営が苦しい寿司店もたくさんいるだろう。

 しかし、その一方で、「高級鮨が盛況! 高額品が売れる“プレミアム消費”」(テレ朝ニュース 2020年12月27日)というニュースでも扱われているように、海外旅行などに費やされていたお金が入ってきたり、コロナで新客が獲得できたりという寿司店が存在するのも事実だし、過去最高売上を叩き出したスシローのようにデリバリー路線を強化したことで、好調に推移している寿司店もあるのだ。

 そのような意味では、サラリーマンが夜の街から消えて大打撃を負っている居酒屋、クラブ、キャバクラなどの業態より、遥かに「危機」に対応できている店が多いのだ。

●日本経済復活のヒント

 では、そんな寿司業界の強さが、なぜ「日本経済復活のヒントになる」のかというと、「小規模・中小企業の減少」が急速に進行しているのに、市場規模も緩やかに増加するなど堅実な成長を遂げているからだ。

 ご存じのように、人口減少、少子高齢化がすさまじいペースで進行している日本では、「小規模・中小企業の減少」が大きな課題だ。

 これは「下町ロケット」的な世界に誇る技術力があるとかないとか、日本の職人文化うんぬんという話ではなく、ごくシンプルに労働人口と、国内市場が急速に縮小しているからだ。それを解決するのがDXだ、ロボットだ、AIだという話になりがちだが、ロボットやAIは酒も飲まなければ、食事もしないし、服も買わない。「消費」をしないのだ。

 そういう内需縮小国で、最も苦しい戦いを強いられていくのが、小規模・中小企業であることは言うまでもない。実際、1999年には483万あった小規模・中小企業は、2016年になると357万社と、17年間で126万の事業者が消えている。

 日本商工会議所なんかに言わせると、これが日本の地方経済を衰退させている「元凶」なのだという。

 小規模・中小企業が減ると、そこで働く人たちが路頭に迷うので、地方の経済は大打撃を受ける。だから、とにかく小規模・中小企業を倒産させてはいけない。労働者の賃金はできるだけ低くなくてはいけないし、小規模・中小企業が喜ぶ優遇策や助成金をじゃんじゃん出すことが、日本経済復活の第一歩――。というわけで、日本ではこの半世紀、小規模・中小企業の「保護政策」が続いてきた。

 しかし、ご存じのように日本経済はさっぱりだ。小規模・中小企業をどんなに手厚くサポートしても、賃金を先進国でありえないほど低い水準にビタッと定着させても、生産性が低下するだけで、東京など一部の都市部を除いて、地方経済はどこも疲弊している。

 つまり、日本商工会議所が地方経済の衰退の「元凶」だと主張する「小規模・中小企業の減少」を食い止めても、残念ながら日本経済的にそれほどいい効果が出ていない。むしろ、「悪化」している部分もあるのだ。

●答えは「寿司業界」に

 では、どうすればいいのか。その答えが、「寿司業界」にある。

 先ほどから申し上げているように、寿司は「危機」にも強いし、ポテンシャルもあるので、やりようによっては内需縮小に対応できる。しかし、一方で長きにわたって深刻な「小規模・中小企業の減少」が進行してきた業界でもあるのだ。

 総務省「平成16年事業所・企業統計調査」によれば、2001年(平成13年)の寿司店の事業所数は3万9539で、そのうち70.5%が個人経営だった。

 元気寿司やかっぱ寿司などで一部チェーンもあったが、まだこの時代、寿司屋といえば「町の小さなお寿司屋さん」が主流だったのだ。

 しかし、時代はゆっくりではあるが確実に変わっていく。04年(平成16年)になると事業所数は3万4877に減少し、個人経営は68.9%となる。そして、総務省「経済センサス」によれば、09年(平成21年)の寿司店の事業所数は2万8865で個人経営は63.8%。さらに、14年(平成26年)には、2万4069にまで減少して、ついに個人経営は6割をきって59.7%にまで落ち込む。

 いわゆる「回転寿司4強」時代の到来に向けて、「町のお寿司屋さん」の大淘汰が進行していたのだ。

 現在、回転寿司業界は、スシロー、かっぱ寿司、くら寿司、はま寿司という大手チェーン4社の売り上げで市場の7割以上を占めているが、この勢力図が完成するまで、「地場の回転寿司チェーン」がバタバタとなぎ倒されていった。業界の統合・吸収が進んだのだ。

 それは「町の小さなお寿司屋さん」にも無関係ではなかった。日本全国のロードサイドや大型商業施設に「回転寿司」が乱立すれば当然、競争力のない店は淘汰されていってしまう。

●現実はまったく「逆」

 そんな「小規模・中小企業の減少」に歯止めがかからないこの状況で、寿司業界はどうなったのか。日本商工会議所の主張では、失業者が溢れかえって、地方経済にも悪影響を及ぼしているはずだが、現実はまったく「逆」である。

 まず、失業者が増えるどころか、小規模・中小企業が減る前よりも多くの雇用を生み出した。

 「平成16年事業所・企業統計調査」によれば、「町の小さな寿司屋」が全国4万に届く勢いで乱立していた01年、寿司業界で働いていた従業者数は23万4069人だ。そこから「町のお寿司屋さん」の大淘汰が始まって4割減少した14年の従業者数は、25万822人だ。要するに、寿司店の経営者が約1万5000人減った代わりに、1万5000人の新たな雇用が増えているのだ。

 では、なぜこんな現象が起きるのかというと、事業者の規模が大きくなったことによって、寿司市場全体が大きく成長したからだ。日本フードサービス協会によれば、寿司市場全体は右肩あがりで成長しており、18年の市場規模は1兆5497億円と、過去最高を記録した。

 大手チェーン4強時代が到来して、「地場の回転寿司チェーン」や「町のお寿司屋さん」がなぎ倒されることで、確かに一時的に失業をする人がいたことも事実だ。が、その代わりに大手チェーンが牽引して、寿司業界全体を活況させたことで、新たな雇用も生み出しているのだ。

 そこに加えて、賃金や待遇が向上した。

 飲食業界の賃金が低いのは個人経営のお店が多いからであることに、異論はないだろう。「町のお寿司屋さん」を支える職人の世界は厳しい徒弟制度なので、「修行」にはほとんど賃金が払われない。技術を習得するため、残業や時間外労働は当たり前。寿司業界を目指すことは、ブラック労働を受け入れることと同義だった。

 しかし、時代は変わった。スシローがWebサイトで「高待遇の証明」として、「平均年収605万円」を掲げ、くら寿司が年収1000万円で新卒を募集をしたように、大手が増えたことで、寿司業界としても賃上げに取り組むべき機運が高まっているのだ。

●経営者を救うか、労働者を救うか

 また、世界への発信力が上がった。

 スシローは2020年5月時点で、韓国12店舗、台湾16店舗、シンガポール3店舗、そして香港に4店舗を展開している。くら寿司も海外展開を加速させており、米国、台湾に続いて中国にも進出するという。このように大手チェーンが海外市場に進出すればするほど、日本の「sushi」のPRになることは言うまでもない。

 中国や韓国の企業が展開する「sushi」よりも、日本の寿司文化を正しく知れば、いつか海外渡航が解禁された時の訪日客にもつながる。この恩恵は大手チェーンだけではない。訪日した際には、「回転寿司じゃない寿司も食べてみたい」と「町のお寿司屋さん」にも足が向くかもしれないからだ。

 このような「寿司業界」の20年の変遷を振り返ると、「小規模・中小企業の減少」は悪いことで、彼らの倒産はとにかく避けなくてはいけない、という日本の経済政策に疑問を抱かざるをえない。

 競争力のない事業者などさっさと潰れてしまえばいい、といういわゆる「ゾンビ企業淘汰論」を主張したいわけではない。ただ、個人経営者が十数年間で4割も減少した寿司業界で、市場規模の拡大が起きて雇用が増加して、賃上げの動きが進んでいるのも紛れもない事実だ。また、その結果として、労働者だけではなく、われわれ消費者ひいては社会全体のメリットにもつながっているのも否定できない。

 大手回転寿司チェーンは、豊富な資金力でサイドメニューの開発や非接触システムなど次々と新たな取り組みを進めている。厳しい競争を生き残っている「回らない寿司」のチェーンや個人経営店も、回転寿司にはないネタの鮮度や職人技に磨きをかけ、さらに質のいい寿司を消費者に提供している。

 ちなみに、「町の小さなお寿司屋さん」が激減して、回転寿司が増えていくことに「あんなまずいものは本物の寿司じゃない」とかなんとか文句を言う人も多いが、そもそも寿司というのは、職人の顔色をうかがって緊張しながら食べるような高級料理ではなく、庶民が手軽に食べられるファストフードだった。そういう意味では、回転寿司は「寿司の原点」と言えなくもない。

 「小規模・中小企業の減少」は、経営者の視点に立つと「日本衰退の兆候」だが、労働者や市場全体、そして消費者にとっては悪いことだけではない。むしろ、プラスも多いのだ。

 日本が避けられない「小規模・中小企業の減少」という問題は突き詰めていくと、「経営者を救うか、労働者を救うか」という問題に集約される。コロナ禍の今だからこそ、寿司業界をヒントに日本の進べき道を考えてみたい。

(窪田順生)